「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第290話 現場の体制をどう変えれば成長できるのか?
「先生、管理する人と指示する人を育てなければなりません。」
今月からプロジェクトをスタートさせた経営者の言葉です。
30人規模で産業機械部品を生産しています。これまでは、経営者が一人で営業から現場管理まで全ての業務をこなしてきました。
このやり方のままだと、次世代経営者に事業を引き継げないと考えています。企業を成長モードへ切り替えるとともに、次世代へ向けた体制づくりに着手しました。
冒頭の言葉です。
納期が遅れそうになった時、貴社はどうしますか?
現場から人をかき集めて、なんとかするはずです。目前にせまった危機を乗り切ります。
重要性が高くかつ緊急性の高い業務は人海戦術でもなんでもいいから乗り越えることです。理屈はありません。こうした火事場の力も大切です。
ただし、こうした対応は仕組みがなくでもできます。非常時は社長が先頭に立てばイイからです。ツルの一声。「個の力」でもやれます。
納期遅延が起きそうになったら、その時は歯を食いしばればイイのです。乗り越えたら終わります。
一方、人時生産性向上は「個の力」だけでできません。「チーム力」が必要です。そもそも納期遵守と生産性向上の体制は違います。
生産性向上活動は製販一体でなければなりません。詰めて、空けて、取り込む工場経営です。チーム力が土台となります。リードタイム短縮で生産性を高めるからです。
納入リードタイムと生産リードタイム。
前後工程連携、さらには一気通貫連携ができなければなりません。それも「継続的に」です。一時的ではありません。力づくでは息が切れます。一人では無理です。
納期遵守では歯を食いしばるやり方が効果的なときもあります。しかしリードタイム短縮に歯を食いしばる発想はありません。仕組みでやります。そもそも、一人では無理です。
従業員が20人、多くても30人までの組織は「文鎮型」体制でも仕事をまわせます。経営者が直接に現場へ指示する体制です。「個の力」で仕事をこなします。
従業員同士のつながりは希薄です。経営者と従業員一人ひとりのつながりで仕事が回っています。経営者は無茶苦茶、忙しいです。
ただし、だからこその強みもあります。高い機動力や小回り性です。しかし、それも体制が20人を超えてくると厳しくなります。
売上規模では2億、3億まで。ここから5億を超える水準を目指すには体制を変えなければなりません。経営者はトップ営業で事業成長の機会を探ることが求められます。
2億、3億規模から5億を超える規模へ事業を成長させたかったら、経営者の仕事場は「外」になるのです。「内」を現場に任せないとなりません。
経営者の仕事は「外」ですが、経営者の意志や意図は「内」へ浸透させなければならないのです。体制を「導線型」に変えます。
経営者が「外」にいてもトップダウンを機能させるためです。
トップから現場へ、指示の導線が敷かれていないと経営者の想いは作業者に届きません。売上高を5億、10億、20億・・・と伸ばす経営者の仕事場は「外」なので、経営者は社内に不在がちです。
不在でも経営者の意志や意図が浸透できなければ、船は勝手な方向へ行ってしまいます。そこで「指示導線」です。「導線型」の体制をつくります。
1.経営する人
2.管理(比較)する人
3.指示する人
4.作業する人
全従業員が製販一体の役割を果たす4分業体制です。これでトップダウンを機能させます。
先の経営者はこれまで1人3役をやっていました。経営して、管理して、指示する業務です。経営者からは「管理はしていたかなぁ~」との反省の言葉もありましたが・・・。
文鎮型では社長は忙しいままです。少人数ならこれでも仕事をこなせますが、経営者は多忙です。社長業に専念できません。
売上高を5億、10億、20億・・・と伸ばす経営者の仕事場は「外」になり社内に不在です。そこで体制を導線型へ変えてます。指示を分業で現場へ伝える体制をつくるのです。そうして、経営者の意志や意図を浸透させます。経営者の頭の中は意外と伝わっていないものです。
売上高が5億、10億、20億・・・と成長させるのにあた地、並行してやらなければならないことがあります。現場のベクトル揃えです。
