「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第506話 応用できる現場はなぜ生まれるのか?その答えは「基礎」にある

「先生、自分の工程が終わったら、遅れている工程に向かわせます。」

40人規模の金属製品メーカー、現場主任が、カイゼンの打ち合わせの中でそう話してくれました。

 

その職場は、切断、プレス、ベンダー、溶接、組立という工程で構成されています。1階で切断された部品が2階へ運ばれ、そこで一連の加工と組立が行われるのです。

 

日々、10~20の工番を並行してこなし、ロットサイズは5個から50個程度。5~6名作業者で構成されたチームは多能工として作業をさばいています。各作業者が複数工程を担当しながらモノを流していく現場です。

 

一見すると、体制としてよく整っています。人は動いています。手も止まっていません。現場を見ていると、各人が自分の作業をこなしているように見えるのです。

 

しかし、経営者は首をかしげていました。

 

 

 

「競合の現場を見る機会があったのですが、モノの流れが違うのです。ウチも同じような設備と人員なのに、競合先の水準に至っていないのはおかしい。できない理由はないと思うのです。」

 

出来高が伸びない。忙しく動いているのに、数字が上がらない。人時生産性が思うように向上しない。その違和感が、このプロジェクトの出発点でした。

 

現場主任をはじめとした4名のメンバーとともに現場で、モノの流れを確認しながら出来高向上の論点を探っていきます。メンバーは事前にボトルネックの考え方を学んでおり、日程計画に活用していました。

 

その知識をもとに現場を見直していく中で、論点が整理されていったのです。ボトルネック理論の要点を理解していれば、それに沿った見方ができます。

 

「どこを見るべきか」「どう動けば全体が速くなるか」を自分たちで考え、部分最適だけではなく、全体最適の議論が深まっていきました。

 

冒頭の言葉は、その中で出てきたものです。

 

 

 

メンバーは、知識を現場の状況に当てはめ、自分たちの言葉に置き換え、具体策を考えています。いわば、応用が効いている状態です。

 

知識を伝えても、それを活用できる現場とできない現場があります。支援先の現場で、その差を何度も見てきました。

 

この違いはどこから生まれるのか?

応用力とは、いったい何によって決まるのか?

 

 

 

 

 

●応用が効く現場は、なぜ生まれるのか?

 

この職場のモノの流れを整理すると、問題の全容が見えてきます。

・ある工番でロットサイズが30個の場合、30個分の材料が一度に2階へ上がってくる 

・その30個分の塊が、プレス、ベンダー、溶接、組立という工程を順番に流れていく 

・5~6名の作業者が、それぞれ複数工程を担当しながら手分けして処理する 

 

ここまでは多くの中小製造業でも見られる姿です。問題は体制ではなく、多能工チームを機能させる方針とやり方にあります。

 

現場を観察すると、作業者一人ひとりは確かに動いています。自分の担当工程に向き合い、手を止めずに作業しています。しかし、チームとしての動きになっていません。

 

・自分の工程が終われば一息つく 

・次の工番の作業に取り掛かる 

・あるいは、自分に割り当てられている次工程作業を進める 

 

個々の判断は間違っていません。しかし全体最適の観点ではズレが生じ、結果として部分最適に留まっているのです。

 

 

 

この職場の成果は、プレス、ベンダー、溶接、組立のすべてが終わって初めて得られます。どこかの工程で滞れば出来高は増えません。収益化につながる成果の対象は、工程毎の仕事ぶりではなく、全工程を通過した製品です。

 

にもかかわらず、作業者の判断基準は自分の工程にとどまっています。全工程を見渡す視点が抜けているのです。ここに構造的なズレがあります。

 

必要なのは、全体最適での作業分担統制です。

 

・全体の流れを見る 

・遅れている工程、詰まっている工程を見つける 

・そこを担当している仲間を助ける 

 

この判断基準に立てば、「遅れている工程に向かわせる」は合理的な行動となります。ボトルネックの考え方に従った判断です。

 

 

 

工場全体の能力は、最も遅れている工程で決まります。本来の対策はボトルネックの解消です。しかし中小では容易ではありません。

したがって現実解は「解消」ではなく「対応」です。

 

・止めない 

・稼働時間を最大にする 

・正味作業を増やす 

等々。

 

この方針を実現する具体策の一つが「人の再配置」です。重要なのは、「誰が判断し、誰が旗を振るのか」です。

 

多能工チームでロットを流す以上、ボトルネックは状況によって変わります。したがって、「遅れている」「詰まっている」を判断し、誰かが再配置を指示する必要があるのです。

これは現場に立てば分かります。

 

しかし、この現場ではそれが機能していません。ここが問題の原因です。そして、その理由は明確です。

・判断基準が共有されていない 

・現場キーパーソンの役割として明文化されていない 

 

結果として連携が生まれず、「人の再配置」の判断は現場に丸投げされていたのです。

 

 

 

さらにこの職場では、もう一段踏み込んだ気付きがありました。標準リードタイムに基づいて現場を観察すると、ロットの流れ方に3つの波があると整理できたのです。

 

①プレス・ベンダー 

②溶接 

③組立 

 

この単位でモノの流れ、仕掛品を見ればよいのです。そうすれば、「遅れている」「詰まっている」が一気に見えるようになります。

 

リードタイムや製造所要時間の短縮では、いわゆる「1個流し」が究極の対応策ですが、ロット生産でも、リードタイムを短縮する流し方はあるのです。

 

ここまで来ると教科書の話ではありません。知識を現場に当てはめ、使いこなすことになるのです。

 

 

 

同じ知識でも、その使い方に差が出ます。支援先の現場で、それを何度も見てきました。

この違いはどこから生まれるのか?

