「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第515話 なぜ、チーム力が高い現場は「見通し」が良いのか?

●レイアウト変更によってチーム力が高まると説いた40代の主任

 

「ここから前工程が見えるので声がけしやすくなります。」

 

プロジェクトをスタートさせて半年が経過した支援先企業、実践会でのことです。人時生産性を高めるために、生産管理3本柱の基礎を確認し、プロジェクトの方針を明らかにしてきました。

 

まずは共通の判断基準を持ち、カイゼンのベクトルを揃えます。そのうえで課題を設定し、実践会で議論を重ねながら、現場で実行してきました。

 

 

 

カイゼンは、やれば、それで成果が出るものではありません。カイゼン活動を通じて決められたことを現場に定着させて初めて成果になります。新たなやり方や考え方を実装できなければ、一時的な取り組みで終わってしまうのです。多くの現場で見てきました。

 

特に、カイゼンを現場へ丸投げした場合、プロジェクトメンバーだけが頑張るものの、現場全体は以前と変わらないという状況に陥ることがあります。いわゆる、メンバーだけの空回りです。こうなる多くの原因は、トップの言動にあります。

 

しかし、この現場は、試行錯誤と紆余曲折を経ながらも、自らやり切る方法を見つけ始めていました。ブレない、明確なトップの言動が背景にあったからです。

 

 

 

カイゼンのPDCAが回り始めると、改善対象は徐々に広がっていきます。そのひとつがレイアウトの見直しです。

 

通常、カイゼンは、「現状のレイアウト」を前提に考えます。まずは、今ある環境の中で最良のやり方を考えるのです。そして、そのやり方を作業者一人ひとりが厳守する訓練を行います。現場は標準どおりに動かなければなりません。

したがって、実践会では、標準化がテーマになることが多いのです。

 

5Sの最後が躾になっている理由もここにあります。決められたことを守ることができなければ、どれほど良いアイデアを出しても成果が定着しません。

 

「守れない現場」でカイゼンを進めても、プロジェクトメンバーだけが空回りします。そのため、まずは、決めたことを守る訓練を重ねるのです。

 

 

 

そして半年が経過した今、この現場はさらに一段上のテーマへ挑戦することになりました。設備レイアウトの変更です。

 

人時生産性向上の具体策のひとつがリードタイム短縮。モノの流れを止めず、よりスムーズに流れるようにします。現場設備の配置を見直し、より良い流れをつくるのです。

 

そして、レイアウト変更は手間も時間も掛かります。だからこそ、なぜ変更するのか、その結果どのような利便性が得られるのかを明確にしなければなりません。

 

これまでの実践会で、現状と変更後を比較しながら、利便性のbefore/afterを整理しました。将来の自分たちの仕事のやり方に関わるため、議論にも自然と力が入ります。

 

先日の実践会の時、プロジェクトリーダーを務める40代主任が冒頭の言葉を口にしました。

「ここから前工程が見えるので声がけしやすくなります。」

 

運搬距離が短くなる、作業効率が上がる、といった話ではありません。その40代主任が注目したのは、人と人とのつながりです。

 

この言葉には、レイアウトを考えるうえで見落としてはならない重要な要素が含まれています。そして、それは、新たなやり方や判断基準を現場へ根付かせるためにも欠かせない論点だったのです。

 

 

 

 

 

●コミュニケーションを促すレイアウト

 

プラントレイアウトを検討するときには、確認しなければならないお作法のチェック項目があります。そのひとつが、作業者同士、上司と作業者、そして工程間のコミュニケーションの取りやすさです。特に、中小製造企業では大事です。

 

中小製造企業の競争力は少数精鋭のチーム力によって支えられています。チーム力は少数精鋭の連携力次第です。

 

チーム力とは応受援性や相互補完性の高さだと考えています。

 

困ったら手を上げて助けてもらう。失敗しそうになったら周囲が気付いて支える。納期に遅れそうな仲間がいたら自然と応援に入る。こうした助け合いができる状態です。

 

少人数の現場では、一人の遅れやミスが工場全体へ影響します。したがって、特定のエース級作業者をさらに高いレベルへ引き上げるよりも、困っている作業者を周囲が支えながら底上げした方が、現場全体としての成果は出やすくなります。現場の底上げです。

 

業務全体の高品質化とは、こうした底上げによって実現されます。一部のスキルが高い従業員の引き上げだけではそうなりません。

 

 

 

そして、助けられた作業者はその場で学びます。困っている時に教わる内容は印象に残るはずです。後日、会議室で説明を受けるよりも、自分が困っている瞬間に教わった方が理解は深くなります。

 

現場教育には「最良のタイミング」があるのです。そのタイミングを逃さず指導できることが、少数精鋭の現場では欠かせません。そして、それ実践するための前提条件があります。

 

互いの顔が見えることです。

 

