「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第87話 「モノづくりで儲ける本質」を知ってもらう
貴社の現場はモノづくりで儲ける理屈を理解していますか?
付加価値額を現場で大いに活用して欲しいと考えています。
現場にモノづくりで儲けるとはどういうことか理解して欲しいからです。
これは、大手や中小の管理者時代に、現場、特に若手からある質問を何度か投げかけられた経験が背景にあります。
「伊藤さん、これってどれくらい儲かっているのですか?」
現場へ業務を指示し、進捗を確認しながら、仕事を進めていて、この手の質問を投げかけられることが、たびたびありました。
新規開発品を試作していたとき、それを市場へ出せばいくら儲かるのか?
改善活動で現場のムダを取り除いて効率を高めたら、利益への貢献はどれくらい?
実務を進める若手が、こうしたことを知りたくなるのは当然のことです。
持続するやる気を引き出す3つのポイントのひとつに「有能性」を挙げていますが、これに関連します。
経営者の唯一にして、最大の関心ごとは、現場からお金を生み出すこと、利益を生み出すことです。
経営者は、あらゆる活動がお金に繋がっていることを明らかにしておかなければなりません。
そうしないと、現場へ経営者の意図や意思が伝わらず、経営者が描く「大きな目的」を実現させることができなくなるからです。
経営者の関心ごとが現場からお金を生み出すこと、利益を生み出すことにあるならば、現場にそのことを理解させることが必要となります。
経営者が欲しいものに関して、現場も精通していなければならないのです。
「工場経営の本質は他人を通じて経営者の思いを実現させることにある」ならば当然のことでしょう。
これまでお会いした経営者のなかに、「利益を出すことについては経営者層がやっているから、現場は決められたことをやればよい」という趣旨のことを語っている方がいました。
この考え方には少々、違和感を感じずにはいられません。
そのような経営者は、何かマイナスの影響があるのではないかとの思い込みにより、お金や利益に関する情報開示をためらっているのかもしれません。
が、決してそうしたことはないと経験上、断言できます。
この種の情報を現場と共有するための土壌づくりは欠かせませんし、情報開示に至るまで、やらねばならない仕事があるのも確かです。
しかし、自社が儲かっているかのか儲かっていないのか、どうやって儲けを出すのか、そのために現場はどうすべきか、こうした情報を共有するのは経営者へプラスへ働きます。
中小製造企業へ中途で入社し、現場の管理者として現場を動かしてきた経験から得られた結論です。
現場との信頼関係を築くためにも、この種の情報をしっかり知らせることは大切なのです。
繰り返しますが、「工場経営の本質は他人を通じて経営者の思いを実現させることにある」わけで、経営者は現場を動かしてなんぼのものであることを忘れてはなりません。
経営者の関心ごとが現場からお金を生み出すこと、利益を生み出すことにあるならば、モノづくりで儲けるやり方を教育する必要があります。
取り上げるのは付加価値額です。
製品1個当たりの付加価値額を、@単価-製品1個当たりの変動費で表現できます。
限界利益、スループットとも言われる、あの数値です。
弊社では付加価値額と表現しています。
工場経営で儲けを出す本質が理解しやすくなります。
この概念を知らなかった当時、若手から質問がある度に経理部門へ相談していました。
本社経費は事前のルールにしたがって部門ごとに配賦し、工場経費は人数規模に応じて配賦し、そして・・・・。
経理の担当者は丁寧に教えてくれますが、なかなか理解できません。
結局、算出してくれた数値を若手へ示すに留まりました。
そこで付加価値額を活用するとモノづくりで儲ける本質をスッキリと若手に伝えられます。
利益は一般的に下記で表現されます。
1)利益=売上高-費用
この式を付加価値額に着目して、下記に書き換えるのです。
2)利益=付加価値額-固定費
1)式と2)式を比べてください。
2)式のほうが1)式より理解がしやすくなっています。
なぜでしょうか?
1)式の売上高と費用は通年で変動する数値です。
売上高も費用も、時間とともに変わります。
一方2)式の固定費は、原則、変化しません。
文字どおり、1年間は固定です。
したがって、2つの数値の比較作業が容易になります。
積み上げた付加価値額を、一定値である固定費と比べるのです。
付加価値額を固定費と比べて、上回った分だけが利益となり、固定費を回収するという発想が生まれます。
「付加価値 VS 固定費」。
「回収」。
これがモノづくりで儲ける本質です。
また、付加価値額が、儲けそのものを表します。
質問を投げかけられた若手にはこの数値を教えてあげればよかったわけです。
回収すべき固定費、ここにこそ経営者の意思や意図が込められています。
1)式の費用とは全く性質が異なる数値であり、5年先、10年先を見通して経営者が決める数値です。
固定費とは経営者の想いに他なりません。
固定費を構成する項目を考えると納得できることでしょう。
弊社ではしばしば、固定費は将来投資であるとも表現しています。
経営者は想いを固定費で表明し、現場は付加価値額を積み上げて、その回収を目指す。
モノづくりで儲けるイメージです。
これを現場に理解してもらいたいのです。
ですから、従来、「費用」でひとくくりしていた数値を「固定費」という意思を持った数値に整理し直し、継続的に管理する必要があります。
固定費を提示し、付加価値額を知らせる。
こうして考えるきっかけを与えると現場の自律性が高まります。
この種の数値を現場と共有して、マイナスの影響が出た経験はありません。
自分の職場を良くしたいと考えない従業員はいないから、当然のことです。
知らせることは信頼関係を築くためにも欠かせません。
モノづくりで儲ける本質を理解させるしくみをつくりませんか?