「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第30話 全体が見えてくると時間が気になる

全体最適の視点は経営者に時間を意識させる。時間軸を伴った経営者の強い意志は現場の不安を希望に変える、という話です。

 

全体最適の視点を持って、5年先、10年先を見通しているでしょうか?

全体最適の視点を持つと、時間の流れが気になってきませんか?

 

 

全体最適化、鳥の目は経営者にしか持ち得ない視点です。現場は部分最適化の役割を担っています。現場は、まず自分の工程内の最適化を図ります。

しかし、現場であっても、それだけでは不十分です。経営者は、部分最適化に汗をかいている現場に全体最適化の視点を注入します。

そうして、現場も経営者といっしょに全体最適の視点を共有するのです。全体最適化と部分最適化の両者の視点を工場全体でバランス持つことです。カイゼンのキモです。

カイゼンはモノづくり連鎖を構成している各工程の部分最適化だけでは完結しません。カイゼンの成果を工場全体、モノづくり連鎖全体へ波及させるためには全体最適の視点が必要なのです。

 

 

現場には問題、課題が無数にあります。乾いた雑巾を絞り出すように毎年、毎年、毎年、現場のカイゼンを重ねて成果を出し続けているトヨタ自動車の取り組みがあります。

意思を持って進めていると、カイゼンにはゴールが存在しないと感じます。

ですから、意欲ある現場で、カイゼンのテーマを選定すると、予想外に多くの案が上がってきます。特に、現場の困りごと視点で上げた時はそうです。そこで、大切なのが優先順位(プライオリティー)です。

多数のテーマから何を選択するのか?

その判断基準が全体最適の視点です。

全体最適の視点も判断基準とすれば、カイゼンのテーマ選定に経営者の視点が加わります。

全体最適の視点で判断することは、経営者にしかできない仕事だからです。

そうすると、全社的に取り組む必然性がはっきりします。経営問題の水準でテーマが選定されたのです。各工程を担う現場の納得感が高まります。納得感が高まればやる気も出ます。

全体最適の視点は現場にとっても必要なのです。

 

 

 

また、全体最適、鳥の目で、自社あるいは工場全体を眺めると、経営者はあることが気になってくるはずです。

5年後、10年後、だいじょうぶだろうか?このままの状態を継続していて、うまくいくのだろうか?どうなるのだろうか?

モノづくり経営者の方々はもともと、鋭い嗅覚というか、皮膚感覚で経営判断する研ぎ澄まされた勘をお持ちです。現場をそうした目で見ていらっしゃいます。

それに加え、経営判断を下すための指標や仕組みという武器を手にして全体を眺めれば、自ずと、気になるところが見てきます。

 

ムダを除去するために抜本的に改革したいところ。

付加価値を創出するために強化したいところ。

 

様々なことが見えてくるので、経営者はそれらを課題へ変換したくなるはずです。

だから、○○したい、○○を変えたい・・・。

 

すると、次のような発想が生まれます。

そのためには、どのような手順で取り組みを進めようか?

 

つまり「時間軸」を意識するということです。

これは、儲かる工場経営ではきわめて重要な論点です。

いつまでにその経営課題を達成するのかは、経営者が決めることであり、それは経営者の強い意志となって現場伝わります。

経営者の意思を時間軸と共に現場へ伝えることが、成果を出すためのキモのひとつです。

 

 

 

技術開発の業務を担っていた時の話です。

対象となった生産技術の開発も2年目を迎えた頃。部門長が、さぁ、新技術で新規受注を取りに行くぞ!と宣言したことがあります。

技術開発の担当としては、まだまだ、解決すべき問題も多く、未完成のトコロガマダ・・、というのが正直なところでした。

ただし、当時、製品のトレンドも変化していたので、受注活動で新たな切り口が必要な状況にあったのも事実でした。部門長判断で新規受注活動が開始され、幸いに、新規受注が決まりました。

さぁ、そうなると、技術開発部隊も四の五の言ってられません。新規受注製品の開発納期が技術開発の納期に自然と決まってしまいました・・。

幸いに現場の協力体制の下でなんとか最後、駆け抜けるように技術開発を進めました。

経営者の意思が、時間軸と共に伝わることで、現場も頑張れたのです。

当時の部門長の製品のトレンド変化を見通した判断であったと推察されます。新たな受注活動を加速させないと、新興国からの安価な製品にヤラレルとの判断があったと今なら理解できます。

 

 

 

経営資源の制約が多い中小製造業の経営者にとって”時間”は貴重な資源です。”時間”だけは大手と同じだけあります。

小回り性、機動性、柔軟性という中小の強みがある分だけ、この点では大手より有利とも考えられます。時間軸を意識した工場経営で中小製造業の強みを最大化できます。

時間軸の上で、くるくる、クイクイ、駆逐艦のごとくに操縦するイメージ。戦艦大和よりも変化への対応は抜群です。

全体最適の視点を持ち続け、常に、5年先、10年先を見通し、変化に対応していただきたいです。

 

時間軸を伴った経営者の強い意志は、将来への不安を希望に変えます。いつまでに、どの方向へ進めば、私たちは生き残り、成長できるのだということを、示羅針盤のごとく示しているからです。

経営者の想いが浸透した現場は頑張れます。そうすれば、経営者が口を挟まなくても、自律的に現場で仕組みが回るのです。

そうなれば、経営者もじっくり考える時間を手にします。

 

 

全体最適の視点を持って、5年先、10年先を見通しているでしょうか?

全体最適の視点を持つと、時間の流れが気になってきませんか?

 

まとめ:全体最適の視点は経営者に時間を意識させる。時間軸を伴った経営者の強い意志は現場の不安を希望に変える。