「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第431話 上位階層が揃っていない現場で若手が思うことは?
「先生、うちは経営者層のベクトルが揃っていないです。」
数か月前に、プロジェクトに着手した40人規模部品メーカー、20代主任の言葉です。
人時生産性向上には手順があります。5大作戦です。まずは小さなPDCAを回します。そうして、種々の仕組みを作るわけです。
一方、こうしたプロジェクトで成果を出す前提条件があります。4階層指示導線が機能していることです。そこで、プロジェクトを始める前に、プロジェクトリーダーとメンバーへ経営者層のトップダウンが必要であることを説明します。
この企業でも時間を割いて、事例を挙げながら説明をしました。説明後、メンバーの1人である20代主任が声をかけてきました。冒頭の言葉です。
実務を担う管理者の1人である期待の若手は違和感を抱いています。その後の支援活動で状況を理解できました。
人時生産性を高めるには、製販一体が必要です。工場は造るだけ、営業は売るだけ。こんな境界線がある製造企業は儲かりません。
儲かる工場の要諦は「お客様に選ばれる商品を効率よく造る」です。工場はお客様のことを知らなければなりません。営業は工場のことを知らなければなりません。
外と内を融合させて、製販一体を醸成するのは経営者の仕事です。そこで、経営者は全社の縦方向にぐさりと太い串を刺します。それが指示導線です。
経営する人
管理する人
指示する人
作業する人
4階層指示導線で機能させたいのはトップダウンです。
経営者層からのブレない意志と意図を従業員へ示します。その意志と意図が製販一体体制の判断基準です。統一された判断基準が示されればチームは一体になります。従業員個別の勝手な判断基準は入り込みません。
・安全最優先
・品質に妥協なし
・フォロー抜きの指示はダメ
・困ったら助けてと声をあげよ
・現場は取り込むことに知恵を出せ
・人時を高めるためにチームで動け
・一人で抱え込むな
などなど、日頃から繰り返し現場へ語っていることが、土台となって、ここ一番での火事場の馬鹿力が発揮されるのです。
ベクトルが揃っていない経営者層の軸はブレています。「部課長によって言うことが違っている。」こんな経営者層の元では、火事場の馬鹿力は期待できないのは明らかです。
人時生産性向上プロジェクトを実践しようとすると現場にストレスが掛かります。
日常の納期遵守の仕事に加えて、やらなければなりません。
できないことをできるようにしなければなりません。
今までのやり方を変えなければなりません。
あえて、わざわざやらないとプロジェクトは進みません。
プロジェクトをやると一定期間、現場の負荷が増えます。だから、プロジェクトの推進力を高めるためにはトップダウンが欠かせないのです。
ところが先の20代主任はそこに我が社の問題を感じていました。
・部課長によって言うことが違う
・困り事があって相談しても、解決の行動をとってくれない
・部課長から指示があっても、その後、なんのフォローもない
・部課長間で仕事上の意見衝突がしばしばみられる
こんなことが起きているようです。
経営者層のベクトルが揃っているとは言えません。
例えば、「意見の衝突」。それ自体、悪いことではないです。プロ意識を持って仕事をすれば、意見の相違にぶち当たることはあります。
経営者層ですから経営方針での熱い議論は大事です。
ただ、先の主任から指摘のあった「意見の衝突」は、そうした水準の話ではなく、単なる仕事の手順でした。そもそも、それは経営者層が議論する話ではありません。
百歩譲って、その議論をヨシとしたとしても、部下にそうした、単なる言い合いの場を見られること自体、経営者層の自覚が足りないと言わざるを得ません。
そんな状況を見せられた部下は何を感じるか?そんなことにも思い至らない職制しかいない企業では、先行き不安です。実際、先の主任はこんなことを漏らしています。
「ウチの会社はだいじょうぶでしょうか?
