「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第218話 大手や成長企業でやっている事業ステージの高め方とは?

「売上高3~4億円に壁がありましたね。」

30人規模、樹脂射出成形企業、経営者の言葉です。

 

先代から引き継いだ事業を夢中になって成長発展させてきました。その過程で成長の頭打ちを感じることがあったようです。冒頭の言葉です。現在、売上高を5~6億規模まで成長させ、さらなる発展を目指しています。

 

 

 

ゼロイチで立ち上げた事業を成長させる過程で、経営者が必ず差し掛かる分岐点があると考えています。売上高なら3億~5億規模、従業員数なら20~30人規模です。

この規模の中小製造企業経営者は多忙です。「今」の仕事と「将来」の仕事、「内」の仕事と「外」の仕事、全てをご自身が仕切らなければならないからです。そして、将来へ向けて2つの選択肢があります。

 

・従来の延長線上で仕事をやるか?

・新たなやり方で仕事をやるのか?

 

従来の延長線上で仕事をやり続けるのも可能です。この規模なら「力尽く」「力技」でも現場や事業を回せます。ただし、経営者は忙しさから解放されません。

 

 

 

 

 

製造業の業種業態や付加価値額率は様々なので中小製造企業全体一律に言えませんが、先の規模感に分岐点があると考えています。ご支援をさせていただいている企業様の実績から平均的に評価できる数値です。

 

加えて、大手から転職をし、売上高2~3億円規模、従業員数40人規模の現場を任された経験からもそう言えます。目の前の業務をさばくのが精一杯と言う日常でした。いわゆる「力尽く」「力技」で回すやり方が常態化していたのです。

 

少数精鋭の中小製造企業が事業のステージを高めたかったら何をしなければならないのか?事業を成長発展させるための具体策は何か?

 

仕組みづくりでチーム力を強化することです。

仕組みをつくり、チームを強化します。

 

 

 

 

 

現場が経営者の想いに呼応して、一体感を高め、全員一丸となる状態を「ベクトルが揃う」と言うことがあります。言い得て妙です。チーム力の本質を突いています。「ベクトル」に対比するが概念に「スカラー」があります。具体的には次です。

スカラー:長さ、質量、時間、温度、面積、体積、気圧等

ベクトル:速度、加速度、力、 運動量等

 

スカラーは大きさだけで表現できる量のこと。

ベクトルは大きさと向きの組み合わせで表現できる量のこと。

 

チーム力をスカラーではなく、ベクトルで表現したいのは「向き」があるからです。

・「大きさ」=「能力」

・「向き」=「共感度」

これがベクトルで表現したチーム力の定義となります。

 

ベクトルAを仮定します。Aには向きがあります。この向きが経営者の望んでいる方向です。そこにベクトルBを加えます。

もし、Bの向きがAと一致していれば、Bの大きさがそのまま反映され、経営者の望んでいる方向へ大きく前進します。

 

しかし、Aとは向きが一致していないとどうなるか?学生時代に学んだ数学を思い出して下さい。図で描くと一目瞭然です。経営者の望む向きとは異なる方向へ向き始めます。経営者にとっては残念な状況です。

もし、Bの向きが真逆でかつ大きさがAを超えていたら、最悪です。ベクトル全体が、経営者の望む向きとは真逆になります。現場は経営者の想いに呼応することなく、自分のやりたいようにやり、個々バラバラです。

 

 

 

 

 

チーム力はベクトルの足し算で表現できます。

経営者はひとつひとつのベクトルの状況に目を光らせるのです。想いと異なる向きがあれば修正し合わせます。ベクトルが揃った状態です。

そして、ベクトルの長さを長くするよう育成します。向きの揃ったベクトルが足されると効率良く長くなります。チーム力の強化です。

 

成長発展する現場では、チーム力の強化を常にやっています。工場長以下、部門長、スタッフ、ライン管理者、リーダーが現場に働き掛けて、向きを揃えること、長さを長くすることを日常的にやるのです。大手もその規模故に、チーム力の強化に余念がありません。

 

全体最適化の視点で仕事を進めるのが大手です。大手がすごいというわけでなく、そもそも、一定規模以上になったらそうした視点を持たないと統制が取れなくなります。

 

ベクトルを揃えて応受援性を高くし、チーム力を強化しないと、大手の現場は存続できないのです。ですから、規模の大きな組織は仕組みで仕事をしています。仕組みづくりがチーム力強化の源泉です。

 

中小製造現場も、大手や成長発展した企業の製造現場で普通にやっている仕組みづくりのイイどこ取りでベクトルを揃え、チーム力を強化すればいいのです。ひな形が大手の現場にあります。「力尽く」「力技」を卒業して事業のステージを高めます。

 

 

 

 

 

仕組みづくりとは貴社のトリセツをつくることです。業務の現状分析から始めます。現状が分かれば、そこからムダを省いて最適化できるからです。そして、誰でもできるように標準化します。最終的には、手順書、マニュアルに仕上げて、仕事のやり方だけでなく思考回路も共有するのです。

 

設定した手順の背景や理由、考え方を互いに理解し合うことが大事です。仕組みづくりとは具体的な手順や行動を共有することだけではありません。

なぜそう決めたのか、思考回路を共有することでもあります。思考回路を共有するからこそ、平時だけでなく、非常時でもチーム力が発揮できるのです。行間も読みます。

 

 

 

 

 

手順書、マニュアルがあれば「仕事の流れ」が見えます。安心して仕事ができるので、迷いません。判断基準がチームで共有されるようになるからです。

判断基準の共有が思考回路の共有につながります。思考回路が共有されれば、同じ釜の飯を食う仲間感覚が醸成されます。

 

つまり仕組みづくり=チーム力強化であり、これが大手や成長発展した企業のやり方です。

 

中小の経営者は「力尽く」「力技」で事業を回し、大手は仕組みづくり=チーム力強化で事業を回します。

大手はそうして事業のステージを高め、成長発展しているのです。現在の規模に至った事実が証左です。

 

事業のステージを高めたかったら、チーム力を磨くことです。ベクトルの向きを揃え、長さを長くします。そこで、大手や成長発展した企業のやり方のイイどこ取りをするのです。仕組みづくりです。

つまりチーム力強化とは仕組みづくりに他なりません。大手と中小の現場を実地で経験して至った結論です。

 

 

 

 

 

売上高3億~5億円、5億~10億円、10億~30億円、こうした規模感それぞれで、事業のステージを高める壁に直面します。その規模に応じた仕組みづくり=チーム力強化が必要です。

なぜなら、経営者の仕事場は「外」にあるからです。現場に「内」を任せないとなりません。力尽くでは限界があります。

削減の時代から積み上げの時代に移行したのでなおさらです。

 

貴社では経営者の代行で現場を仕切る役割を担う、工場長、現場リーダーの育成は進んでいますか?生産管理3本柱の知識を駆使して現場改革を推進できる若手は育っていますか?

規模の壁を破り、事業のステージを高める準備は今から進めて下さい。大手も起業時点では中小企業です。

次は貴社の番です!

 

成長する現場は、右腕役が仕組みづくりでチームを強化し事業のステージを高める。

停滞する現場は、経営者が「力尽く」「力技」でなんとか今の事業を回し続ける。