「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第496話 内での主導権を意図的に設計しているか?

「外注先の存在がネックになっています。」

支援先である40人規模設備メーカーで開催した実践会の場で、プロジェクトリーダーから出てきた言葉です。

 

今回のテーマは、人時生産性を高め、付加価値額を積み上げるために、どこにボトルネックがあるのかを洗い出すことでした。

この会社は特注品が中心の設備メーカーで、生産数量よりも、いかに多くの案件を処理できるかが成果を左右します。つまり、付加価値額の積み上げは「処理案件数」によって決まる構造です。

 

そこでまず確認したのが、お客様からの問い合わせを受けてから見積もりを出し、受注を決め、現場へ作業指示を出すまでの一連の流れでした。

案件数を増やすには、この流れを高速で回す必要があります。しかし、その途中で頻繁に止まる箇所がある。それが外注工程でした。

 

この企業の外注先は自社の都合を優先するため、こちらの希望どおりに短時間で対応してくれるとは限らないのです。

プロジェクトリーダーは以前からここに問題があると感じていました。そこで改めて言葉になったのです。

 

ただし、この問題は、現場だけで解決できるものではありません。外注は作業の問題ではなく、事業構想と直結した経営課題だからです。

外注先との関係をどう設計するのか。それは、儲かる事業構造をどう描くのか、という問いそのものにつながっていきます。

 

なぜ、経営者が、この外注の課題を進めなければならないのか?

理由があります。その理由とは?

 

 

 

 

 

外での主導権は難しい

 

繰り返しお伝えしていますが、経営者の仕事場は工場の中ではなく外、つまり市場にあります。付加価値額の源泉は市場にしかなく、工場の中をいくら見渡しても、新たな付加価値は生まれません。

 

経営資源に制約がある中小製造企業において、人時生産性を高めるとは、分母を大きく変えられない前提で分子、すなわち付加価値額を積み上げていくことです。そのヒントは、常にお客様の側にあります。

 

お客様のもとへ足を運び、耳の痛い指摘を受けることもあれば、期待を込めた言葉を掛けられることもあります。そうした生のやり取りのなかに、儲かる事業構造の芽があるのです。

この仕事は経営者にしかできません。

営業担当者が代わりに行ったとしても、経営者と同じ温度感、同じ責任感で本音を引き出すことは難しいでしょう。だからこそ、経営者がわざわざ時間を割いて市場と向き合う必要があるのです。

 

外での儲かる事業構造を考える際、経営者が念頭に置かなければならないことがあります。「選ばれる理由」です。判断基準は全てお客様側にあります。

 

お客様には常に複数の選択肢があります。そのなかから我が社を選んでもらえなければ、そもそも商談の土俵に上がれません。

だから、多くの経営者は差別化に知恵を絞るのです。差別化が進み、唯一無二に近づくほど、価格や納期について、我が社の要望を通しやすくなります。

 

しかし現実は厳しいです。唯一無二の商品、製品、サービスというのは、なかなかあるものではありません。競合が存在する以上、多くの経営者は、次のような言葉に直面します。

「もっと価格を下げられませんか」

「もう少し納期を短くできませんか」

 

極端に言えば、価格や納期の決定権はお客様側にあり、我が社には、主導権がほとんどありません。これは、生殺与奪の権を握られている状態とも言えます。

 

このように、外で主導権を握ることは本質的に難しいのです。市場原理を前に、我が社の思惑だけを押し通すことはできません。その現実を正しく認識したうえで、経営者は考えなければならないのです。

 

外で主導権が持てないなら、どこで、どのように主導権を握るのか。儲かる事業構造では主導権を握れるところで、しっかり握ることが大事なのです。だから内で主導権を設計するしかありません。

 

 

 

 

 

内での主導権を設計する

 

外(市場)では主導権を握りにくい。これは市場原理から見て避けられない現実です。お客様の要望に応えることが前提であり、価格や納期についても、我が社の思い通りに決められる場面は多くありません。

 

だからこそ、儲かる事業構造を考えるうえで重要になるのが、内(工場)での主導権をどう設計するかという視点です。

外で主導権がないにもかかわらず、内でも主導権を持たない状態になれば、付加価値額は削られる一方になります。

 

外からの要望に振り回され、内側でも他者都合で物事が決まる。その構造では、人時生産性を高めることはできません。外で主導権を握れない分、内では意図的に主導権を握る構造を設計する必要があるのです。

 

内での主導権とは、工場内の意思決定を自社基準で行える状態を指します。

工程の組み方、段取りの順序、負荷のかけ方、さらには外注の使い方まで含めて、「我が社にとって儲かるやり方」を基準に決められる状態です。その代表例が外注先との関係です。

