「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第143話 成長戦略の選択肢
成長戦略の選択肢をいくつ持っていますか?
「当初考えていた設備投資以外にもやるべきことがあるかもしれません。」
中規模金属表面加工メーカー、経営者の言葉です。5年先、10年先を見据えて、事業を成長させようと、その経営者は積極的に現場へ働き掛けています。
現場活動のきっかけ作りや業務評価と給与体系の連動、工場長やスタッフへの権限移譲など現場の動機づけに知恵を使っている経営者です。
工場長やスタッフのリーダーシップ強化で現場力の底上げを図りたいとのご相談をいただき、ご指導に着手しました。
ポテンシャルの高さを感じる現場だったので、経営者の想いをわかりやすく伝え、浸透させれば、現場力のステージアップはできると判断しました。
そこで、経営者の想いを数値で表現し儲けの見える化を新たに取り入れて、生産性を高める取り組みに挑戦したのです。昨年後半から、成果を実感できる出来事が出始めました。
そのメーカーには受注が集中する特定の時期があります。従来、能力オーバーの分はやり切れなくなり、やむなく受注を断っていたとのこと。
経営者は以前より、お断りをすることなく、依頼された仕事は全てこなしたいと考えていました。そうして昨年も、その時期になると、例年のように、どんどん受注が届き、能力のピークに近づき・・・・・。
例年とは異なり、昨年はやりきることができたのです。
ピーク時の能力が20%高まったことになります。瞬間風速ですが、生産性向上20%です。インプットは変えずに、アウトプットを20%UPしました。工場長やスタッフが主導するリーダーシップのもとで、現場が力強い連携力を示した結果です。
その経営者も現場の意識が底上げされていることを感じています。仕事に関連して、現場の各所で、作業者同士、リーダー同士が言葉を交わしあいながら仕事を進める姿を目にする機会が増えたからです。
生産性向上によって現場のポテンシャルがさらに高まりました。そして、経営者が手にできたのは、成長戦略の別の選択肢です。
当初は、設備投資による新製品開発を、成長戦略の柱としていました。新たな設備で新製品を開発し、既存顧客や新規顧客へのアプローチを積極的に進めようと考えたのです。キモは新製品開発にあります。
しかし、昨年来、既存ラインで製造する既存製品の生産性が高まってきました。
既存設備をもっと生かすことができないか?既存技術、既存製品を深堀して事業を成長路線へ導けないか?新たな成長戦略の選択肢を手にした経営者は新製品向けの設備投資だけでなく既存設備を大いに生かすことも考え始めました。
既存設備の生産性向上で得られる成果物は多様です。
弊社でしばしばお話ししているYタイプの生産性向上では、新たな価値を創出するための余力を生み出します。5人で100個の製品を作っている現場が、4人で100個作れるようになったら、1名を将来投資の仕事へ回せるのです。
また、インプット一定でも、生産性向上による付加価値額の積み上げができれば、直近の利益を拡大させられます。
そして、戦略的な観点で注目したいのは、成長ベクトルの選択肢が増えることです。
成長戦略は製品と市場で説明できます。
・既存製品を新市場へ投入する「市場開発」戦略
・新製品を既存市場へ投入する「製品開発」戦略
・新製品を新市場へ投入する「多角化」戦略
「多角化」のリスクは大きいですから、まずは、「市場開拓」か「製品開発」を考えることが多いのではないでしょうか?
先の経営者も設備投資で新たな製品を生み出そうと考えました。そして、既存顧客へ提案をして1社当たりの売上高を伸ばす作戦を練っていたのです。
顧客との信頼関係は構築済ですので、顧客も新たな挑戦を歓迎してくれることも多く、こうした戦略を用いる皆さんも少なくないでしょう。
伊藤が自動車部品の開発に関わっていた頃の仕事の進め方もそうでした。
ただ、「市場開発」にしても「製品開発」にしても、新たなことに挑戦するわけですから、失敗のリスクはゼロではありません。そこで、上記以外の戦略にも注目です。
・既存製品を既存市場へ一層強化して投入する「市場浸透」戦略
コア技術の深耕で付加価値額を積み上げます。固有技術と管理技術で構成される貴社のコア技術を、これでもか~っというくらい磨き上げるのです。コア技術では固有技術にのみ目を奪われがちですが、管理技術にも注目しなければなりません。
中小製造現場の強みはその柔軟性や機動性にあります。強みの源泉は人であり、1+1を3や4にするのは、ひとりひとりの想いです。
火事場の馬鹿力はどうやって発揮されるか想像をすれば納得できます。ここ一番のとき、職場の仲間や上司、社長の顔が浮かぶことで、もうひと踏ん張りが促されるのです。
こうしたひとりひとりの”ひと踏ん張り”が積み重なって、火事場の馬鹿力が発揮されます。
先の現場でもそうでした。瞬間風速ですが、生産性を20%向上させたのは連携力によります。現場力の底上げを図りたい経営者の意向を踏まえ、現行の生産設備をしゃぶりつくしませんか?という現場への声掛けで現場活動をスタートさせました。
納期のみを生産活動の基準としていた現場へ新たに生産性の指標を導入し、継続的な頑張りを促したのです。
健全な、納得性のある数値目標を掲げれば現場は頑張ります。儲けの積み上げを見える化し、日々の生産活動で達成感を感じられるようにしたのです。
詳細はセミナーやご指導でお伝えしていますが、固定費VS付加価値額をベースにした積み上げグラフが現場に数値へのこだわりをもたらします。価格力を構成する固定費回収基準の水準を高めながら、付加価値額生産性向上を目指すのです。
既存の設備と人員でどこまでやれるかを追求するとその現場独自の仕事のやり方がどんどんできあがり、定着していきます。
現場リーダーによる参謀会議が定着した、定期的な社長への生産実績報告をやり始めた、工場長と現場ひとりひとりとの面談をはじめた。。。
先の現場でも、属人的ではなく、組織的に仕事をして成果を出す経験を積み上げ始めました。こうした新たな仕事のやり方が○○ウェイを形成します。
既存製品を既存市場へ投入する「市場浸透」戦略でやることは、現行の人員で現行の生産設備をしゃぶりつくすことです。付加価値額生産性を高める取り組みが結果として「市場浸透」戦略につながります。
生産性向上につながる新たな仕事のやり方から○○ウェイが構築され、現場力の底上げが図られます。
その結果、既存顧客からの突発的に大量の受注を受けても。しっかりとこなせるようになるかもしれません。た安全と品質の水準を高める、それと同時に圧倒的な短納期サービスも提供できるかもしれません。先の経営者も既存設備を活用して、こうしたことを考え始めました。
設備投資は豊かな成長を実現させる手段のひとつです。ただし、リスクも伴います。その点、コア技術の深耕は、もともと使い慣れた設備が対象です。見通しも立てやすいです。
豊かな現場、豊かな工場をつくるのに成長戦略は欠かせませんが、製品開発や市場開発に焦点を当てる前に、やれることがあります。
現行の生産設備を現行の人員でしゃぶりつくすことです。まずは現行の設備と人員でどこまでやりつくせるか、その生産性の限界を極めます。そうして既存製品、既存市場を深堀りするのです。
チームの連携力にまだまだ伸び代がある中小製造現場ならではの戦略です。結果として、成長戦略の選択肢が増えます。
・成長する現場は、自分たちの職場を磨き続けて戦略の選択肢を増やす。
・停滞する現場は、仕事のやり方を変えずに戦略の選択肢を限定する。
現行の生産設備を現行の人員でしゃぶりつくす仕組みをつくりませんか?