「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第102話 義務感から使命感へ
現場でチームオペレーションが機能していますか?
「朝、各工程の担当者に声を掛けても集まってくれません。」
ご支援中の金属加工企業、現場リーダーの言葉です。
その現場は昼夜2交代勤務体制を敷いています。
夕方に受注した案件を、翌朝一番に出荷できるのが事業での強みです。
現在、加工工程のリードタイムを短縮して、既存ラインを対象にして加工量を増やそうと目論んでいます。
その企業では、数年後に設備投資を実行し、売り上げ規模を拡大させようと積極的な戦略を描いているところです。
売上拡大戦略を描いている経営者へ提案したことは、現行の生産ラインをどこまでしゃぶりつくせるかやってみましょうということ。
イノベーションも狙った設備投資、IT投資などハード面での強化はそれからでも遅くないからです。
逆に、効果的な設備投資とするには、現行ラインのしゃぶりつくしが欠かせません。
困り事に直面してこそ、投資の意味付けができます。
困った状態を経験していないと、投資のありがたさも限定的です。
そこで、その企業では、リードタイム短縮を目標に掲げて活動を始めています。
活動の進捗を計測するため、新たにリードタイムと生産性の指標も設定しました。
リードタイムと生産性は別物ですから、切り分けて、狙いを明確にする必要があります。
その現場でも、リードタイム短縮にしたがって、生産性が悪化する工程も出てきました。
現行ラインをしゃぶりつくす過程で直面する困りごとの解消が設備投資前にやることです。
現場のステージアップに欠かせない取り組みとなります。
現場の一体化。
弊社では、現場改革の狼煙は、文字通り現場からあげるべきだと考えています。
ヤラサレ感たっぷりでは自律性が発揮されず、現場の創造性が出てきません。
トップの指示通りに動くのに留まっていては改革にならないのです。
先の企業では、現場の一体化に向けて、2つの課題がありました。
この企業では昼と夜のシフトが固定されています。
昼シフトのチームと夜シフトのチームの2チームが存在するのです。
そして、チーム間での人事交流はたまには見られるようですが、原則チーム間での交流はありません。
そのため、昼チームの仕事のやり方、夜チームの仕事のやり方、それぞれの独自性に起因した意思疎通での齟齬が生じています。
元来、仕事上の”独自性”は悪いことではないですが、同じ釜の飯を食べる仲間内で異なるやり方があってはまずいです。
同一の思考回路を共有することが一体化では求められます。
その現場の課題のひとつは、昼チームと夜チームが一体感を持てる環境の整備。
もうひとつは、そもそも、昼チーム、夜チームそれぞれのチーム内での一体感の醸成。
後者は、言い換えると工程間連携の強化です。
それまでも、現場リーダーが指示をすれば、指示に従って工程間の連携はそれなりにやられていましたが、今や、既存ラインをしゃぶりつくし、どこまで売上高を伸ばせるか挑戦しようしている段階です。
仕事のやり方を変えなければなりません。
いちいち、現場リーダーが指示をしないと、動けないような工程であっては、現場リーダーの仕事もステップアップできません。
各工程のキーパーソンには自律性を発揮してもらうことが求められます。
こうして、視点を部分最適化から全体最適化へ移行させるのです。
そこで、この企業では、まず昼チーム、夜チーム、それぞれのチーム内での一体感の醸成に取り組んでいます。
その現場では、意外にも、現場リーダーと各工程のキーパーソンが日々集まる場が設定されていませんでした。
必要に応じて、現場リーダーが都度、各工程のキーパーソンへ情報を伝えるやり方をしていたのです。
今後、仕事量が拡大した際、その仕事のやり方で、行き詰まるのは火を見るよりも明らか。
そこで、工程管理の3つの機能、「段取り」、「指示」、「フォローと評価」のうち、「指示」の強化に挑戦です。
具体的には「日々チェックのトライアングル」を進めます。
まずは、現場リーダーが、各工程のキーパンソンを前にして、「今日の指示」を表明できる場の設定です。
ということならば、まずは、朝一番に関係者が集まればいいのだ・・・・、ということになりますが、それは簡単なことでもないのです。
各工程では、朝一番に取り掛かる業務を組み込み済だからです。
朝一番に加工機のプログラムをセットしなければ稼働の開始が遅れてしまう。
朝一番に出荷する製品を待たせてあるトラックに積み込まないといけない。
朝一番に受け入れたトラックからの荷物をフォークリフトで降ろして運搬しないと工程の着手が遅れる、などなど。
なにせ、ず~っと以前からそのような仕事のやり方をしてきました。
ですから、現場リーダーが、明日から朝一番で各工程のキーパーソンは集まって欲しい、と意思表示をしても、各工程では対応しきれないことがたびたびです。
この現場でもそうでした。
そこで、「朝、各工程の担当者に声を掛けても集まりません。」となったのです。
そもそもの仕事のやり方を変えなければなりません。
キーパーソンが朝一番に取り掛かっている業務の見直しから始めることになりました。
目指すのは、現場リーダーが声を掛けて集まる場ではなく、逆に、各工程のキーパーソン達が集まっている場に現場リーダーが呼ばれる状況です。
「呼ばれる場を目指しましょう。」と伊藤はその現場リーダーへ伝えました。
そのためには、伝える情報がカギとなります。
その情報に触れることで質の高い仕事ができるとキーパーソン達に感じさせたら勝ちです。
朝一番で集まって欲しいとの現場リーダーの指示に対して、「義務感」を感じながら、キーパーソン達集まってくるようでは、その場は継続しません。
ここで、必要なのはチームオペレーションの観点です。
チームオペレーションを機能性させ、「使命感」を感じるステージを目指します。
いい仕事をするには、朝、現場リーダーの指示を受ける必要があると、納得した状況です。
「まだまだ、私も義務感で仕事をしているうちはダメですね。」とその現場リーダーも笑いながら理解してくれました。
「大きな目的」「共通の目標」を共有するうちに、義務感も使命感に変わり得ます。
そこで、伊藤も現場リーダーとやる気を引き出す多様な仕組みを仕掛けているのです。
現場改革→意識改革→構造改革の3つの改革で儲かる工場に変えるのが弊社の仕事です。
経営者の想いを実現させる取り組みの初手は、現場の一体化という足元強化になります。
一体化した現場からは「義務感」の匂いがしなくなり、「使命感」にあふれ、少数精鋭で筋肉質のチームらしい活気が感じられるようになるのです。
それには、経営者の打ち上げる「大きな目的」「共通の目標」が欠かせません。
経営者の想いは必ずある本質につながっており、現場の納得感が得られやすいからです。
弊社では、その本質を現場へ明確に伝え、浸透させることが重要な仕事のひとつであると考えています。
義務感から使命感へ。
まずはこれを目指して下さい。
使命感を感じさせる仕掛けを考えませんか?