「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第504話 言われたことしかやらない従業員はなぜ生まれるのか?

「言われたことしかやらない従業員がいるのです。」

 

先日、個別相談に来られた経営者が、開口一番こう言いました。

 

従業員10人前後の小規模な製造企業です。溶接をコア技術として事業を展開しています。材料はお客様から支給され、それを接合し組み立てる工程で付加価値を生み出す、つまり売上のほとんどが付加価値という仕事です。

 

お客様の要望は千差万別で、その一つひとつに応えるところに同社の強みがあります。ただし、この強みは現場の技能と判断力に大きく依存するということでもあります。

従業員は10人前後。誰かが有給休暇で抜ければ、他の仲間が補わなければなりません。互いに仕事を教え合い、補完し合うことが前提の職場です。

経営者としては、従業員には幅広い技能を身につけてもらい、多能工として成長してほしいと考えています。

 

ところが現場では、必ずしもそうなっていません。

「言われたことしかやらない従業員がいるのです。」

 

仕事の範囲を広げようとしない。新しい作業を覚えようとしない。自分の担当以外の仕事には手を出さない。その結果、その従業員の工程が来るたびに社長が細かく指示を出さなければ仕事が進まないのです。

 

さらに、この経営者はもう一つ困ったことを教えてくれました。

「給料アップに対しての意欲もないのが困ったものです。」

 

技能を高めてくれれば給与や賞与で報いる。そう説明しても反応が鈍い。「今の給料のままでいいので、今の仕事の範囲でやりたい。」そういう価値観の従業員もいるのだと言います。

 

かつて、多くの現場では「技能を高めれば報われる」という仕組みが動機付けの一つになっていました。この経営者も以前、赤字を黒字化させた経験があります。

その時、現場の士気を高めた要因の一つが給与アップでした。しかし時代とともに価値観も変わってきているのかもしれません。

 

そして、問題は、ここからです。

「今のままでは、現場に張り付いていないと仕事が回らないのです。」

 

本来であれば、お客様と会い新しい仕事の可能性を探りたい。しかし現場の状況が気になり外へ出られない。実際に、お客様からの相談を社内事情で断ったこともあると言います。

「このままでは、従業員にかかりっきりになって疲弊してしまいます。」

 

そう言って、その経営者は少し自虐的な笑顔を見せてくれました。

少数精鋭の現場では、人材指導の考え方そのものが変わります。従業員一人ひとりの影響が大きいからです。

 

では、こうした現場で経営者はどのような観点で人材指導を考えるべきなのでしょうか。その論点とは?

 

 

 

 

 

●少数精鋭職場の人材指導で考えたい事とは?

この相談を受けたとき、まず経営者に確認しました。

「従業員は何人ですか?」。

 

答えは「10人前後」です。ここに、この問題の本質があります。少数精鋭の職場では、従業員一人ひとりが全体に与える影響が小さくありません。

10人の職場で一人の動きが鈍れば、組織力の一割が弱まることになります。数百人規模の企業であれば数人の影響は限定的であり、配置転換や代替人材も存在します。

 

しかし、中小現場ではそうはいきません。だからこそ、従業員一人ひとりに目配せする仕組みが必要になるのです。

 

ここで重要になるのが「右腕役」と「4階層指示導線」です。経営者の考えを現場に伝え、同時に、現場の状況を経営者へ返してくる導線です。

 

経営者の仕事場は本来外にあります。お客様と会い、事業機会を見つけ、将来の方向を考えることです。

 

したがって経営者が常に現場にいて作業者の声を直接聞くことは現実的ではありません。右腕役を中心に、指示と報告の導線を設計することで、現場の状態を経営者にフィードバックさせる必要があります。

 

この導線を機能させるために重要になるのが「フォローと評価」です。人は自分の仕事を見てくれていると感じると自然と声を出します。逆に誰も見ていないと感じれば人は黙ります。

 

 

中小現場で経営者にきちんとフィードバックが届く会社には共通点があります。それは経営者層と作業者との間に信頼関係があることです。

 

「うちの上の人は私たちのことを理解してくれている」

作業者がそう感じている職場では、悪い話も自然に報告されます。

 

このフィードバックがあるから、トップダウンが浸透します。経営者の意図が現場に伝わり、その結果が再び経営者に戻る。この循環が組織を動かします。

言われたことしかやらない従業員はなぜ生まれるのか?

