「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第291話 意志決定をボトルネックとしないためには?
「先生、私自身がボトルネックになっています。」
30人規模産業機器メーカー経営者の言葉です。
コロナ禍で売上高が減少しています。赤字から抜け出せません。営業部門、製造部門、それぞれに問題があると考えている経営者です。
製造部門の問題点はモノづくり戦略の観点で整理します。リードタイム短縮です。「お客様からの問い合わせ」から「出荷」まで。情報とモノが流れます。
情報とモノを滞りなく流したいわけです。「生産の流れ」をつくります。流れに棹さしたいのです。ところが、途中で「ふんづまり」がおきると「生産の流れ」が停滞します。
モノばかりではありません。情報の「ふんづまり」もあります。先の経営者はそのことに気付きました。冒頭の言葉です。
QCDは製造業の重要な柱です。そして、圧倒的なQCDはお金になります。
・圧倒的な品質
・圧倒的なコスト
・圧倒的な納期
日本の製造業は高品質の商品を安価に提供することで世界の競合先を凌駕してきました。80年代、90年代のことです。しかし、もはやそれだけでは生き残れなくなりました。
時代の流れが変わったのです。
モノづくりが高度化、複雑化し、お客様の要求が多様化した昨今、状況が変化しました。国内家電業界、半導体業界の経緯を見ればあきらかです。
お客様に選ばれる営業戦略の重要性が高まってきました。お客様に選ばれる商品を高く売りたいのです。
コスト削減の重要性は今後も変わりません。しかし、それだけでは価格競争に陥って疲弊するだけです。高く売ることにも焦点を当てます。高く売るにはお客様から選ばれるものでなければなりません。
・圧倒的な品質とはお客様に選ばれること
・圧倒的なコストとは高く売ること
儲かる工場経営QCDの考え方も時代とともに変わります。時代の流れや技術トレンドを読むのは経営者の仕事です。
一方「圧倒的な納期」は、従来通りの考え方でもお金になる可能性を秘めています。
・平均納期は業界の2週間に対して、我が社は半分の1週間
・平均開発期間は業界の2年に対して、我が社は半分の1年間
お客様はどちらを選ぶでしょうか。明らかに我が社を選んでくれます。お客様は時間も一緒に手にできるのでビジネス上助かるのです。
お客様の発注タイミング、仕様決定タイミングはドンドン後ろ倒しになっています。お客様を取り巻く環境の変化も激しいので、あらゆる最終決定が遅くなりがちです。
2週間より1週間、2年より1年でやってくれるサプライヤーを選びたくなります。発注のタイミング、仕様決定のタイミングが遅らせてもゴールは同じなのですから。
これは我が社にとってもありがたいことです。納期や開発期間が長いと、その間で、お客様からいろいろな変更をお願いされる恐れが高まります。
納期や開発期間が短いということは「お客様からの途中変更」リスクを下げることにもなるのです。結局、コストも下がります。
圧倒的な納期を実現させるリードタイム短縮がモノづくり戦略の柱である所以はここにあるのです。
圧倒的な納期は納入リードタイムで考えます。構成は下記です。
納入リードタイム=生産着手前リードタイム+生産着手後リードタイム
後者は生産リードタイムと呼ばれます。モノの流れが主体の生産リードタイムは見た目でも分かり易いです。
ただ、もれなく問題点を顕在化するために、生産着手前にも注目します。こちらは情報の流れが主体です。情報の「ふんづまり」の有無を見つけます。
お客様からの問い合わせがあり、見積を作成し、受注可否判断をやって、受注が決まったら早速設計に取り掛かり・・・・。
担当者間で情報の受け渡しが行われます。その途中、経営者の判断や決済があるのがしばしばです。先の経営者は「そこでボトルネックになることがある」と感じました。
お客様から問い合わせがあって、見積り書を即日作成したのに、その見積り書が経営者の机に3日間放置されていた・・・・生産着手前リードタイムでのボトルネックです。
経営者の意志決定は慎重にやらなければなりませんが、ボトルネックになることは避けなければなりません。意志決定の型を持っていますか?型を持てば迅速かつ的確に判断できます。
意志決定には〇か×か?の二者択一もありますが、その多くは「優先順位を決める」です。我が社には今、AとBとCの課題があるが、どれから着手すべきか・・・。
判断の型を持ち、迅速かつ的確に意思決定をします。
1.重要度(貢献度)
2.緊急度(時間軸)
3.難易度
4.コスト
5.我が社の判断基準
経営者ご自身の型を持つことが大事です。結局は経営者の独断でものごとを決めます。中小製造企業の強みのひとつはこのスピード感です。勘と独断は異なります。独断でも型があれば迅速かつ的確な決定はできるのです。
経営者は「関係者で話し合って意思決定しよう」と考えた瞬間に負けます。生き残るにはトップダウンしかないのです。ただし、経営者の意志決定をボトルネックにしてはなりません。
時間にこだわります。判断の型を持ち、迅速かつ的確に意思決定をするのです。
リードタイム短縮とはタイムマネジメントに他なりません。
タイム イズ マネーです。
そこで、早速、リードタイム短縮に取り掛かろうとする経営者がいますが、それでは失敗します。木を見て、森を見ずだからです。
まずは納入リードタイム全体を俯瞰しなければなりません。納入リードタイムを計測する手法を理解するところからです。
リード”タイム”なので時間を計測することになりそうですが・・・。ストップウォッチで測るだけが方法ではありません。お作法を押さえた方が確実です。
先の経営者はリードタイム短縮の全体像を知りました。そして、これまで認識していなかったボトルネックにも気付きました。
「まずは意思決定を早くしなければなりません。」
個別相談の中でボトルネックのひとつが解消されました。経営者ご自身が原因だった場合、即刻、解決できます。ご自身の言動を変えればいいだけです。
引き続き、生産着手後のボトルネックを探ります。
次は貴社の番です!
成長する現場は、生産着手前の意思決定も迅速にやるのでリードタイムがドンドン短くなる
停滞する現場は、机に書類が放置されてもボトルネックに気付かずリードタイムが延びる