「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第404話 工場を不在にする経営者は右腕役に何を報告させる?

「それを現場にやらせたいです。」

30人規模消費財メーカー経営者の言葉です。

 

右腕役に工場を任せられるよう指導に余念のない2代目経営者です。PJを通じて右腕役にスキルを高めてもらいます。

 

経営者の仕事場は外にあるので、経営者は工場を不在にします。

したがって、右腕役が、経営者に替わって、工場で仕事をするのです。ただ、経営者は、不在であっても、工場の状況を把握しなければなりません。

そこで、経営者は自分の考え方を右腕役に伝えたうえで、右腕役には的確な報告をしてもらう必要があります。

 

そして的確な報告には、現場の数値化が欠かせません。

日々、変化する現場です。何を報告させるのか?製造業の収益構造、付加価値額の積み上げ構造を知っていれば、はっきりします。

冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

製造現場では日々、何かが起きているものです。毎朝の日程計画進捗会議で「きのうは何もありませんでした。」という日はほとんどありません。何かが起きています。

経営者は、外での社長業に専念するため、日々変化する現場を把握する術を持たなければなりません。そして、右腕役に報告してもらえればそれができます。

右腕役に報告をお願いする以上、報告をしてもらえる環境を整えないといけません。それが数値化です。

「工場の状況はどうだ?」との経営者からの質問に、右腕役からの報告が下記では困ります。

「まぁまぁです。」

「順調です。」

「お客様への納期遅れはありません。」

1番目と2番目の回答は右腕役の「感想」になっています。経営者が知りたいのは「事実」です。数値化された判断基準を設定してあげなければなりません。

3番目は具体的なので、イイ感じであると言えます。しかし、これは、納期遵守を目的で事業経営している経営者の場合です。

多くの経営者は豊かに成長することを願っています。そうであるならお客様の納期ではなく、儲けるための我が社の納期が対象です。

事業を豊かに成長させる観点で、報告してもらう環境を整備しなければなりません。

・人時生産性を高める論点

・数値化された判断基準

この2つです。これらを右腕役に教えて、右腕役が経営者のかゆいところに手が届く報告をできるよう指導します。要点は製造業の収益構造です。

 

 

 

 

 

製造業の収益構造は、固定費VS付加価値額、付加価値額を積み上げて工程費を回収します。

年間の固定費VS付加価値額は損益計算書(P/L)から分かります。

P/Lは税務署へ提出する正式な成績表です。ここでの要点は固定費となります。そこで、P/Lから評価した固定費を収益構造の基準とするのです。

 

ただ、ご存じのように、P/Lの収益構造では棚卸資産増減が営業利益に影響を与えます。固定費計算ではこの点を留意しなければなりません。

そして、その固定費に経営者の想いが込められています。6割前後を占める人件費と設備費は将来投資です。投資したら回収しなければなりません。

製造業で豊かに成長するカギはここにあります。

 

 

 

 

 

工場を不在にしている経営者が工場の状況として知りたいことは何でしょう?製造業の収益構造を考えれば明らかです。経営者の想いがこもった固定費を1年、12ヶ月間で回収できない状況、それを赤字と言います。

そうであるなら、「固定費に対して、付加価値額が、ただ今、現在、どこまで積み上がっているのか?」、これが最も気になることではないでしょうか?

 

・本日現在、付加価値額は、○○○まで積み上がっていて欲しいが、実績は●●●である。

 

製造現場では、日々、何かが起きているものです。何も起きないことが稀です。そのような現場であって、気になるのは、付加価値額の積み上がり具合です。

計画通り積み上がっているのか?上がっていないのか?

