「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第402話 品質でお客様に訴求する要点を理解しているか?

「お客様の信頼を得るのに品質も大事だと思います。」

来期のロードマップを検討し始めた30人規模設備製造企業経営者の言葉です。

 

来期へ向けて、従業員へ伝えたいメッセージを考えています。お客様視点で我が社を選んでもらうにはどうしたらいいのか?先の経営者の頭の中には、今期起こったいろいろなことが浮かんでいるようです。

数回起こしてしまった品質クレームもそのひとつです。

来期はこの辺りを強化することを考えなければならないかも・・・。

冒頭の言葉です。

そこで、「品質体制強化をやりますか?」と尋ねたのですが、先の経営者は「う~ん」と考え込んでしまいました。

 

その経営者も多くの経営者と同じように品質の重要性を理解しています。一方、現場は少数精鋭です。品質確認に割ける工数には制約があります。

大事だけど、それをやりすぎても、儲けに直接つながらない。二律背反。ただし、お客様の信頼を回復させるという観点では重要な課題です。

では、お客様へ、品質について、何を訴求するのか?ここを明らかにしないと、的を射た品質活動ができません。

 

 

 

 

 

お客様が、QCD生産管理3本柱に寄せる関心の度合いは、各々に特徴があります。

お客様は我が社のコストに興味はありません。お客様が納得する価格なら、コストはどうでもイイです。したがって、コストをお客様に明かす必要はないですが、我が社としては、価格とコストの差異を明らかにしなければ儲けを把握できません。

 

一方、お客様は納期には興味を示します。欲しい時に欲しい分だけ持ってきてくれるかどうかです。お客様は短納期にも興味を示します。仕様を決めるのに時間が掛かっても、納期変更はしたくないからです。短納期はお客様に貢献します。技術料の上乗せが可能です。

 

さらに、お客様は品質にも興味を示します。ただし、納期とは少々異なる興味です。品質は重要です。重要ですが、できて当たり前という点に難しさがあります。

一方、必要以上に品質に手間暇かけても、儲けにつながりません。お客様が求める水準以上に品質が高くても、それ自体に価値(儲け)はないのです。

 

 

 

 

 

出来上がったばかりで発展途上の市場なら、お客様は、少々の不良に目をつぶってくれるかもしれません。イノベーター(革新者)やアーリーアダプター(初期採用層)の価値観なら、不具合への寛容さを期待できます。

ただし、新商品であっても、アーリーマジョリティ(前期追随者)、レイトマジョリティ(後期追随者)までに浸透してくると、品質は「できて当たり前」になるでしょう。

今の国内市場のほとんどは成熟した市場です。その意味で、国内において、品質は「できて当たり前」です。

 

重要だけれども、できて当たり前の「品質」は家の土台と言えます。目立たないですが、ここに欠陥があると、中に住む人は安心できなくなるのです。

だからと言って、土台を過剰に強固にしても、家で過ごす快適さには寄与しません。

クレームになると大ごとですが、必要以上に手を打っても、儲けにつながるわけではないのが「品質」です。経営者の戦略が問われます。

 

 

 

 

 

お客様は品質を「できて当たり前」と考えているのです。

そうしたお客様に、

「我が社の品質は高いです。」

「品質で迷惑をかけることはありません。」

「我が社の“日本品質”を期待してください。」

と訴求して刺さるでしょうか?

そうした言葉を耳にしたお客様は安心してくれるでしょう。

ただし、並み居る競合先の中から我が社を選んでくれる決定打にはなりません。競合先も同じことを訴えているからです。今や国内で「高い品質」は当たり前になっています。

したがって、品質それ自体を単独で取り上げて、差別化を図ろうとしても、競合先を凌駕できません。

「重要だが、差別化が難しい、これが品質である。」と考えます。

 

 

 

 

 

品質で訴求できることは、お客様に安心感を与えることまでです。

品質不具合品流出防止策をどれだけやっても、完璧はありません。絶対に流出しないとは言い切れないのです。自動車をはじめ各種メーカーのリコール報道はなくなりません。

 

問題を起こす企業は、手を抜いているわけではないですが、種々の事情で防ぎきれないのです。品質とはそうした類の課題であることを知らなければなりません。

 

品質で訴求できることは、お客様に安心感を与えることです。

・我が社のQMSを説明する

・品質不具合品が発生したら、すぐに駆けつけて対応させていただくと説明する

後者でお客様に対してできることは、品質不具合発生時の窓口連絡先を提示するくらいでしょう。差別化ではなく、安心感を与えるまでです。これ以上は実践で示すしかありません。

 

 

 

 

 

品質への評価は、いざというときに下されます。お客様から品質クレームが届いた時です。全てに優先して対応しばければなりません。

「すぐに駆けつけて対応させていただく」と説明しているのです。現場へ駆けつけ、選別作業、代替品の手配を迅速に進めます。

目的はお客様の不利益を最小化することです。それだけです。我が社の事情は関係ありません。我が社の事情に関係なく人と時間を投入するのです。

究極のタイムマネジメントが求められます。

ここで少しでも、我が社の都合が影響して、クレーム対応に時間的不備があると、お客様は不安になります。そして、その不安は不満になり、2度と選ばれなくなるのです。

 

