「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第347話 現場は逆算の思考を持っているか?

「先生、現場キーパーソンが逆算してくれました!」

PJに着手して2年目、設備メーカー幹部の言葉です。

 

これまで納期以外の数値を気にしたことがなかった現場です。現場キーパーソンは、納期に合わせた仕事のやり方をしていました。

ただし、このままでは生産性が高まらない。経営陣はこのことに気付きました。LTと人時生産性の考え方を現場へ導入しようとしています。

しかし、なかなか上手くいきません。現場キーパーソンは数値に慣れていないのです。

 

昨年来、収益構造の勉強会を開催してきました。経営者や幹部はPJリーダー、現場キーパーソンへLTと人時生産性の考え方を熱心に指導してきたのです。

繰り返し、繰り返し、繰り返し。これは経営者の意志や意図を伝えていることに他なりません。経営者が重視したい数値を説明しているからです。

・現在の人時生産性は●●円だが、それを■■円までアップさせる。

・そのためには売上高を今よりも▲割増やさなければならない。

経営者と幹部は、現場キーパーソンに、現状と目標値の意味を理解させようと努めました。繰り返し、繰り返し、繰り返し。

 

これは本気でやった経営者でなければわからないことですが、新たな現場指標を定着させ、効果的に使わせるには、かなりのエネルギーを要します。

数値はいわゆる具体-抽象―具体の思考を必要とするからです。

PJリーダー、現場キーパーソンが持っている思考回路を強化しなければなりません。腹落ちして理解してしまえば、当たり前のことになりますが、その水準に至るまでが大変です。

現場に習得して欲しい思考のひとつに逆算の思考があります。逆算の思考は計画を立てるときに不可欠です。因果関係の思考とも関連します。

 

「設定された仕事量をこなすためにはリードタイムを〇〇から◎◎まで短くしなければならないです。」

PJリーダーは幹部に検討結果を報告しました。考え方を理解してくれて、それを実務に落とし込んでくれたPJリーダーの行動変化が嬉しい幹部です。

冒頭の言葉です。時間はかかりましたが、指導の成果が出てきました。

 

 

 

 

 

目標を設定するときに欠かせないのは逆算の思考です。

ロードマップで収益目標を設定するときはどこからやりますか?

売上高ではありません。営業利益からです。営業利益は本業で稼いだ利益と言われます。そして、利益は将来投資の原資です。利益が事業の基礎体力を高めてくれます。

製造業の収益構造は固定費VS付加価値額です。経営者の思いがこめられた将来投資である固定費を付加価値額で回収します。

必要付加価値額が明らかになります。そして、その必要付加価値額をどのお客様からいただくのか?を決めることになるのです。

この内訳で目標売上高や必達売上高が決まります。売上高はあくまで結果です。目標設定は経営者の願望(この事例では営業利益)から逆算します。

 

 

 

 

 

目標数値を逆算で設定すること自体、難しいわけではありません。四則演算だけで済みます。特別な計算技法が必要なわけではありません。

しかし、ご支援先の現場で逆算ができない事態にしばしば直面します。それは逆算の対象が理解できていないからです。

 

例えば、年商を増やす売る仕組みづくりのときです。要点は2つあります。

・売上高の見通しを立てること

・立てた見通しに対して実績のフォローをすること

これらを毎月継続することです。しかし、なかなかできないのです。

 

多くの現場キーパーソンの思考回路は「お客様からの電話がなければ仕事はない」に侵されています。「仕事を獲りに行く」という発想が浮かびません。

逆算の対象は仕事を獲りに行く行動なのですが、自らの手で受注を積み上げる考え方に慣れていないのです。

 

さらに、なんとか見通しを立てても、実績のフォローができません。

立てた見通しに対して、実績が不足していたら、不足分を補填するためにどうするか?を考えます。

しかし、「お客様からの電話がなければ仕事はない」という思考ではそうした考えに至らないようです。逆算の対象が仕事を獲りに行く行動であることに気づかないのです。

どうするか?と訪ねても考えが出てきません。

 