自分の仕事を見てくれていると感じるか否か、この辺りに答えがありそうです。

 

 

 

そして、ここで、重要な観点があります。経営者が働きかける対象には二つの層があるということです。

 

1)一つは、右腕役をはじめとする意欲的で自主的な従業員層です。

当事者意識が高く、自分から動く人材です。こうした人材を励まし役割を与え、先頭に立ってもらうことで組織を引っ張る方法があります。

 

2)もう一つは、言われたことしかできない、自主性が低い従業員層です。

やればできる可能性はあるものの、自分から動こうとしない層です。こうした従業員に働きかけ、最低限の行動水準を引き上げることで組織力を高める方法もあります。

 

どちらを重視するかは経営判断です。

 

今回相談を受けた経営者は、自社の現場を見渡し、今必要なのは「底上げ」だと判断しました。幸い、意欲的な従業員が右腕役を含めて2名います

 

そこで、この2名の協力を得ながら、言われたことしかできない従業員から気持ちを引き出し、現場全体の底上げを図ることにしたのです。

 

そして、経営者と底上げの具体策を議論しました。

具体策は一つではありません。会社ごとに状況は異なります。ただし共通して考えるべき論点はあります。それが「フィードバックの有無」です。

 

今回の現場では、右腕役の存在のおかげで一定水準のフィードバックは機能しています。そうであるならば、次に考えるべきは、継続的なフォローと評価の設計です。

 

誰が誰をフォローするのか。どのような行動を評価するのか。この整理が現場の底上げを現実的な取り組みにします。

 

 

 

 

 

●人材指導で中小現場の凝集性を高める

 

ここで、経営者に考えていただきたいことがあります。

人材指導の方針には大きく二つの考え方があるということです。

 

一つは「トップを引き上げる」ことです。能力の高い人材をさらに伸ばし、その人を中心に組織を引っ張る方法です。

もう一つは「ボトムを引き上げる」ことです。できない人をできるようにし、組織全体の水準を底上げする方法です。

 

多くの大手企業は、前者を採ります。従業員数が多く人材の層も厚いからです。トップ層をどんどん伸ばし、適応できない人がいれば、配置転換や代替人材で対応できます。

 

しかし少数精鋭の中小企業では事情が異なります。人材の絶対数が少なく、新しい人材を簡単に確保できるわけでもありません。そのため多くの場合は「ボトムアップ」、つまり底上げを優先せざるを得ないのです。

 

経営者が命令して、「やる気」を生み出すことはできません。人にできるのは、それを引き出す環境を整えることです。その論点が「フォロー」と「評価」です。

 

誰が誰を見ているのか。誰が誰を支えているのか。どの行動が評価されるのか。これが明確になると人は安心して行動します。

 

底上げとは、上の人をさらに伸ばすことではありません。できなかった人をできるようにすることです。チームとして、できない人をできる人へ変えていくことです。

そうやって、従業員が処理する業務の品質を高めます。業務の高品質化。

 

多くの従業員が、一定水準の業務をこなせるようになると、現場は大きく変わります。互いに補完し合い、教え合う関係が生まれ、組織の凝集性が高まるからです。お金以外の価値観はこのあたりにあります。チーム力に基づく「やりがい」です。

 

 

 

ただし、ここで経営者が見極めなければならないことがあります。

それは「できない理由」です。

 

一つは「やろうとしているが能力的にできない人」です。この場合は教育や訓練が必要です。もう一つは「やればできるのに、やろうとしない人」です。この場合は指導が必要になります。ここへの適切な対応も欠かせません。

現場で何をやるかを決めるのは、従業員ではなく経営者だからです。

 

会社が必要とする業務を明確に示し、それが、会社のルールであることを伝える必要があります。ルールである以上、守らなければならないのです。

 

底上げとは、単なる優しさではありません。会社として必要な業務水準を示し、それを全員ができるようにする経営判断です。底上げが進めば応用が効く従業員が増えます。現場の対応力が高まり、経営者が細かな指示を出さなくても仕事が回るようになります。

 

その結果、経営者は現場から離れ、外と向き合う時間を取り戻せるのです。

 

 

 

全ての従業員は縁があって我が社の仲間になった人たちです。

一人として取り残さず力を発揮してもらう。そのための仕組みを整えることこそ、少数精鋭の中小企業における経営者の仕事なのです。

 

そして、その仕組みが動き始めたとき、社長は、ようやく現場から離れ、外での時間を取り戻すことができます。

 

中小製造企業の経営とは、社長が外で戦える組織をつくることなのです。

次は貴社が挑戦する番です!

 

成長する現場は、現場の底上げで一人として取り残されず頑張るので組織力が高まる

衰退する現場は、作業者1人ひとりへの目配せができず底上げできないから劣化していく