「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第292話 大手はなぜ中小より人時生産性が高いのか?

「大手はなぜ人時生産性が高いのですか?」

今月、プロジェクトをキックオフした輸送機器メーカー経営者の言葉です。

 

コロナ禍にあっても独自商品のお陰で収益は水面上を維持しています。

ただし、今、ウチは十分に儲かっているのか?

改善の余地はないのか?

どうなのだろう?

こうした疑問を抱いている経営者です。5年先、10年先を見通して次世代へ事業を引き継ぐ準備もしなければとも考えています。経営改革に着手するのはまさに今。

客観的な判断基準が不可欠です。必要なのは比べる対象です。それが付加価値額人時生産性。儲かっているのか儲かっていないのか判断ができます。

 

大手6,000円台、中小3,000円台。

数値を耳にした先の経営者の頭に疑問が浮かびました。

冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

付加価値額人時生産性が大手6,000円台、中小3,000円台であるのは客観的なデータとして白書で報告されています。弊社もご支援のなかでも繰り返しお伝えしていることです。

なぜ大手は中小より儲かりやすいのか?中小経営者は理解しておく必要があります。

 

・規模の経済

・しくみ化

 

下記の大手A社と中小B社の事例で考えます。(@:商品1個当たりという意味)

毎月、単価100円の商品を1百万個製造販売している大手A社

毎月、単価10,000円の商品を1千個製造販売している中小B社

 

大手A社 単価は100円、商品1個当たり外注費は@10円 材料費は@30円

中小B社 単価は10,000円、商品1個当たり外注費は@2,000円 材料費は@5,000円

 

大手A社 @付加価値額=100-(10+30)=60円 付加価値額率60%

中小B社 @付加価値額=10,000-(2,000+5,000)=3,000円 付加価値額率30%

 

規模の経済を生かすと原材料、外注費を抑制できます。1百万個分と1千固分では、サプライヤーが単価を変えるのは当然です。

大手は規模の経済で変動費を縮小できる可能性があります。例えば付加価値額率が上記のようになるのです。変動費を減らせば、その分、儲けが増えます。

大手のビジネスモデルの多くは薄利ですが多売です。

 

大手A社 付加価値額=60円×1百万個=60百万円

中小B社 付加価値額=3,000円×1千個=3百万円

 

さらに、下記の工数を投入して上記だけ稼いだとします。

大手A社 10,000人時

中小B社 1,000人時

 

人時生産性は下記です。

 

大手A社 人時生産性=60百万円÷10,000人時=6,000円/人時

中小B社 人時生産性=3百万円÷1,000人時=3,000円/人時

 

さらに、従業員1人1か月あたりの工数を8時間/人日×20日/月=160人時/月と仮定すれば、10,000人時は63人、1,000人時は7人分の工数。

 

大手A社 63人で1カ月あたり60百万円稼ぐのでその結果、人時生産性は6,000円/人時

中小B社 7人で1カ月あたり3百万円稼ぐのでその結果、人時生産性は3,000円/人時

 

大手A社と中小B社では人時生産性がほとんど倍半部の差です。大手A社の方が効率よく稼いでいます。大手は1+1を2で終わらせません。3にも5にもするのです。

仕組み化の効果です。

 

中少B社ではやり方が属人的であると推測されます。今のやり方の延長線上では儲からないのです。中小B社の工数を10倍して70人分にしても稼げるのは30百万円に留まります。現在の延長線上にブレークスルーはありません。

仕組み化活動有無の差です。

 

 

 

 

 

私達、中小製造企業は大手のイイところを真似ます。ただし、原則、規模の経済を追いかけません。真似るのは仕組み化です。

そもそも大手と中小ではビジネスモデルが違います。規模は追いかけられないので、中小ならではの仕組み化で儲けるのです。

 

・規模の経済

・しくみ化

 

後者がキモです。30人規模の工場と500人規模の工場での仕事ぶりを思い浮かべてください。大手が大手たる所以がここにあります。

大手は規模の経済に加えて、仕組み化で稼いでいるのです。しくみ化したので大手になりました。経営者が不在でも仕事をこなせる体制があります。

 

大手では工場長や部門長が不在でも仕事をまわせるのです。極言すれば、誰が工場長や部門長になっても現場は変わらず仕事をこなします。

 

 

 

 

 

大手はなぜ人時生産性が高いのか?

こうした疑問は経営者に欠かせない観点です。先の経営者は、我が社と比べて、なぜ大手は儲かるのか?と素朴に考えました。考えるとは「比べる」です。

私たちは日常的に「比較」をやっています。大きい小さい、高い低い、早い遅いなど全て何かと比べての相対評価です。考えるには比較対象が必要になります。

 

中小製造企業の人時生産性3,000円台が意味付けされるのは、大手6,000円台を分かっているお陰です。「それならば大手のイイところを真似よう」となります。規模の経済は真似ませんが、仕組み化を大いに真似るのです。独自と我流は違います。

独自とは普遍的な「型」を身に着けた先にあるものです。守破離や型破りと言われます。競合を圧倒する成長発展の原動力は独自性です。

我流はあくまで我流。普遍性がありません。属人的であることが多いので引き継がれにくいです。成長も頭打ちになり持続性がありません。

 

比べる対象を正しく持てば成長発展できます。比べる対象を正しく持つためには客観的な観点や知識が必要です。外部の力も借りれば上手に成長路線にのせられます。

本田宗一郎は外部の力を借りて事業を素晴らしく発展させた経営者の一人です。どんな企業も最初は中小でした。

 

本田宗一郎も20人ほどの従業員でスタートです。当たり前ですが町工場から始まりました。途中で後の副社長、藤沢武夫氏と出会い、以後、研究・開発を本田氏が、営業・財務を藤沢氏が担当し、二人三脚で本田技研工業を世界規模に育てました。

最初は全て経営者がやります。

しかし、成長発展モードになったら、経営者は一人で全部やらなくてもイイのです。比べる対象を見極める力は知識だけでなく経験も必要です。特定分野を外部の力に任せ、ご自身は得意分野に専念するやり方もあります。

 

これこそが仕組み化です。

成長路線を歩みたいと考えた本田宗一郎は藤沢氏から時間を買いました。

 

 

 

 

 

大手はなぜ人時生産性が高いのか?

考えるとは「比べる」です。比較対象を持つことが大事です。人時生産性向上の論点を考えるとき、大手がやっている仕組み化は参考になります。大いに真似たいのです。

客観的な判断基準を持つことになります。分からなければ分かっている人に聞いて、取り組めばいいのです。本田宗一郎もそうしました。

生き残りをかけた戦の残り時間はそれほど多くはありません。

 

ただし比べる対象を闇雲に持てばイイと言うわけではありません。「正しく適切な」比べる対象を持たなければならないのです。

大手の仕事ぶりを真似ようと、そのままやろうとしても失敗します。中小現場管理者時代のことをお伝えしているとおりです。

巷の解説本には大手でのやり方が書いてあります。そのまま真似ても行き詰ることが多いのです。大手と中小の差異を踏まえなければなりません。

耳に心地いい話が正解とは限らないのです。

 

先の経営者は大手と中小におけるいくつかの違いを知って、次のようなことを口にしました。「なるほど、現場は私が考えるほどには、理解してくれていないかもしれません。」

経営改革に着手するとき、まず何からやらなければならないのかに気が付いたようです。

次は貴社の番です。

 

成長する現場は、外部の力も借りながら比べる対象を正しく持って大手の仕事ぶりを真似る

停滞する現場は、我流を独自と勘違いし外部を参考にせず属人的なやり方を続けようとする