こなしきれない程の需要があるなら、それでもかまわないかもしれません。しかし、需要が減って、移動累計が右肩下がりになったとたん、経営者は困った状況になります。

挽回策を立てたくても、売上高増の具体策が現場から出てきません。お客様から電話がこないのでしょうがない・・・・・・・と考えているから、それ以上の行動が出ないのです。

これは現場が悪いのではなく、こうした思考しかできない現場にしてしまった経営者に問題があります。問題に気づいたら、ごちゃごちゃ考えず、直すだけです。

 

 

 

 

 

いい商品、いい技術を持っていても、売れなければお金になりません。経営者は現場にそのことを指導しながら、売る仕組みも工場につくるのです。

・仕事は獲りにいくものだ。

・既存のお客様からどれくらいの仕事をいただくのか?内訳の見通しをはっきりさせよ。

・お客様からの情報に基づいて内訳を決めよ。

・前年度の実績を単純に持ってくるのはNGである。

・過去ではなく将来を問うているから。

・そして、見通しVS実績でフォローせよ。

・見通しに達しない懸念があったら、達成するためにどうするかだけを考えよ。

現場キーパーソンはこうしたことを理解できてはじめて、売上高の逆算ができるようになります。お作法を教えるのです。

 

 

 

 

 

先の幹部は、現場キーパーソンに人時生産性とリータイムとの関係を説明しました。その企業独自の「人時生産性向上の論点」です。

リードタイムデータが整備されていないと議論ができません。そこから地道に時間をかけてやったのです。

言葉で書けば一言ですが、これは思考を鍛える取り組みでもあります。簡単な指導ではありません。しかし、先の幹部はあきらめませんでした。熱意は人を動かします。

 

1年以上かかりましたが、リードタイムの成績表も製造ロット毎にみられるようになりました。地道に継続して出来上がったものは本物です。

 

生産性を高めるには?

工数一定で分子を積み上げるには?

現状対比でどこまで積み上げなければならないのか?

そのために現状対比でリードタイムをどれだけ短くするのか?

 

このような因果関係を理解できれば逆算ができます。

幹部による繰り返し、繰り返し、繰り返しの指導の結果、先の現場キーパーソンは人時生産性を高めるための逆算をしてくれるようになりました。

熱意のある幹部の仕事ぶりを見た現場キーパーソンも慣れない数値を扱うことに頑張ってくれたのです。現場から動機づけを引き出すのは理屈ではありません。経営陣の仕事ぶりです。

納期遵守以外の仕事は、現場にとって「めんどうくさい」ことです。説得しても、やろうとしない人はやりません。幸いに、先の現場には志がある現場キーパーソンがいました。

これも成功の大きな要因です。

 

 

 

 

 

考えることとは比べることです。

目標VS実績。目標を設定するときに欠かせないのが逆算の思考回路です。経営者は当然のこと、現場を管理してもらう現場キーパーソンにも習得してもらいたいことです。

志さえあれば誰でも持てる思考回路です。

 

そして、右腕役が逆算で仕事をやってくれるようになると、経営者は楽になります。一を聞いて十を知ってくれるからです。

経営者は一だけ言えばいいのです。志を持った右腕役が、残りの九をやってくれます。現場を任せられる状況に近づくのです。

 

新たなやり方は、当初、誰も知りません。知らないこと自体は問題ないのです。知らないことは教えればいいからです。志ある現場キーパーソンなら理解に努めてくれます。

そのときにちょっとしたコツがあることも頭に留めてください。他社の事例を交えて教えます。外のことを知らせることで、やらねばという気持ちを促せるのです。

志ある従業員はそのように受け取ってくれます。弊社はそんな話をしながらPJを進めているところです。

次は貴社の番です!

 

成長する現場は、逆算の思考回路を持っているので社長の意志を反映した目標を立てられる

衰退する現場は、数値の扱いに慣れていないので社長の意志を反映した目標を立てられない