「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第214話 全社で共有するべき人時生産性向上のやり方とは?
「傾きを理解して意識できたチームが、傾きをぐっと上げてくれました。」
消費者向け商品を製造している素材加工メーカー経営者の言葉です。
取り組みも2年目となりました。成果の刈り取りが始まっています。付加価値額人時生産性を高める2つの取り組みを着実に進めているところです。
経営者は自社商品を市場へ問いかけ続けています。それと平行して、現場に仕掛けをつくりながら作業者へも働きかけています。人時生産性を高める勘所を理解している経営者です。
経営者の働きかけに対して、現場も感度良く、建設的に行動しようとしています。外の活動と内の活動の両輪が上手く回っている現場活動です。
経営者は現場活動の成果を商品別人時生産性向上で認識しています。冒頭の言葉です。
中小製造企業の生き残りのカギは人時生産性向上にあります。現場は少数精鋭だからです。
「規模の経済」戦略はあり得ません。仕事の濃さで勝負です。その濃さが人時生産性となります。濃ければ濃いほど良いのが生産性です。
では、なぜ生産性を問わなければならないのか?
それは、生産に投入できる「総工数」に制約があるからです。
製造業では売れる物の生産量を増やせば儲かります。ただし「総工数」が制約となっているのです。
小売業では売れる物の仕入量を増やせば儲かります。仕入先の供給能力という論点はありますが、製造業の制約と比べれば緩やかです。
したがって、製造業では常に生産能力、儲けの観点で表現すると付加価値額人時生産性が議論の対象となります。
人時生産性の定義は下記です。
付加価値額人時生産性=付加価値額÷工数(人時)
そして、工数と付加価値額の相関図、つまり手間暇と儲けの相関図をプロットしたとき、原点とつないだ直線の傾きが人時生産性となります。
生産性は分数で表現されるので、それを高めるには、下記2つをやればいいわけです。
1)工数を削減する
2)付加価値額を積み上げる
手間暇と儲けの相関図において、生産性向上は傾きの増分で表現されます。
工数削減の主役は現場です。作業者一人ひとりが知恵を絞ります。
1)自分が担当している工程内で仕事の見直し
2)工程と工程の間での仕事の見直し
工程内と工程間が工数削減の対象です。したがって成果を上げるにはチームの連携が欠かせません。モノづくりが高度化、複雑化しているからです。
一人でできる仕事はたかが知れています。工数削減活動がどれだけ活発に展開されているかどうかは現場の一体感次第です。
先の現場では、2、3名のチームで成果を上げたと経営者が説明してくれました。成果を数値で見える化しています。見えればチームとして、やる気が湧くものです。儲かる現場ではチームが機能しています。
ただし、人時生産性向上を現場活動だけで達成するのが、難しい時代になりました。さばききれない受注量がある時代なら、経営者も現場と一緒に内の活動に専念していても間違いではありません。黙っていても「つくってくれ!」とお客様にお願いされるわけです。
しかし、黙っていては受注がこない、あるいは主要なお客様からの受注も減りつつあることが日常的になってきた昨今、意思を持って、付加価値額を積み上げる活動の重要性が高まっています。
工数を削減して生産性を高める場合、その工数削減をずっとできるわけではありません。大きな成果を上げてから、さらに成果を出そうとしても、簡単に工数削減はできないのです。
ダイエットも同じです。
100kgの人が60kgまで減量したとします。ここからさらに頑張って40kgまで減らそうとしても、簡単にできるものではありません。かえって不健康になります。
つまり、工数削減はいつかは限界に達するのです。設定した適正工数に達成したら、現場の役割は削減ではなく、再現性の管理に移ります。
分母を小さくするのには限界があります。したがって、付加価値額の積み上げによる人時生産性向上が究極です。
では、なぜ、付加価値額の積み上げが究極の手段となり得るのか?
それは積み上げる付加価値額の原資は全て外部にあるからです。経営者が野望を持って、開拓に挑めば、いくらでも拡大できます。
経営者の目の前には広大無辺な未知の市場が広がっているのです。付加価値額の積み上げに制約はなく、青天井です。制約があっても、設備投資や外注で解決できます。
人時生産性向上活動は、2つの取り組みを連動させます。
1)現場のチーム力による工数削減・・・分母を小さく
2)経営者による新規付加価値額の積み上げ・・・分母を大きく
経営者は1)の取り組みを現場に任せます。その仕組みをつくるのです。経営者が現場と1)をやっているようでは、先行きがくらいです。
経営者は外の活動に時間を割きます。
コロナ禍で大幅な売上減に直面している経営者は少なくないです。
ここで企業の姿勢が問われます。コロナ禍で需要が縮小しているからどうしようもないと考えていませんか?
これではアフターコロナを生き残れるかどうか、厳しいと言わざるを得ません。何かあれば、景気が悪い、外が悪いと考えているようでは埒があきません。
経営者がこうした思考回路なのです。現場も同じ思考回路を持ちます。注文が少ないのはどうしようもないことだと他人事です。
競合や同業他社を見渡してみて下さい。全ての企業がコロナ禍の影響で収益を減らしているでしょうか?
売上を維持できているところ、売上減だけれども利益を確保しているところ・・・こうした競合や同業他社はありませんか?
弊社がご一緒に仕事をさせていただいている企業様も同様です。先手を打って動いていた企業様は元気です。新たな付加価値額を積み上げる戦略の有無が差となって現れています。
儲かる工場経営の要諦は「顧客に選ばれる製品を効率良くつくること」にあります。効率の良い現場があっても、そもそも、つくるものがなければ、どうしようもありません。外の活動で新たな積み上げ機会を探ります。
ただし、闇雲に外の活動に行ってもだめです。まずは、内の活動を現場に任せる仕組みをつくらなければなければなりません。そして、外と内を連動させます。
経営者は常に、外の活動と内の活動を上手に設計する必要があります。全社で共有すべき人時生産性向上のやり方です。貴社独自のノウハウになります。
先の経営者は、現場へ働き掛けるとともに、新たな事業を市場へ問いかけ始めています。
次は貴社が成功する番です!
成長する現場は、経営者と現場による外と内の活動を連動させて人時生産性を高める。
停滞する現場は、外の活動に無関心でひと事なので人時生産性向上が行き詰まる。