「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第157話 公の場

定期的にチームで言葉を交わし合う「公の場」がありますか?

 

「仕事のつながりが出来上がってきました。」

中小素材加工企業、工場長の言葉です。工場長は、自分の指示が現場へしっかり伝わり、そして実行されていることを実感しつつあります。

工場長の言う「仕事のつながり」とは、現場とのコミュニケーションを密にする仕組みのことです。

 

現場生え抜きで、優れた技能を持っているその工場長は、現場からの信頼も厚く、現場との意思疎通で問題があるようには感じられませんでした。

しかしながら、指示が的確に伝わっていなかった等の理由で、業務上のミスも散発していたのです。工場長は、現場との意思疎通のやり方が属人的であることに気付いていました。

 

そこで、情報伝達の精度を高めなければならないとも考えたわけです。「仕事のつながり」を確実にするため、それを仕組み化することを考えました。

具体的には下記を定着させたのです。

・現場リーダー(7名)との毎月1回のミーティング

・3ヶ月に1回の現場リーダーとの個別ミーティング

・現場リーダーのうち主要メンバー(現場リーダーのリーダー)との日々ミーティング

 

 

 

 

 

中小製造現場の工場長の多くが、現場とのコミュニケーションに腐心しています。その工場長も同じです。そうした工場長に率いられたチームですから、もともと相互に協力し合う意識は低くありません。

それでも、上記の場を設定すると、相互理解が深まり、業務上のミスも減ってきました。

 

工場長は、日頃から、現場で、現場リーダーや作業者と言葉を交わすことに心を砕いていました。冗談を交わしながら、気軽な雰囲気で声を掛けている姿を目にします。

立ち話に加え、「公の場」で言葉を交わす効果も実感しているようです。

 

工程間連携のような、現場での立ち話による気軽なコミュニケーションの重要性は当然のことですが、「公の場」で言葉を交わす場の役割も小さくないのです。

先の工場長は、下記のようにも語っています。

「ミーティングの場では、立ち話の時とは、また違った意見が出てきますね。特に個別ミーティングの時などはそうです。」

 

 

 

 

 

製造現場であつかう情報は2種類に分類できます。

・伝達を目的としたフロー

・蓄積を目的としたストック

 

製作手配や作業指示はフローに着目した仕組みです。また、生産統制の資料管理はストックを目的とした仕組みと言えます。工程会議や生産会議、品質会議は両方の情報を扱っていると言えるかもしれません。

情報の2面性を理解し、「公の場」を設定します。

 

フローは鮮度が命です。漁船が釣り上げた魚は1日でも早く、消費者へ届けたいと考えます。鮮度が落ちた魚は喜ばれません。情報も同じです。

ですから、「公の場」を開催する頻度がキーとなります。

 

ストックは積み重ねて、そこから新たな知恵を生み出すことが狙いです。現場の持つ経験や知識をノウハウに変換する仕組みとも言い換えられ、日本酒や味噌のように寝かせて、じっくり置いて、新たな価値を生み出します。

この場合、「公の場」で議論するテーマがキーです。

 

先の工場長は、定期的なミーティングを現場に定着させて、フローの精度を高めるとともに、現場リーダーから多様な意見を引き出しています。

工場長は、当初、現場リーダーとの個別ミーティングの必要性をそれほど感じていませんでした。

 

日頃から会話を交わしているからです。改まって話したからと言って、新たな話が出てくるとは思えないと、せいぜい10分程度で済ませようと考えていたところ・・・。蓋を開ければ、1人当たり短くても30分、長ければ1時間以上のミーティングとなったのです。

 

忙しい業務の合間を縫って、30分程度、チームが詰め所に集まり、コーヒー片手に一息つきつつ、意見交換や議論を重ねれば、知恵やノウハウの共有に繋がります。

また、個別で、顔と顔とをつきあわせて話をすれば、日頃は言いにくいことでも話しやすい場ができるはずです。

 

定期的にそうした場を持てば、チームであれ、個別であれ、そこで積み上げられた情報が化学反応を起こし、新たな解決策を生み出します。

情報のストックを生かせる場では、相互理解が深まり、必然的に、情報伝達、フローの精度も高まるのです。価値観の共有が根底にあります。

 

 

 

 

 

伊藤が自動車部品の工場で、技術開発に携わっていた時のことです。ある新技術開発のきっかけは、品質を議題としていた週1の会議でした。情報のストックを共有する中で、技術開発の糸口を見つけた経験があります。

蓄積された情報が、新たな価値を生み出しました。コミュニケーションの密度も高まり、定期的にチームが集まって、顔をつきあわせる場の重要性も体感したのです。

 

ちょっとした立ち話をはじめとした現場での活発なコミュニケーションは、情報伝達の基本となります。ただ、それだけでは不十分です。

言葉を交わす「公の場」も設定して、情報のストックから新たな価値を生み出して下さい。立ち話だけからは出てこない現場の意見も出てくるはずです。

 

言葉を交わす「公の場」があれば、チームの相互理解が深まって、結果として、フローの精度も高まります。信頼関係が構築されるとも言えそうです。

議論や検討もひとつのスキルです。そうしたスキルを高める場にもなります。文句や不平不満を言っているだけでは問題は解決しない・・・ということに現場も気付くはずです。

 

・成長する現場は、情報の蓄積から価値を生み出すやり方を知っている。

・停滞する現場は、情報の蓄積すらできない。

コミュケーションを密にして、現場同士の信頼関係を高める仕組みをつくりませんか?