「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第215話 問題がありすぎて混乱している経営者が考えるべきことは?
「問題が多すぎて何からやってイイのか分からない状況です。」
先日の個別相談で50人規模部品メーカー経営者が語った言葉です。
その経営者は現場活動を活性化させて生産性を高めたいと考えています。伊藤は「今、どんな問題に直面していますか?」と問いかけました。
そもそも、なぜ、現場活動を活性化させたいのか?生産性を高めたいのか?そこを知る必要があります。
目の前でノートにメモを取りながら伊藤の言葉に耳を傾けていた先の経営者は、ふと手を止めて視線を上げました。「う~ん」とちょっと困ったような表情をしています。
そして経営者の口から出てきたのが冒頭の言葉です。
あぁ、この社長さん、羅針盤をお持ちでない・・・・・・。
そこで、焦点を絞って伺いました。
まさに、今、抱えている問題はなんですか?
「納期遅れです。」とのこと。
現場で情報交換しながら対応しています。経営者が現場と一緒に「今の問題」に取り組む仕事のやり方です。
全体を俯瞰する鳥の目を持たなければならない経営者が蟻の目で現場を見ています。今は、たまたま納期遅れ。別の時は・・・。
冒頭の言葉が出てもしょうがありません。経営者は忙しさから逃れられないからです。
現場の課題は2軸で整理できます。
重要度と緊急度です。
重要度が高い課題、重要度が低い課題。
緊急度が高い課題、緊急度が低い課題。
頭の中に、4つの枠で構成されたマトリックスが浮かぶはずです。
この中で経営者が、特に認識するべき課題は2つです。
A.重要度が高くて、緊急度も高い課題
B.重要度は高いが、緊急度は低い課題
現場が直面している課題を分類できているでしょうか?AとBの違いは納期です。
Aの納期は今日、明日、1週間後、1ヶ月後。緊急度が高いわけです。具体的には、クレーム対応、労災対応、納期対応、品質対応など。これをやらないとお客様の信用を失います。
一方、Bの納期は1年後、5年後、10年後。具体的には、仕事の手順化・マニュアル化、人材育成、行動指針策定、新規顧客開拓、中長期戦略立案など。今、やらなくても、問題にはなりません。が、これ抜きでは、成長発展できない課題ばかりです。
先の経営者は「納期遅れを現場で情報交換しながら対応している。」と語っていました。ただし、このやり方のままでは、現場は疲弊します。そもそも、中小現場は少数精鋭です。
先の経営者が持つべき論点は、「発生した納期遅れをどう挽回するか、そのやり方を考える」ではなく、「納期遅れを起こさない仕事のやり方を考える」です。
経営者はAのみに囚われていてはダメです。蟻の目になってしまい、工場経営全体を俯瞰できません。先の経営者のように、慌ただしさだけが残り、問題の本質が見えなくなってしまいます。
経営者はBを主導します。全ては将来のためです。
当然ですが、Aを疎かにすると、お客様に1発でアウト!と言われます。したがって、Aは何があっても、最優先でやらなければなりません。
その一方で、経営者はBもやらなければならないのです。現場にはAを最優先でやらせるも、経営者はBを主導する、というのが儲かる工場のあり方です。
例えば、「納期遅れを起こさない仕事のやり方を考える」であるなら、下記の仕事のやり方を現場へ定着させることになります。
1.属人的に乗り切っている今やっている仕事のやり方を見直す。
2.誰でもできるように標準化する。
3.新人が理解できるマニュアル、手順書をつくる。
4.新たなやり方を定着させる。
5.マニュアル、手順書を見直し、改訂する。
4と5が重要であることは論を俟ちません。PDCAのCとAです。やりっぱなしにしません。言うは易く行うは難しです。
全社一丸となってAばかりをやっていても儲かりません。Aは当り前の課題です。どこの競合先でもやっています。誰でもやっていることをやっても儲からないのは商売の原則です。
生き残るには、Bに着手しなければなりません。仕事のやり方を変えるのです。
Aばかりやっていると現場はダメになります。将来を見通す観点ができず、目の前の問題ばかりを追いかけ、仕事をした気分になってしまうからです。経営者も、現場もそうした思考回路になってしまっては、将来の成長発展はあり得ません。
そもそも、「問題を起こす現在の構造」を壊さない限り、いつまでたっても同じような問題が繰り返し発生します。
貴社で発生している問題はどうでしょうか?創業以来、初めて発生した問題でしょうか?繰り返し発生している問題ではないですか?
貴社は今、問題を起こす構造なのです。「問題を起こす現在の構造」は組織文化、風土、コミュニケーションの質、つまり人(思考回路)にも係わります。
現場に根深く広まっている「何か」がそうさせているのです。
現場が気付いても放置していることがあります。変わることが面倒だと考えればそうするし、そもそも、そうした思考回路が問題なのです。
人が係わるので、Bは時間を要します、ですから、早く着手したいのです。そうして、貴社独自の儲けるモノづくりのやり方の体系を構築しそれを全員で実行します。
体系が羅針盤となるので航海も楽になるのです。Aのみに囚われると、日々、あたふたするだけです。経営者はいつまでたっても社長業に専念できません。
アフターコロナでは価値観、仕事観が大きく変わります。仕事のやり方も競合に先んじて変えたいところです。時代を読まなければなりません。
「リモート」はキーワードのひとつです。
多くの中小現場には、「モノづくりは、現場に集まり、そこで設備を動かすものだ」と言う固定観念があるかもしれません。しかし、工場勤務を「リモート」でこなせないか挑戦している大手もあるのです。
やっているところはやっています。
「大手だから資金力がありICTツールを使ってできているのだろう。」という向きもあるかもしれませんが、それは誤りです。工場勤務「リモート」化の本質はそこにはありません。
それを実現させた本質は、デジタルの方ではなく、アナログの方にあります。ある工場の事例で上げられていたのは次の2つです。
・無駄な業務の洗い出し
・膨大な作業の標準化とマニュアル化
つまり、Bに取り組んだということです。貴社でもできます。
経営者が現場と一緒に「納期遅れにどう対応しようか?」と知恵を絞っている姿は好ましいものに見えます。すったもんだしたけど、ヤレヤレなんとか乗り切ったぞと達成感があるかもしれません。
しかし、それではダメです。他と同じことをやっていても生き残れないのです。経営者は「納期遅れを起こさない仕組み」をつくることに知恵を絞ります。
アフターコロナはビフォーコロナに戻らないと語る経営者が多くなっています。つまり、市場もお客様も変わります。生き残るのは強い企業ではなく変化に対応できる企業です。
アフターコロナでは、Bへ着手した早い者勝ちなのかもしれません。
Bはロードマップに集約されます。ロードマップで人時生産性を4,000円、5,000円、6,000円と上げるのです。羅針盤で成長発展の航海へ出発です。
弊社は、挑戦する経営者の後押しをして参ります。
次は貴社の番です!
成長する現場は、将来を見据える思考回路を持っているので仕組みづくりにも頑張る。
停滞する現場は、目の前のことしか見えないので納期対応だけが仕事だと思い込んでいる。