工程と工程の間に壁がある。棚が視界を遮っている。設備が工程間の障害物になっている。こうした状態では、隣の工程で何が起きているのか分かりません。この現場でも同じ課題がありました。

 

この現場の後工程となる組立工程は、状況によっては前工程へ声をかけたり、応援に入ったりする立場でした。しかし、自工程から前工程が見えません。

 

だからといって、自分の作業を止めて何度も前工程まで様子を見に行くわけにはいきません。作業効率が下がるからです。

 

 

 

ところがレイアウト変更後は違います。

組立工程から前工程が見えるようになります。前工程の進捗が分かる。困っている様子が見える。遅れそうな状況が見える。すると自然に声をかけやすくなるのです。

 

「大丈夫か?」

 

「応援に入ろうか?」

 

「このやり方ならもっと早くできるぞ。」

 

こうした何気ないやり取りが応受援性や相互補完性を高めます。つまり、レイアウト変更によって改善されるのはモノの流れだけではありません。情報の流れも改善されるのです。

 

プラントレイアウトでは、運搬距離や仕掛品置場、設備配置などモノの流れを重視します。しかし、中小製造企業では、それと同じくらい情報の流れも重要です。

 

・モノは工程を流れます。

・情報は人を通じて流れます。

作業者同士が顔を合わせやすい。気軽に声を掛けられる。困り事を相談しやすい。そうした環境が情報の流れを良くします。

 

だからこそ、コミュニケーションを促す設備配置、モノの流れ、仕掛品置場、治工具置場、原材料置場が大切になるのです。

 

レイアウト変更とは、ただ単に設備の置き場所を変えることではありません。少数精鋭の現場がチームとして力を発揮しやすくするための取り組みでもあるのです。

 

「ここから前工程が見えるので声がけしやすくなります。」

主任が評価したのは運搬距離の短縮ではありません。「見通し」です。

前工程の状況が見える。仲間の困り事が見える。工程の遅れが見える。その見通しの良さが、声掛けを生み、チーム力を高めると考えたのです。的を射ています。

 

 

 

 

 

●見通しの良い現場がチーム力を高める

 

現場でのコミュニケーションは自然に発生する状態が望ましいものです。

コミュニケーションを取るために作業を止めるのでは本末転倒です。仕事を進めながら、必要な情報が自然と行き交う状態を目指さなければなりません。

 

そのために重要になるのが「見通し」です。

 

プラントレイアウトではモノの流れを考えます。運搬距離を短くする。仕掛品の停滞を減らす。作業しやすい配置にする。もちろん、これらは重要です。

 

しかし、中小製造企業では、もうひとつ考えなければならない流れがあります。情報の流れです。モノは工程を流れます。情報は人を通じて流れます。

 

 

 

作業者同士の距離が離れている。棚や設備によって先が見えない。工程ごとに離れ小島のようになっている。そのような環境では、どうしても情報の流れは悪くなります。

 

反対に、見通しが良い現場では、自然と声をかけやすくなるのです。困っている仲間が見える。遅れている工程が見える。異常が見える。だから助け合いが生まれます。

 

この助け合いの積み重ねが応受援性や相互補完性を高め、チーム力につながるのです。そして、このチーム力は、4階層指示導線とも深く関係しています。

 

 

 

4階層指示導線の要点は、社長の判断基準を現場へ伝えるトップダウンと、現場の情報を上へ届けるボトムアップにあります。しかし、ボトムアップは作業者一人で成立するものではありません。

 

異常に気付く仲間がいる。声を掛ける仲間がいる。相談できる仲間がいる。そうしたチーム力があって初めて機能します。ボトムアップにチーム力は欠かせないのです。

 

そして、チーム力は自然に高まるものではありません。経営者が重要性を理解し、現場が互いに見える環境を整え、プロジェクトを通じて訓練し続けることで高まっていくものです。

 

 

 

今回の40代主任が語った「ここから前工程が見えるので声がけしやすくなります」という言葉は、単なるレイアウト変更の利点を語ったものではありません。

 

見通しが良くなることでチーム力が高まり、その先に情報が上がりやすい現場ができることを示唆していたのです。

 

 

 

経営者の仕事場は市場にあります。だからこそ、工場の中では異常や問題が自然と上がってくる状態をつくらなければなりません。

貴社の現場はどうでしょうか?

 

モノの流れだけでなく、人と情報の流れまで見通しの良い現場になっているでしょうか?もし見通しが悪いのであれば、情報は途中で滞り、異常は埋もれ、チーム力も発揮されません。

 

経営者の仕事場は市場にあります。だからこそ工場の中では、問題や異常が自然と上がってくる状態をつくらなければなりません。

その第一歩は、現場の見通しを良くすることなのかもしれません。

次は貴社が挑戦する番です!

 

レイアウト変更の本質は、見通しを良くしてチーム力と情報の流れを高めることにある