 

外注先は、経営資源に制約がある中小製造企業にとって欠かせない存在であり、単なる下請けではなく、事業を共に支えるパートナーです。

にもかかわらず、価格や納期について、外注先の都合に全面的に引きずられているとしたら、それは内での主導権を失っている状態だと言えます。

 

内での主導権を設計するとは、外注先に対して一方的に強く出ることではありません。むしろ逆です。経営者自らが足を運び、我が社の事業構想や将来像を丁寧に伝え、協力を仰ぐことです。

 

主導権とは、命令する力ではなく、協力を引き出せる関係性のなかにあります。相手を従わせるのではなく、「この会社と一緒に仕事をしたい」「この経営者の構想に乗りたい」と思ってもらえるくらいの状態をつくることです。

 

立場の上下で動かすのではなく、将来像を共有し、腹落ちした判断で動いてもらえる関係こそが、本当の意味で主導権を握っている状態だと言えるでしょう。

 

そのためには、我が社が困ったときに助けてくれる外注先を意識的に育て、選び、関係を深めていかなければなりません。経営者はそうしたパートナーと出会う努力を惜しんではならないのです。ご縁は自ら引き寄せます。

 

価格や納期について、無理を承知でお願いする場面も出てくるでしょう。そのときに一緒に踏ん張ってくれるかどうかは、日頃からの関係づくり次第です。外注は作業上の工夫ではなく、明確な戦略課題なのです。

 

重要なのは、内での主導権を握るために、経営者が内にこもらないことです。内での主導権を設計するために、経営者は外に出てパートナーを探し、関係を築く必要があります。

その一方で、工場を不在にしても回る体制、右腕役や現場キーパーソンに任せられる仕組みづくりが不可欠です。

 

内で主導権を握るとは、経営者が全てを抱え込むことではありません。意思決定の基準を示し、その基準で現場が動ける状態をつくることなのです。

 

 

 

 

 

経営者の時間軸は将来を向いている

 

内での主導権を設計するという話をすると、「それは分かるが、今は目の前の仕事で手一杯だ」という声が返ってくることがあります。

確かに、中小製造企業の現場は日々の納期対応で余裕がありません。しかし、それでもなお、経営者の時間軸は「今」ではなく「将来」を向いていなければなりません。

なぜなら、将来の事業構造を決められるのは、経営者しかいないからです。

 

外での主導権を少しでも取り戻し、内での主導権を確実に握る。そのための布石は、今日・明日の売上対応ではなく、数年先を見据えた意思決定によって打たれます。

外注先をどう位置づけるのか、自前でやる領域をどこまで広げるのか、どの技術を磨き、どの仕事を手放すのか。これらはすべて戦略の話であり、現場判断では決められません。

 

外注は典型的な戦略課題です。

コア技術を磨いて内製化するのか、設備投資で対応するのか、それとも外のパートナーと組むのか。どれを選んでも正解は一つではなく、時間をかけて育てていくしかありません。

 

しかも、信頼できる外注先との出会いは年々難しくなっています。

中小製造企業の数は減り、積極的な経営者ほど、早い段階からパートナーの囲い込みに動いているからです。外注戦略は、実は、早い者勝ちです。

 

だからこそ、経営者は工場を不在にする覚悟を持たなければなりません。市場に出向き、顧客と向き合い、パートナーを探す。

その間、工場を任せられる右腕役や現場キーパーソンを育て、判断基準を共有し、仕組みで回る状態をつくる。これは一朝一夕にはできませんが、やり始めなければ何も変わりません。

 

経営者の時間軸が将来を向いているかどうか。その姿勢が、内で主導権を握れる会社になるか、外にも内にも振り回され続ける会社になるかを分けます。

内での主導権は、偶然手に入るものではありません。将来を見据え、時間を味方につけた経営者だけが、設計できるものなのです。

 

この企業では、冒頭の言葉をうけて、外注先探索を経営課題として取りあげることにしました。ロードマップに課題が追記されたのです。

この支援先の経営者は、既に、外での仕事に時間を割いています。新規、既存のお客様とのご縁で成果が出つつあります。ここに、パートナー探しを加えるのです。

この経営者はますます、工場を不在にすることになります。

そして、この企業の経営者は、工場を任せられる右腕役と現場キーパーソンの指導も並行して進める必要があると考えているので実践会をやっているのです。

次は貴社が挑戦する番です!

 

成長する現場は、経営者が構築した内での主導権を活かし付加価値額をドンドン積み上げる

衰退する現場は、外も内も主導権を握れずに外部要因に右往左往するだけで積み上がらない