 

結論は明確です。

差を生んでいるのは、「基礎」です。

応用力を培う土台が、「基礎」なのです。

 

「基礎」とは、時代が変わっても、DXが進んでも、変わらないモノのことであり、変わらないから基礎なのです。DXを導入しても成果が出ない理由の一つに、右腕役や現場キーパーソン、現場の基礎不足があるのは当然のことです。成果を出す手順が間違っています。

 

 

 

生産管理3本柱の知識体系に基づき、工程管理とは何か、リードタイムとは何で構成されるのか、こうした基礎が繰り返し指導され、現場で使われているかどうか。この違いが、知識を「使えるもの」にするか、「知っているだけ」で終わらせるかを分けます。

知識を収益化できていない現場は「知っているだけ」で終わっています。

 

生産管理3本柱は勉強ではありません。実学です。現場で使って初めて収益を生みます。その出発点は基礎です。

 

貴社では、この基礎を繰り返し、指導しているでしょうか?

 

 

 

 

 

●経営者が持たなければならない応用力

 

応用力がある現場と、応用できない現場。この差は現場の能力差ではありません。誰が何を教えてきたか、その積み重ねの差です。

 

応用力は自然には身につきません。センスでもありません。繰り返しの指導と実践の中で、スキルとして身につけるものです。

その土台が基礎です。基礎を教えていないのに、応用しろと言っても無理な話です。

 

現場が考えない。応用できない。指示待ちになる。これは人の問題ではなく、構造の問題です。儲かる工場経営の構造になっていない。経営者の長年の指導の積み重ねの結果です。

 

現場は、教えられた通りにしか動きません。言い換えれば、教えた通りにしか動けないのです。ここを取り違えると、「なぜやらないのか」「もっと考えろ」という叱責になり、さらに思考停止を招きます。

 

 

 

経営者の仕事は、右腕役や現場キーパーソンが自ら判断し、動ける状態をつくることです。そのために基礎を繰り返し教えます。

 

そして、教えた基礎を現場で使わせることです。カイゼンはそのためにあります。教えるだけでは意味がありません。使わせ、試させ、失敗させ、修正させる。

この繰り返しで応用力は磨かれ、収益化につながるのです。

 

この「使わせる」というプロセスを抜いた瞬間に、基礎は現場に定着しません。覚えてはいる。聞いたこともある。しかし、動きに結びつかない。

これでは、いつまで経っても成果は出ません。

 

 

 

応用力のある現場になれば、経営者は工場を右腕役に任せられます。現場から離れ、外に出て市場と向き合う時間が生まれるのです。

 

一方で、応用力のない現場はどうなるか。すべてが止まります。納期対応だけに追われ、将来へ向けた手が打てません。

判断が止まる。カイゼンが止まる。現場の動きが止まる。そして最後に経営者の時間が止まります。現場対応に追われ、将来を考える時間がなくなるのです。

 

これは極めて大きな損失です。将来に専念する時間を、自ら失っているからです。

 

 

 

儲かる事業構造のヒントは外にあります。そして、それを自社に当てはめて考えられなければ意味がないのです。

「ウチとは違う」「業種が違う」「規模が違う」「海外の話だ」

経営者から、この言葉が出た瞬間に、その事業の成長は止まります。

 

見た事実をそのまま受け取るのではなく、「なぜそうなっているのか」「自社でやるならどう置き換えるか」と問い直す。この思考ができるかどうかが分かれ目です。

 

応用力とは、他社事例を自社に置き換えて考える力でもあります。これは現場だけでなく、経営者にも求められる力です。

 

経営者に応用力がなければ、ロードマップは描けません。将来の時間軸で事業を考えることもできないのです。見たまま、聞いたままのことしか認知できなければ、将来を描くことはできません。

だからこそ、経営者にも「基礎」が必要です。

 

何を学び、何を基準に判断するのか。その土台がなければ応用はできません。

 

貴社では、現場に基礎を教えていますか?

そして、経営者自身は基礎を学んでいますか?

応用できる現場は、偶然には生まれません。何を教えるかで決まるのです。

次は貴社が挑戦する番です!!

 

成長する現場は、基礎をしっかり身につけているので1の指示で10を悟って手を打てる

衰退する現場は、ウチと当てはまらないことにしか興味を示さず、基礎を身につけられない