「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第85話 現場の目線を高める唯一の方法とは?

貴社では現場の目線を高めること、やっていますか?

 

「国内同業者の設備構成は、うちも含めて、ほとんど同じなんですよ。」

今年に入ってからご支援を始めたクライアント先でプロジェクトの責任者を担っている若手スタッフの言葉です。

 

 

弊社では、ご支援を開始するにあたって、「工場の流れ」診断を行います。

儲かる工場経営には、ある程度の定石があり、それをベースに、業種、業態に合わせてアレンジしながら、望ましい姿を設定するためです。

弱点を補完し、強みを強化します。

 

先の若手スタッフが担当している現場の診断で、気になることがありました。

それは、ある処理をする工程の直前にスペースが確保されていたことです。

 

そのスペースでは、数人の作業者が段取り作業をしていました。

工場全体を通して眺めてみると、そのスペースで、その作業を行う”必然性”はありません。

材料投入時に外段取りとして行う方が、課題となっている生産性向上へも貢献できる作業だったのです。

 

 

 

工程は分割されることで、工程分析4要素のうち、価値を生まない「停滞」「運搬」が生じます。

その結果、仕掛品が発生、生産の流れがスムーズでなくなります。

 

そこで、スペースを除去し、工程統合をすれば、「停滞」「運搬」をなくせるので、生産性が高まるのです。

リードタイム短縮のひとつのやり方です。

 

 

 

その現場の設備は、先代社長の時代に設備投資して設置したものであり、一般的な国内同業者と同様な設備構成となっています。

したがって、現場では「スペースが存在する」ことを前提とした仕事のやり方となっていました。

国内同業者は、一般的にそうであるようです。

 

そうであるなら、世界規模で技術動向を眺めたとき、どうなっているのかが気になります。

そのことを問うと、その若手スタッフは、それへの見解も持っていました。

「世界的にみると、必ずしもそうではないようです。」

 

質問をしておいて、なんですが、正直、この回答には驚きました。

技術水準をグローバルに把握できている中小の現場に出会う機会が少なかったからです。

 

そのスタッフは、これまで、アジア地域における同業者の設備を、数回見学した経験がありました。

さらに、社長自身が自社技術のブラシュアップに熱心で、欧州など海外へ視察することもあり、その成果を画像や動画で現場やスタッフに伝えていたのです。

 

社長は世界水準で仕事をしたいとの考えを持っており、現場の意識改革を含め、生産性向上の土台作りで、支援のご依頼をいただいた経緯もありました。

その企業では、社長の目線が、すでにグローバルなのです。

 

社長の目線がグローバルであると、従業員の目線も自然とグローバルになるのだなぁと感じます。

プロジェクトを一緒に進めている若手スタッフから、「国内の・・・」という発言が出てくるのは、比べる対象となる「世界の・・」という基準があるからです。

 

「国内の同業者は現在の設備構成が普通であると思っているようです。」

目線がグローバルにあるからこそ、自然と、国内の状況を的確に把握できるわけで、目線が国内でとどまっていると、世界と対比させた見解は出てきません。

 

 

 

 

 

スタッフや従業員の目線は、社長の目線に倣います。

言い換えると、従業員の目線は、社長の目線を超えることはないということです。

 

工場経営の本質は他人を通じて経営者の想いを実現させることにあります。

工場経営の本質は”想い”の実現であり、現場は、それを達成するための舞台です。

スタッフや作業者は一人ひとりが役者であり、経営者は自ら望ましいと考えたやり方へ役者を導く演出家や舞台監督と言えます。

 

演出家や舞台監督は、役者一人ひとりの個性と能力を最大限に引き出す場を作りつつ、作品を通じて伝えたい想いを表現するのが仕事です。

役者が、演出家や舞台監督の想いに共感し、考え方を共有することで成立する仕事ではないでしょうか。

 

 

 

モノづくりの現場も全く同じです。

社長がグローバルを語れば、現場の目線もグローバルになります。

繰り返し、繰り返し、想いを耳にしていれば、目線が高まり、その高さも揃うのです。

 

一方、社長が日々、目の前のことにのみ囚われていると、現場も同じ目線に留まることでしょう。

目先のこと、自工程のことしか考えなくなります。

社長がどんなに期待しても、現場の目線は社長より高くはなりません。

そして、その目線なりの仕事しかできないのです。

 

 

 

 

 

やる気を引き出す3つのポイントの3つ目は「大きな目的」です。

経営者が5年先、10年先の夢を語ることは、仕事のやりがいを感じるきっかけをつくり、やる気を引き出すことにつながります。

 

そして、経営者が目線を上げて夢を語れば、共感を持った現場の目線もその水準にまで高まるのです。

大きな目的を語れば、現場の目線は高くなります。

 

だから、経営者は、想いを実現させたかったら、現場へ夢や大きな目的を語り続ける必要があるのです。

現場の目線が高まることで、仕事の質も高まります。

 

会社の規模にかかわらず、経営者の目線は高くすべきです。

先のクライアントでは「世界」を掲げています。

中小製造企業こそ、経営者の目線を高くしなければなりません。

想いを実現させるには、限られた人材に能力MAXを発揮してもらう必要があるからです。

 

そこで、現場の目線を高くしてもらいます。

仕事の質が高まってから目線を高くするのではなく、目線を高くする環境を整備して、仕事の質を高めるのです。

環境が人を育てます。

 

「忙しい」「うちはできない」と言っている経営者の現場の目線が高まらないのは火を見るよりも明らかでしょう。

現場の目線を高める唯一の方法は経営者の目線を高めることです。

それしかありません。

 

現場の目線を高める大きな目的を掲げませんか?