お客様に「万が一、品質不具合品が発生したら、すぐに駆けつけて対応させていただく」と説明し、安心感を抱いてもらう以上、万が一に備えて、それを実践できる体制をつくっておかなければなりません。ここは重要です。

品質問題は製販一体で議論します。

クレーム情報が届いたとき、

・経営者が直ぐにお客様のところへ駆けつけられる場合

・経営者が直ぐにお客様のところへ駆けつけられない場合

それぞれでの具体手順を明らかにするのです。

お客様は、とにかく困ったことになったので何とかして欲しいと、考えているのです。お客様は我が社の事情に興味はありません。

お客様の不利益を最小化することだけを考えた体制を準備しておきます。これは、外を仕事場とする経営者にとっても大事なことです。

 

 

 

 

 

中小製造現場管理者時代、自動車部品一次加工品を納入しているお客様先で、品質クレームを起こしたことがあります。選別対象数が1万個を超える規模のクレームでした。

選別しながら、代替品製造を進めて対応したことがあります。お客様と連携しながら、事態を収束させるのに1週間ほどかかりました。

事態が収束した後、お客様へ、対策書で今後の対応を説明したのですが、その際に、お客様から、次のようなコメントをいただいたことを覚えています。

 

「一生懸命に対応してくださってありがとうございます。弊社の生産へはほとんど支障がなかったです。それにしても、あのY君の働きぶりは見事でしたね。Y君のような従業員なら我が社に来て欲しいです。ハハハ・・・・。」

 

お客様は品質不具合を流出させたこと自体に怒ることはなく、その後の対応に問題があったら怒るのだ、ということを実感しました。

選別作業などは、お客様の現場でやることになるので、我が社の従業員の仕事ぶりがお客様に見られます。Y君は右腕役として頑張ってくれていた30代前半の主任でした。

日頃伝えていることを実践してくれたY君と各作業者の頑張りのお陰で無難に乗り越えられたのです。

その後のビジネスへの悪い影響は皆無でした。お客様へ品質を訴求する本質を理解できた気がした出来事です。

 

 

 

 

 

品質不具合品の流出は絶対に起こしたくありません。

昨今の品質管理では「品質造り込み体制づくり」に焦点を当てます。「そもそも品質不具合品をつくらない」ことに焦点を当てた体制です。これはこれで重要な実務です。

 

そして、品質クレームゼロを継続することが究極の品質目標になります。品質クレームゼロを続けることは、お客様の信頼を獲得することに大いに貢献するでしょう。

ただし、現品を扱うのが人間である以上、避けられない間違いも起きると考えるのです。

完璧に流出ゼロというのもあり得ません。どんなに手を打っても、指と指の間から、こぼれるものはあると考えます。

そして、品質活動へ経営資源を過剰に投入しても、儲けに直接つながらない点には、注意しなければなりません。少数精鋭の中小現場としては、スマートにやりたい業務なのです。

 

どれだけ手を打っても流出ゼロにならないのであれば、流出防止策は厳守できる一定水準のルールに留めます。

その後はお客様から品質クレームが届いたときの対応について手順を決めるのです。めったに起きないことですが、万が一起きたときに威力を発揮します。

・経営者が直ぐにお客様のところへ駆けつけられる場合

・経営者が直ぐにお客様のところへ駆けつけられない場合

 

 

 

 

 

自動車部品工場時代の経験から、品質不具合品流出対応の要点は整理できていました。先の中小現場管理者時代の事例では、右腕役のY君がそれを実践してくれたのです。

品質不具合品流出への対応策は、万が一での手順となります。いざというときの手順です。普段やらないことだけに、「我が社の姿勢」が大事になります。経営者が右腕役や現場キーパーソンへ、日頃、どういうことを伝えているか?ということです。

 

現場の姿勢は経営者の言動次第です。悪い情報ほど、すぐに報告が現場から上がってくるなら、姿勢はできています。

 

「品質はお客様に訴求するとかいう前に、4階層の指示導線ですね。普段の姿勢が品質の訴求につながるようなので、そのように現場を指導します。」とは先の経営者の言葉。

先の経営者は品質の本質を理解しました。人時生産性を高めるにも、家の土台がしっかりしていないと、腰を据えて改革に取り組めません。品質は人時生産性向上活動で重要な役割を果たす裏方、黒子と言えます。

 

1年間のPJを通じて指示導線の本質を理解した経営者は、2年目に向けて事業のステージを高めようとしています。

次は貴社が挑戦する番です!

 

成長する現場は、品質クレーム第一報で迅速、適切に動くのでかえってお客様から選ばれる

衰退する現場は、品質クレームを他人事のように対応してしまいお客様から選ばれなくなる