4階層指示導線でトップダウンを機能させないと儲かりにくくなります。経営者層の意志や意図がブレてしまっては、製販一体に至らないからです。
そして、もう一つ大事な論点があります。
製造現場の工程間連携です。
現場は複数の工程で構成されています。多くの現場は機能別組織です。切断工程、曲げ工程、塗装工程、検査工程・・・・。工程毎にチームが構成されていることが多いです。
そうした機能別組織のチーム内、工程内は概ね上手くやれています。ただし、工程と工程の間、工程間では事情が変わってくるのです。
貴社では工程間連携が機能していますか?
詰めて、空けて、取り組むにも、品質造り込み体制を構築するにも、工程間連携が必要です。いわゆる横のつながりです。自工程優先、業務線引きの思考に侵されている現場に欠けているのが、この横のつながりです。
前後工程のみならず、全工程と関わる意識が求められます。そして、この横のつながりを醸成する特効薬はありません。それを実践するには作業者1人ひとりが持っている意識や姿勢が問題になるからです。
他人の意識を変えるのは容易なことではありません。経営者層の仕事ぶり、つまりトップダウンで導く以外に手はないのです。
工程間連携を促すために、経営者層はベクトルを揃え、指示導線でトップダウンを機能させます。これは大手と中小における実務を通じて至った経験則です。
上質な工程間連携があれば、生産性を高められ、利益アップ、給料アップを実現できます。
したがって、経営者層のベクトルが揃っていなくて、トップダウンが機能していない現場では、現場の横のつながり云々の前に、やるべきことがあるのです。
経営者層のベクトル揃え。
4階層の指示導線なくして、現場の自主性が生まれるはずがありません。部下は上司の言動に学びます。ベクトルが揃っていない経営者層を見せられた若手は何を思うか?
経営者層が若手に不安しか感じさせていないとすれば、どちらが会社の将来を心配しているのかわかりません。
先の企業の経営者は、当然、この問題を認識しています。相談をいただいたことのひとつでした。
先代から事業を引き継ぎましたが、チーム力で仕事をすることに慣れていない、個力依存の企業です。先代の時代からそんなやり方でした。
これまではそれでも良かったのですが、次世代へ向けて、このままではマズいです。経営者は、経営者層となる職制の意識を変え、人時生産性を高めたいと考えています。
長年、それでやってきたので簡単に変わるとも思っていません。ただ、やらねば将来行き詰るのも目に見えています。時間を味方につけて、じっくり腰を据えてやるのです。
幹部会と銘打って、毎朝30分ほど、部課長と意思統一する会議を開催している経営者がいます。また、製販一体で議論する場を定期的に持っている経営者がいます。幹部との双方の業務議事録でフォローをしている経営者がいます。
これらは、全て、経営者層のベクトルを揃えるためです。トップと同じ思考になってもらうには、膝を詰め、額を寄せたコミュニケーションしか手段はありません。ここは、手間暇かけて、あえてわざわざやります。
また、経営者層でのコミュニケーションは、口頭による、定性的なものではなく、文書による、定量的なものにすることも大事です。工場経営を数値化する必要がありますが、それができれば経営者層での連携はやり易くなります。
経営者の意志や意図が、明文化され、数値で出されれば、経営者層での意思統一が図られるのです。数字が経営者に代わって、経営者層に働きかけてくれます。
先の企業が扱っている製品は、規格品です。生産指標として、稼働率やCT、良品率などを指標にできます。
先の20代主任のような意欲的な人材がいるにも関わらず、その人材を活かせないどころか、我が社の将来に不安を感じさせる職制は、経営者層に属する資格なしです。
経営者は、経営者層のあるべき姿を指導する必要があります。繰り返し指導すれば、変わるきっかけにはなるものです。
次は貴社が挑戦する番です!
成長する現場は、経営者層のベクトルが揃っているので指示導線トップダウンが機能する
衰退する現場は、経営者層のベクトルが揃っていないので現場に不安を感じさせてしまう