経営者は積み上がり具合を把握さえできれば、種々の判断ができます。

 

経営者に不安が生じるのは、積み上がっていない事実が判明した時ではなく、積み上がっているのか?積み上がっていないのか?皆目見当がつかない時です。

問題点は、明らかにされれば、解決策を考えられます。しかし、問題自体が分からなければ、どうしようもありません。見えていないと、悪いことばかり頭に浮かぶものです。

現場でトラブルが発生したとしても、付加価値額は計画通り積み上がっていることを確認できれば、経営者は、まずは安心できます。

 

 

 

 

 

固定費VS付加価値額の構造にしたがって、年間、月間の付加価値額積み上げ状況を見える化します。右腕役に報告してもらう環境整備です。

積み上げ状況数値化の目的は、現場の変化を認識することにあります。経営者は変化の有無が知りたいのです。変化があったら、少しでも早く把握します。早ければ早いほど、その後が楽だからです。

ボヤなら消火できても、屋根まで燃えていては、燃え尽きるのを待たなければどうしようもありません。変化や異常は少しでも早く知りたいのです。

 

そのためには、現場が、付加価値額積み上げ状況を数値化できなければなりません。日々の積み上げ状況把握のやり方です。具体的にはデータ採取です。

・データ採取の時間間隔

ここが要点となります。データ採取の時間間隔には以下があります。

・1年毎

・半期毎

・四半期毎

・1月毎

・半月毎

・2週間毎

・1週間毎

・1日毎

 

変化を知りたい経営者は、1日毎の積み上げ状況が知りたくなります。

これは作業者にとっても同じです。作業者は、1年毎や半年毎よりは、1日毎にフォローと評価された方が動機付けのきっかけになります。

テストを受けたら、採点は早くやってもらいたいものです。

的を射た指摘なら、すぐに改善できます。

「チェックは小さく、対策は大きく」

これはPDCAを回すときの要点です。

 

 

 

 

 

日々是決算を現場で実践します。

決算と言ってもやることは製造完了品数カウントです。付加価値額が積み上がるのは、製造完了時と定義します。そして、その規模は、「製品毎の@付加価値額×製造完了品数」です。

製品毎の付加価値額を、日々、集計できる体制を作ります。そうすれば、日々の付加価値額積み上げ状況を数値化できるのです。

 

期首や月初をゼロとして、そこから製造完了品分付加価値額を毎日、毎日、集計し、時系列で積み上げます。積み上げた曲線の傾きが人時生産性に他なりません。

そして、固定費を12等分して1か月当たり回収する固定費の規模感を把握するのです。これを明らかにしておけば、毎月積み上げる付加価値額の目安が分かります。

 

毎月積み上げる付加価値額が決まれば、積み上げの傾きが自動的に決まるのです。右腕役には傾きを報告してもらいます。そうすれば、経営者は積み上げ状況や変化を把握できるのです。状況が見えている経営者は安心します。

 

 

 

 

 

「ただ、ここから出てくる損益はP/Lとズレますね。」

先の経営者の言葉ですが、その経営者の指摘通りです。

日々是決算とP/Lでは、材料費や外注費、場合によっては運賃の実績に差が出ます。集計の基準が違うからです。一方は製造完了で、一報が検収時です。

さらには棚卸資産評価が、一方はなくて、一方はあります。差が出て当然です。

 

ただし、これらのことは、「日々是決算」の目的を考えたら全く気になりません。些末なことです。外部へ報告するために使うのではありません。

経営者が的確な判断するために使います。判断するための精度で十分です。

 

それよりも、右腕役に報告してもらう環境が整備される効果の方が大きいでしょう。また、こうしたやり方を通じて、現場へのメッセージを届けることにもなるのです。

「我が社は日々の付加価値額の積み上げを気にしているのだぞ!」

こうした意思表示になります。納期遵守よりもステージが高くなるのです。

 

「あとはやってみてから考えます」

先の経営者はさっそく、右腕役に考え方を伝え、現場にやらせる準備に入りました。意欲的な経営者は行動が早いです。

次は貴社の番です!

 

成長する現場は、日々是決算により納期遵守より高いステージで人時生産性向上に取り組む

衰退する現場は、従来のやり方で納期を守るだけなので我が社の人時生産性は高まらない