「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第219話 現場を成長拡大させるときに忘れてはならないこと
「現場管理者を育てないと現場が回らなくなります。」
先日のオンライン個別相談で伺った部品製造企業経営者の言葉です。
数年前から年商を徐々に成長させ5億円規模に至りました。新製品開発にも一生懸命な経営者です。売上高10億円も見えてきました。
積極的に採用活動を展開して現場体制も拡大する計画です。5割増の現場になります。ただ、経営者はここに懸念を感じているのです。
統制する人材がいなければ、現場が「烏合の衆」になりかねない・・・。
事業の発展には体制整備と共に、新たな役割を担う人材も必要です。冒頭の言葉です。
企業規模別・製造業の労働生産性(中央値)は次のようになっています。
大企業(製造業) 827万円
中規模企業(製造業) 450万円
小規模企業(製造業) 248万円
(出典:2020年中小企業白書)
中規模製造企業は大手の54%、小規模製造企業に至っては大手の30%です。規模と生産性に相関があります。規模が大きいと生産性が高くなっています。
ただし、これは各々の全体を対象にした中央値での比較です。他の見方をすると違う結果となります。
例えば、大企業の労働生産性(中央値)と中規模企業上位10%グループのそれとを比べたのが下記です。この数値は全業種を対象にしています。
大企業(全業種全体) 585万円
中規模企業(全業種上位10%) 832万円
(出典:2020年中小企業白書)
中規模企業上位10%の中央値は大企業全体のそれを上回っています。企業規模が小さくても大手以上の高い労働生産性を実現している企業もあるということです。人時生産性も7,000円、8,000円、9,000円・・・水準と推察できます。
規模と生産性に因果関係はありません。会社が大きいから「スゴイ」わけではないのです。ただ、相関関係はあります。規模を成長させた方が人時生産性を向上させやすいのはデータが示す通りです。
人時生産性と儲けの相関図で商品分析をすると、特定の製品では、生産量が増えるにつれ、ポジションが右上方向へシフトすることに気付きます。付加価値額の規模が大きくなると(生産量が増えると)、生産性が高まるのです。
昨今、どこも多品種少量、変種変量生産です。学習効果が得にくく、規模の経済も望めません。そもそも、これが大手に対する参入障壁になっています。中小現場独自の柔軟性、小回り性、機動性の強みがここで生きます。とは言え収益確保の観点では辛いです。
付加価値額のボリュームはΣ(@付加価値額×販売数量)ですから、規模が小さいと付加価値額を積み上げ難いのは言うまでもありません。事業の発展と規模の成長は、裏腹の関係にもあります。豊かな発展のために、学習効果や規模の経済を取り込むことも必要です。
伊藤が勤務していた自動車部品工場でも、月間生産数量を10万個→15万個→20万個→25万と成長させました。
熾烈な価格競争にあったので、積極的に受注を獲得して規模の成長という手段を使い、事業を発展させたわけです。
中小製造企業の戦略は、独自の価値を認めてもらい、顧客に選んでもらうことです。価格競争は回避しなければなりません。
そうした戦略の中で、収益確保の環境整備をするために、規模の成長も目指すのです。仕事のやり方も当然変わります。
先の経営者も、10億円規模を見通すと、従来の自ら現場へ出て直接、指示するやり方では行き詰まると感じているようです。
20~30人規模、50~100人規模、100~200人規模・・・企業規模が成長するに従って、経営者の右腕役が不可欠となってきます。
繰り返し申し上げていますが、経営者の主たる戦場は「外」です。20~30人規模までなら、「外」で戦いながら、経営者の方々も現場に入って・・・という力尽く経営はできます。
しかし、その規模を超えるとどうでしょうか。部門長、工場長、現場リーダー・・・右腕役に任せないと、現場が回らなくなるのは明らかです。
規模を成長する際、「社長に代わって現場を仕切る」人材、右腕役の育成が問われます。
「社長に代わって現場を仕切る」人材とは管理者のことです。そして、昨今、求められる「社長に代わって現場を仕切る」人材像は、かっての管理者と変わってきた気がします。
上意下達体制の維持もさることながら、チーム力や変化対応力を高める仕事も重要になってきました。経営者が「外」に専念するためです。
そこで、3つの役割を実践できるよう、時間を味方に付けて、地道に人材育成を進めます。
1.社長の代行役
2.マネジメント役
3.使命感を体現する役
まずは、1です。なにせ、経営者の仕事場は「外」にあります。その社長に代わって「内」をコントロールするのです。経営者にとっての「現場管理の外注先」となる重要な役割です。毅然とした姿勢がなければできません。
2つめはマネジメント役です。組織活性化の3要素を実践して組織の凝集性を高めチームを機能させます。さらに、フィードバックで若手を育成するのも大切です。多種多様な知識やスキルが求められます。
3つ目は使命感を体現する役割です。誠意、一生懸命さ、真摯さ。これらは作業者一人ひとりに期待したい姿勢です。しかし、教えられるものではありません。生き様で決まります。したがって、管理者の仕事ぶりを通じて問いかけたいのです。
考えることは比べることです。マネジメント役のスキル習得で大切な観点となります。
現場を導くのに必要なのは「判断基準」です。それと現実を比べます。そして、比べるには知識が必要です。これが生産管理3本柱の大系となります。
貴社では生産管理3本柱の知識を現場へ教えていますか?
世の中に出回っている解説本の内容をそのまま教えても刺さりません。業種業態に応じた知識、貴社の現場に応じた知識を伝えます。
3本柱の方針が重要です。漫然とやっても意味はありません。
●品質管理:品質作り込み体制の構築、品質不正の未然防止
●原価管理:儲かる価格の判断基準の設定
●工程管理:リードタイム短縮とボトルネック解消
例えば、こうした方針です。
勤務していた自動車部品製造工場での工程管理の方針は、稼働率維持向上とサイクルタイム短縮でした。これらは現場に独自です。
考えるためには知識が必要です。マネジメント役を担うために生産管理3本柱の知識を活かします。ゴルフにはゴルフのお作法が、テニスにはテニスのお作法があるのと同じで、製造現場には製造現場のお作法があるのです。
儲かる工場経営は実学です。勉強ではありません。焦点を絞って知識を教えます。
規模を健全に成長させて、事業を豊かな発展路線に乗せます。そして、規模を健全に成長させるキモが「社長に代わって現場を仕切る」人材育成にあります。
人材育成を抜きに現場を肥大させたらダメです。後々、苦労します。人材育成とは「兵站」を機能させることに他なりません。「外」と「内」を連動させるためです。途切れたら「外」が危うくなります。
兵站を軽視して、精神論で語るトップに導かれた組織がどんな悲惨な目に遭うかは歴史が証言しています。
経営者が社長業に専念するためには、「内」を任せられる人材育成とチームづくりが最重要課題です。現場を成長拡大させる時に忘れてはならないことです。
中小企業基本法では、中小製造企業を資本金3億円以下または従業員300人以下で定義しています(うち従業員20人以下が小規模製造企業)。この規模まで成長させても「いわゆる」中小企業です。成長の余地はありませんか?
次は貴社が成功する番です!
成長する現場は、生産管理3本柱の大系を理解した管理者が「兵站」を機能させる。
停滞する現場は、経営者の右腕が不在で「チーム」が機能せず「集団」のまま苦労する。