「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第144話 利益への貢献

現場活動が定着していますか?

「5S活動を継続しようとしたら、勘弁してほしいとの声がリーダーから返ってきました。」

個別相談をいただいた中堅製造企業経営者幹部の言葉です。

 

中小製造現場が生き残りをかけて真剣に取り組まなければならないテーマがあります。生産性向上と人材育成です。継続的な現場活動が求められます。

そして、現場活動は、自主的に取り組む文化や風土がなければ、定着しません。なぜなら、現場活動の狙いは「従来の仕事のやり方を変える」ことにあるからです。

 

「ヤラサレ感」がタップリな現場で、自主的に「変える」ことを期待しても、それは酷というものです。「納期遵守」以外にもやらなければならない仕事があると、気付かせる必要があります。

生産性向上活動には事前準備が必要なのです。組織的な仕事ができるチームの整備からスタートします。組織で仕事をして、組織で成果を上げる訓練からです。小さなテーマでもかまいません。まずは、組織的な成果を体感するところからです。

 

先の現場では、そうした目的を持って5S活動に着手しました。推進チームをつくり、テーマを決め、ビフォアーアフターで成果を見える化して、1年間、活動を継続させたのです。

「納期遵守」ができているから自分たちには問題はないと思い込んでいる現場も少なくないなか、経営者の想いを理解して、新たな業務を取り込み、1年間やり切った現場は見事です。

 

リーダーや各工程のキーパーソンが主導した成果であり、組織で結果を出すことができました。成果を実感した経営者は、5S活動の継続を期待したわけですが、現場からの反応は冒頭にあるように意外なものだったわけです。

そこで、次のようにお尋ねしました。

「活動成果が利益にどれくらい貢献しているか見えるようにしていますか?」

 

 

 

 

 

中小の現場はもともと少数精鋭です。突発・特急案件もあり、目まぐるしく計画が変更される生産現場で、納期遵守を必死にやり切ろうとしています。

常に一定量の仕事が見込めるなら、それをしっかりやり切ることが収益確保につながります。こうした状況で求められるのは「納期遵守」です。

 

ただ、一定量の仕事を特定の顧客、親企業に依存して確保する事業形態は、昨今、リスクが高いと言わざるを得ません。

5年先、10年先を見据えて持続的な成長を遂げるには、変化に対応できる事業形態を探求する必要があります。多品種少量、変種変量、マスカスタマイゼーション、マスラピッド生産などなど。

 

従来の仕事のやり方だけを継続していると、早晩行き詰まるのは明らかです。「納期さえ守っていれば」という思考回路のみでも、これまでは十分に儲けられました。

が、今後、それだけでは不十分です。モノづくりが高度化、複雑化していくなか、生産性向上や人材育成にも取り組まなければ生き残れません。

5S活動は「生産性向上」の視点を持ってもらうきっかけとなります。「納期遵守」以外の観点で、組織的に成果を獲得する活動だからです。

 

 

 

 

 

先の現場は、組織で活動して成果を出す段階をクリアしたようです。ここからは活動を定着させ、継続させる段階に入ります。

そこで経営者がやらなければならないことがありました。5S活動を含めたあらゆる現場活動を定着させ、継続させるのに欠かせない論点です。

それは活動成果と利益(あるいはキャッシュ)との紐づけです。

 

チームのため、会社のために自分が役に立っている感覚(有能性)はやる気を引き出す項目のひとつであり、現場の動機づけでは忘れてはならない要点です。

5S活動に着手した時点では、5S活動そのものが目的でした。組織で仕事をして、組織で成果を上げる経験を積み、現場活動の意義を知ることが第一義だったので5S活動それ自体に価値があったのです。「強制的」にでもやらせる必要がある段階でした。

 

そして活動のやり方を理解し成果を認識できるようになると、現場の姿勢も変わります。”5Sが目的”では、生産活動以外の業務が”加わる”感覚に陥ってしまうのです。

もともと少数精鋭で生産活動に汗をかいているわけですから、忙しい業務の合間を縫いながら継続する現場活動に何か”大義”を感じなければやり続ける気持ちが沸きません。

 

現場活動自体を”負担”と感じるようになり、「勘弁してほしい」との声も上がってきます。目的がはっきりしない理不尽と感じる業務が「ヤラサレ感」の原因です。

ですから、業務は全て、経営者の想いや企業が目指すモノと連動している必要があります。そこから仕事に打ち込む”大義”が生まれるのです。

 

そして、職場での”大義”、それは”儲けを積み上げる”こと以外ありません。ですから、儲けるためにやっているのだ、というこの単純にして明快な目的を現場に分かりやすく伝える必要があるのです。

そうして、”大義”を果たす活動を通じて、作業者ひとりひとりが自己成長を実感できれば、成長と発展を志向したプラスのスパイラルが生まれます。

そこで、現場活動を経営課題解決の手段としたいのです。ですから、活動成果を儲けと連動させます。

 

先の現場も同様です。5Sの成果がどう利益へ貢献するのか、これを現場へ明らかにすれば現場は頑張ります。

生産活動の効率を高めて、利益を楽に出す道具として5Sを活用するのだという感覚を共有したいのです。”5Sは手段”という状況をつくるのです。

 

 

 

 

 

趣味で英語を習うのと、米国転勤を命じられて英語を習うのとでは気合の入り方は全く異なります。なぜか?

後者の英語は仕事の道具であって、ここに問題があると業務が上手く回らず困った状況に陥ることが想像できるからです。

 

英語が目的化しているのと、手段化しているのでは学び方も学ぶ姿勢も変わってきます。転勤先で困らないように・・・と具体的な状況を想定した学習のほうが成果も出やすいのです。

5S活動は利益を出す手段なのだ、利益が出ないと困った状態に陥るので、それならば手段を磨いて利益への貢献度を高めようと現場が考えるようになればしめたもの。

経営者は利益へ貢献するやり方を現場へ教えなければなりません。これが現場活動を定着させ、継続させる要諦です。

 

 

 

 

 

儲かる工場経営では、将来投資型固定費戦略を展開していきますが、ポイントは継続的な付加価値額の積み上げです。

そして、付加価値額積み上げの最大の原動力は価格であり、儲かる価格を設定するやり方がキモとなります。

したがって、「利益への貢献度を高める」は「儲かる価格を設定しやすい状況に変える」と言い換えられます。

 

詳細はセミナーやご指導でお伝えしていますが、価格設定では@変動費と@付加価値額を設計します。

儲かるためには儲かる価格設定が不可欠で、儲かるための@変動費と@付加価値額が設定できなければなりません。

 

そして、@変動費と@付加価値額を実現させるのは他でもない現場です。したがって、@変動費と@付加価値額から導き出される各種指標は現場の管理項目となります。つまり、これらは現場活動のカイゼン対象です。

5S活動をはじめとした現場活動の成果を@変動費と@付加価値額から導き出される各種指標に当てはめて利益への貢献度を計測します。

 

 

 

 

 

現場活動では@変動費と@付加価値額と連動した各種指標で利益への貢献度を明らかにしてください。5S活動が付加価値額を積み上げる手段であることへの気付きを促します。

そうすれば現場活動は自然と定着します。現場も楽に仕事ができるのに加えて、成果も上がるのですから当然です。

現場活動を手段化することがカギです。現場の自主性が促されます。

・成長する現場は、5S活動の目的は利益を生み出すことにあると考える。

・停滞する現場は、5S活動は納期遵守に無関係なのでやる意味がないと考える。

現場活動の経過を利益と連動させる仕組みをつくりませんか?