組織は「成長」させるものであり、「肥大」させるものではありません。成長スタート時点でのベクトル揃えが肝要です。
角度1度のベクトル違いはスタート時点では気になりません。しかし、時間の経過とともに取り返しがつかないギャップになります。規模は大きいけれども、勝手にやりやすいようにふるまう現場ができてしまうのです。絶対に避けなければなりません。
だから早い段階で「導線型」の体制が必要なのです。経営者の意志や意図を伝え、ベクトルを揃えながら前進します。。
さらに、「導線型」体制から、従業員の役割が見えてくるのです。重要論点になります。
作業者は社長の考えを理解して、現場キーパーソンや管理者を支援する。
現場キーパーソンは社長の考えを理解して、管理者や工場長を支援する。
管理者は社長の考えを理解して、工場長や社長を支援する。
工場長は社長の考えを理解して、社長を支援する。
これが従業員の役割です。
そして社長は・・・・・社長業に専念する。
社長の考え方を徹底させる体制です。
全社で製販一体の役割を果たす体制です。
モノづくりが高度化、複雑化している昨今儲かる工場経営のやり方が大きく変わりました。
全社で製販一体、一気通貫の役割を果たさなければ、お客様に選ばれなくなったのです。
そこで、経営者の指示を分業で現場へ伝える体制をつくり経営者の意志や意図を浸透させます。上を向いた体制です。
貴社では下を向いた体制になっていませんか?
分業させるのは「工程」ではなく、「経営者の指示導線」です。
このあたり、ご支援先の現場で誤解をしているところがあったりします。現場の仕事が上手くいかないのは作業者の仕事分担が明らかでないからと考える傾向があるようです。
分担をはっきりさせればうまくいくと信じています。しかし、これをやっても残念ながら上手くいきません。作業者に「これだけしかやらない」言い訳のきっかけをつくからです。
あるべき現場の仕事ぶりはスポーツのチームのそれと同じです。
野球では、投手や捕手、内野手、外野手で分担しています。またサッカーでもGKやDF、FWなので分担があるのは?という向きもあるかもしれません。
あれは分担というよりも専門性です。
成果を出すチームの一人ひとりに専門性が求められています。まれに大谷選手のような優れた選手もいますが、普通は投手と打者の仕事は別々です。専門性が高いからです。
選手の役割は何か?
当然、チームの勝利に貢献することです。チーム一丸となって勝ちにいきます。そのために投手は打者のことを考え、打者は投手のことを考えるのです。
選手は一人残らず、自分の専門性を生かして、仲間に貢献できないか?チームに貢献できないか?を考えています。
野球選手の勝利インタービューなどからわかることです。
サッカーでも、DFがオーバーラップしてゴールで飛び込むこともあれば、FWがバックアップに入ることもあります。GKが相手陣のゴールエリアまで出っ張って一撃必殺を目論むときさえもあるのです。専門性に関わらず、選手は勝利に貢献することが求められます。
プロスポーツ選手に「これしかやらなくていい」という分担の発想はありません。あるのは専門性だけです。どうやってチームに貢献するかを考えています。プロだから当然です。
分業させるのは「工程」ではなく、「経営者の指示導線」であり、工程は分担ではなく専門性を求めるところです。
したがって、経営者は専門性を高めて、製販一体、一気通貫に貢献するやり方を指導します。経営者の意志や意図を現場へ届けない限り、現場はそのやり方が分かりません。
分担を訴える現場があったら、それは経営者の意志や意図が浸透していない証左です。
やらなくてもいいと言う発想を持つ従業員は組織成長のボトルネックになります。要注意です。組織成長の途中で必要なのは「新しい仕事を創ること」だからです。
誤解を解いてあげる必要があります。
ただし、闇雲に導線型に移行しても失敗します。
その前に必要なのが「我々の行き先提示」です。全員が腹落ちした共通の目標抜きでは、専門性を高める動機も薄いまま。実務ではリードタイム短縮戦略からです。
次は貴社が挑戦する番です!
成長する現場は、導線型へ体制を変え各自の専門性を高めて利益積み上げの役割を果たす
停滞する現場は、文鎮型体制まま現場がやり易いように仕事をやるので役割を果たせない