「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第403話 やる気を出してもらおうと説得していないか?
「従業員にやる気をもっと持ってもらいたいです。」
戦略検討と実践会の2つをプロジェクト(PJ)で進めている40人規模切削加工企業、工場長の言葉です。
戦略検討では経営者の願望を言語化、数値化していきます。そして戦術を決め、現場で実践です。
PJで重要なのは手順です。手順のない取り組みはPJではありません。成り行き、行き当たりばったり、無計画。見通しのない取り組みは行き詰ります。
PJ着手後、数か月が経過し、いよいよ実践会を本格化させる段階に至りました。工場長以下、PJメンバーで手順を考えます。
他社事例と比べていると、人に関わる問題が浮かびあがってきました。冒頭の言葉です。
従業員には、もっと自主的にやる気を出してもらいたいと考える経営陣は少なくないです。多くの経営者、幹部は従業員のやる気や自主性に期待をしています。
ただ、「今の」仕事のやり方を長年積み重ねた結果、従業員は「今の」思考回路になったのです。組織文化や組織風土の結果と言えます。
そうであるなら、問題を解決するには、時間を味方につけるしかありません。人に関わる問題を解決するには時間がかかります。
そして、時間を味方につける以上、グランドデザインが大事です。
製造業には2つの流れがあります。
「モノの流れ」と「情報の流れ」です。
製造業は原材料を加工する現場を持っています。現物を扱うのです。生産統制のひとつである現品管理は現物を扱う製造業ならではと言えます。
この「モノの流れ」をコントロールするために、経営者は「情報の流れ」をコントロールします。そして「情報の流れ」の土台が4階層指示導線です。
指示導線でトップダウンを機能させます。
現場を横断して流れているのがモノです。工程間連携がなければモノはスムーズに流れません。現場でモノを横方向に滞りなく流すために、4階層の縦方向に情報を流すのです。
縦の流れで横の流れを制御します。横は黙っていると流れません。
工程間連携やボトムアップはトップダウンによる上から下への指示導線次第です。
・工場経営の本質は他人の力を借りて経営者の想いを実現することにある。
工程間連携やボトムアップに問題があるなら、その原因はトップダウンの不備です。従業員が経営者が意図したように動いていません。「他人の力」を借りられていません。縦の流れが機能していないので、横の流れが上手くいかないのです。
経営者はトップダウン状況をチェックします。
指示導線を機能させる仕掛けづくりに知恵を絞らなければなりません。ここで手を抜くと、人時生産性向上活動は続かず、納期遵守だけの状況に戻るのです。
4階層の上から下へ縦方向に情報がさぁ~っと流れるようにしておかなければトップダウンも絵にかいた餅に終わります。
指示導線には原動力が必要です。
指示導線を機能させるエンジンです。
トップダウンの原動力。アメリカの経営学者チェスター・バーナードが唱えた組織3要素はトップダウンの原動力になります。
・共通の目標
・コミュニケーション
・貢献意欲
我が社の将来と将来のために、今、しなければならないことを従業員へ説明します。将来と今の目標です。製販一体、全社一丸、共通の目標を掲げます。
ただ、掲げっぱなしではダメです。組織に浸透させなければなりません。経営者は繰り返し、繰り返し、繰り返し、これでもかぁ~というくらいに従業員に語ります。
そこまでやらないと浸透しないものです。
語る場には公式と非公式があります。非公式の場も大事ですが、本命は仕事を通じたコミュニケーションです。フォローと評価ができる仕組みづくりをやります。
あるべき姿とやり方を伝え、製販一体、全社一丸の手順や判断基準をつくるのです。そうすれば、フォローと評価をやれます。
ある現場キーパーソンは「教育の仕組みも重要である」と指摘してくれました。フォローと評価に焦点を当てると、そんな知恵も出てくるのです。
経営者の仕事は従業員が不安を感じることなく仕事に没頭できる環境を整備することにあります。ご支援先の経営者を拝見していると、この部分での経営者の心に温度差が見られます。ここでの温度と売上高移動累計の傾向になんとなく相関があるのは興味深いです。
コミュニケーションによる環境整備で、経営者は従業員から貢献意欲を引き出します。トップの言動が従業員の貢献意欲を引き出すのです。
売上減に悩む中、トップが率先してお客様のところへ飛び込み、何とかしようとしている行動を知った従業員はどうするでしょうか?黙っていられません。
この貢献意欲が、いわゆる「やる気」であると考えています。
・共通の目標
・コミュニケーション
・貢献意欲
