「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第434話 職制のリーダーシップが欠ける現場に共通していることは?

「現場を引っ張る部課長がいません。」

 

先日の個別相談で、困った表情を浮かべながら説明してくれた30人規模切削加工企業経営者の言葉です。

10年ほど前から年商4億円規模で横ばい、営業利益率も数パーセント水準で推移しています。ベテラン従業員がいるうちは、力づくで仕事を回していても事業は継続できそうです。

ただし、ベテラン従業員が抜けた後のことを見通すと、このままでいいだろうかと、焦りを感じます。先の経営者は、これまでも、現場改革を目的とした各種の指示を出してきました。

しかし、現場改革は進みません。冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

企業とは変化適応業、変化創出業とも言われます。

企業が成長発展するには、外部環境の変化に対応する能力が問われるのです。規模が大きいとか、今、強いからとかは関係ありません。

これはダーウィンの進化論でも言われていることであり、かつてのフィルム業界を支配していたコダックと富士フィルムのその後を見れば分かります。

将来、起きる変化に対応できるどうかの方が重要です。

 

先の経営者は仕事のやり方を変えて、年商規模を成長させたいと考えています。攻撃は最大の防御。地域で生き残るために、同業他社に先駆けて、生産性が高い企業に変えるのです。

今後、同業他社が廃業したとき、そこの仕事を取り込めるだけの能力があれば、大手から選ばれるかもしれません。現場改革で、仕事のやり方や思考回路を、今、変えたいのです。

 

ただし、現場改革は簡単にやれません。

人間なら、誰でも、今のやり方が楽です。人はそもそも怠け者です。変えるにはエネルギーを要します。頭で分かってもなかなか継続できません。

生産性向上プロジェクトとはそもそもそういう類の仕事です。足元の収益を確保する日々の納期遵守業務に「加えて」やるのが現場改革なのです。

「加えて」でも、あえてやるにはチーム全体の馬力を上げるターボの存在が欠かせません。指示導線の経営者層、管理者層の役割がこれです。

 

 

 

 

 

指示導線の経営者層、管理者層とは通常、組織上の職制になります。職制が経営者に代わってリーダーシップを発揮するのです。

経営者の仕事場は外にあります。経営者は内の仕事を他の誰かに任せなければなりません。それが職制です。職制が、経営者に代わって、内を仕切ります。

したがって職制の視点は常に経営者に向いていなければならないのです。経営者の意志や意図を読み取らなければならないからです。

職制は、トップダウンで降ろされた経営者の意志や意図を現場へ伝え、導きます。

 

先日、ある支援先の職制が次のような発言をしていました。

「社長から教えてもらっていないから分からない。」

この職制は視点が経営者の方を向いていません。職制の役割を理解していないようです。こうした思考回路を持った職制と一緒に仕事をする若手はどうなるでしょう。

 

人時生産性向上プロジェクトは現場改革です。

日々の納期遵守業務に「加えて」、あえてやらなければならないので、その継続は簡単ではありません。経営者は、誰かの協力を得なければできないのです。その協力者が職制です。

経営者は、職制の役割を教え、指導する必要があります。製造現場を機能させる4階層指示導線を指導するのは経営者の仕事です。

 

 

 

 

 

職制のリーダーシップが欠ける現場に共通していることがあります。

・時間軸や納期を決めないで、現場改革をすすめようとする。

 

現場は日々、納期遵守の仕事をしています。ただ、これはお客様から与えられた納期です。当然ですが、お客様から要望された納期を守ることは製造業の基本となります。

ただし、人時生産性向上のような現場改革の納期を決めてくれる人は外部にはいません。自ら、設定する必要があります。

職制にリーダーシップをとる意識がなければ、時間の流れの中で、なんとなくやるだけです。プロジェクトの納期が守られるわけはありません。

 

一方、現場を引っ張ろうという思いがあれば、改革のトライアンドエラーをするために、職制は現場の誰かに協力を求めたくなります。ひとりではできないのが改革です。

そうであるなら、誰に、何を、いつまでにやるかを現場へ説明する必要が出てきます。

計画の立案です。

 

例えば、現場の多能工化を進めたいと考えたとします。

まずは、対象実務を思い浮かべるところからです。

その後、思い浮かべた対象実務について、誰に、何を教育するか?どれくらいの時間をかけるのか?成果はどうやって計測するのか?多能工化が上手くいったら生産性向上にどれほど貢献するのか?こうしたことを、頭の中で考えます。

こうした計画立案の要点は2つです。

・将来に必要な項目を思い浮かべられること

・時間軸を設定すること

 

特に後者の、「職制が、自ら、時間軸や納期を設定して、現場を動かす」が大事です。具体化と抽象化をいったりきたりしながらやるのが、計画の立案です。

 

それまで、お客様から与えられた納期を守ることしかやってこなかったベテランにとって、難易度の高い仕事です。自ら、時間軸を設定することに慣れていません。具体と抽象の思考も簡単ではないです。

したがって、リーダーシップを発揮しようがないと言えばそうなります。

ですから、プロジェクトを通じて、職制は、PDCAを回すやり方を学ぶのです。

 

計画表に意志や意図が込められます。現場キーパーソンの協力をもらうために、自ずと人を動かす仕事のやり方に変えなければならなくなるのです。職制の要点は、自分で作業をすることではなく、人に動いてもらう仕組みをつくることにあります。

 

・経営者に代わって、内を仕切るのが職制の役割である

・職制が計画を立てて、納期に意志や意図を込める

・職制は現場キーパーソンの協力を得る

経営者に代わって、職制がリーダーシップを発揮し、現場改革を推進するのです。時間軸や納期を自ら決め、フォローできなければ、経営者の代わりになりません。

 

経営者に代わってやってもらうわけですから、職制へしっかり伝える必要があります。特に時間軸の設定が大事です。外に仕事場がある経営者は内のことを右腕役いかに任せなければなりません。職制がリーダーシップを発揮できるようにするのは経営者の大切な仕事です。

 

 

 

 

 

「結局、ベテランに意識を変えてもらわなければならないですね。」

相談の中で出てきた、先の経営者の言葉です。経営者の方々と話をして、しばしば出てくる言葉のひとつに、この「意識」があります。

 

「従業員が自分の意識を変える」と言う場合、概ね、結果は3つのパターンです。

1)意識を直ぐに変えてくれた。

2)意識を変えるのに時間がかかったが、最後は変えてくれた。

3)意識を変えられなかった。

 

1)は、外部からの刺激を受けて、目から鱗が落ちる従業員です。他社事例など、外部の情報に触れて、「なるほど!」と知った、その瞬間、頭の中でコペルニクス的転回を起こせる従業員です。

 

2)は、パソコンのOSを変更するのに時間がかかる従業員です。変わらなければならないことは分かっていますが、従来の方が楽なので、安きに流れます。ただ、本人は変わりたいと考えているので時間を要しますが変われる従業員です。

 

3)は、生き様で意識がそうなった従業員です。意識とは普通、その人の生き様で決まるものであり、そもそも、人から教えられるものではありません。本人の本気が無い限り、変えることは難しいものです。

 

そして、それぞれの結果は、経営者の言動に大きな影響を受けていると感じています。現場は経営者の鏡です。そのことを伝えると、先の経営者の頭にひらめきが起きたようです。

職制に意識を変えてもらい、現場を引っ張ってもらいます。

挑戦する経営者は決断、実行が早いです。

 

次は貴社が挑戦する番です!

成長する現場は、職制のリーダーシップが従業員を後押しするので現場改革がドンドン進む

衰退する現場は、職制が仕事のやり方を変えられず作業をこなすだけなので改革は起きない