トップダウンによる指示導線で、情報の流れを上から下へ、太く、しっかりつくるために、組織の3要素を原動力にします。3要素の仕組み化、グランドデザインです。
従業員にやる気や貢献意欲を持ってもらいたいと願わない経営者はいません。4階層指示導線を機能させるためにはどうしても必要だからです。
人時生産性向上のような、納期遵守よりも一段ステージが高い仕事では絶対に必要です。
やる気や貢献意欲は、いろいろな言葉で言い換えられます。
使命感、自分がやらなければ、自分事、志を持っている、当事者意識、仲間のために頑張りたい、モチベーション、動機付け等々。
そして、これらの言葉に関して、一つだけ確実にいえることがあります。
これらのことは従業員に教えられない。
大手と中小の現場経験とご支援先での指導経験を通して感じていることです。人の生き様に関わります。ドラッガーも次のように語っています。
「真摯さを絶対視して、初めてまともな組織と言える。それはまず、人事に関わる決定において象徴的に表れる。真摯さは、とってつけるわけにはいかない。すでに身につけていなければならない。ごまかしがきかない。」
(出典:エッセンシャル版 マネジメント 基本と原則 p147)
ドラッガーはマネージャーに必要なのは真摯さだと指摘しています。
そして、その真摯さは「すでに身につけていなければならない」とも説明しています。つまり、ドラッカーは「真摯さ教えられない」と説明しているのです。
したがって、真摯さを持った人物を選べと言っています。
教えられることと教えられないことがあるのです。
経営者ができることは、やる気や貢献意欲を引き出す環境整備です。それ以上もそれ以下もありません。真摯さは教えられないけれども、もともと持っている真摯さを引き出す環境整備はできるのです。
やる気、貢献意欲を引き出すためにやれる環境整備を考えます。
ここは経営者の方々とじっくり話をするところです。唯一絶対の答えはありません。議論を重ねて最適解を見つけます。特に重要なのは3要素のひとつ、コミュニケーション。
仕事を通じたコミュニケーションです。そこでの仕組みづくりです。
フォローと評価ができる仕組みづくりをやります。
あるべき姿とやり方を伝え、製販一体、全社一丸の手順や判断基準をつくって、フォローと評価をやれるようにすれば、従業員は安心します。主体的に動く気持ちが生まれます。
不安を感じなければ、仲間のためにがんばりたいとの思いが自然と浮かぶようになるのです。組織の3要素を原動力にして、トップダウンの指示導線を働かせられればそうなります。
指示導線が機能している状況が「普通」の工場になれば、入社してくる新人、若手にとっては、これが「普通」です。この水準を目指して踏ん張りたいのです。
そうなれば、特別な教育に時間を割くことなく、経営者の思考回路が、自然と新人、若手に埋め込まれていきます。経営者は今よりも楽に外での社長業に専念できるのです。
従業員のやる気問題は、人に関わる以上、一筋縄で解決できるものではないと、ご支援先でも感じています。ただし、工場経営の本質は他人の力を借りて経営者の想いを実現することにある以上、経営者は、「他人」の力を借りるしかないのです。
他社事例も学びながら、我が社における「従業員のやる気を引きだす環境整備」のやり方を磨きあげていくのです。時間を味方につけた仕事になります。
家の土台を支える土壌づくりの部分です。次世代へ引き継ぎたい最重要部分でもあります。
全ては経営者の言動、考え方次第です。
人時生産性向上の土壌づくり、土台づくりは簡単なことではないですが、豊かな成長を目指すならやらなければなりません。やらなければならないので、早い方がいいのです。
「従業員への働きかけ方は、今まで少々ズレていたように感じます。」
先日の実践会を終えたときの工場長の言葉です。「従業員のやる気を引きだす環境整備」というキーワードに腹落ちしました。
「言われてみれば、従業員を説得しようとしていました。時間を味方にして引き出すのですね。」
組織の3要素を原動力にしてトップダウンの指示導線を働かせられればそうなります。従業員が安心するので、主体的に動く気持ちが生まれるのです。
説得しようとして、期待しない反応が返ってきたら、文句のひとつも言いたくなるものです。近視眼的姿勢ではそうなってしまうのもしかたがありません。
しかし、経営陣の姿勢はそうであってはならないのです。
工場長はキーワードからそのことに気付きました。他社事例を知れば知恵も浮かんできます。考えるとは比べることだからです。
先の現場では、仕組みづくりの「土壌」部分が固まりつつあります。「やる気を引き出すグランドデザイン」がおぼろげながら見えてきました。
次は貴社が挑戦する番です!
成長する現場は、やる気を引き出すグランドデザインで現場のベクトルを揃える
衰退する現場は、やる気を持ってもらおうと人を説得するができなくて文句で終わる