「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第103話 見える化とは数値化
貴社の現場では「数字」が活躍していますか?
「まずは数値化をしないといけないですね。」
屋外に設置する器材の板金加工メーカー幹部の言葉です。
中小製造現場は大手と同じ仕事のやり方をしても絶対に儲かりません。
たとえば・・・・。
価格を下げて受注を獲得しようとするのは最悪の戦略です。
これは圧倒的な量にモノを言わせる大手のやり方。
中小製造現場は大手にはない、「ならでは」の強みを生かします。
機動性、小回り性、柔軟性。
例えば、顧客の納期要求へ応えるのに、中小ならではの短納期対応力を強化します。
しばしば、お伝えしていることですが、生産3条件のうち、圧倒的な短納期は、「ならでは」の強みになり得るのです。
いわゆる、突破、特急依頼への対応を含む、小ロットでの短納期要求は中小現場が活躍する機会となります。
大手はそうした対応はやりません。
戦艦大和は柔軟性において駆逐艦に劣るということです。
戦艦の強みは火力であり、駆逐艦の強みは機動力。
ですから、中小製造現場はリードタイム短縮を積極的に推し進め、戦略的に短納期への対応力を高めるべきだと弊社では考えています。
ただし、短納期への対応力を高めようとするとき、属人的に対応しているのか、それとも組織的に対応しているのか、しっかり見極める必要があります。
つまり、力尽くの仕事になっていないかどうかということです。
歯を食いしばってなんとかできる仕事は、継続性に乏しく、現場の活力を削ぎ、組織的にマズイ状況に至る懸念があります。
おおよそ、短納期の受注案件を現場で進めるとき、中小の現場では、人に依存していることがしばしばです。
現場における力関係で仕事が進む、進まないという状況になることも少なくありません。
組織的に進める仕事のやり方が定着していない中小現場では、どうしてもベテランに頼ることになります。
いきおい、多くの仕事がベテランや力量の高い人材に偏りがちです。
その結果、現場には次のような雰囲気が広がります。
「短納期が大切なのは分かるけれども、なんだがつらいよなぁ~。
いつも俺(私)ばかりが・・・・・。」
不満のマグマが現場の地下深くで少しずつ膨張していくことでしょう。
こうした雰囲気を察した、先の幹部はいよいよ、仕組みで、つまりチームで仕事をするやり方を現場へ定着させなければならないと危機感を持ったわけです。
それまで、人に依存して、属人的にやってきた仕事をチームでやるためには何が必要か?
これがこの企業への問いかけになります。
その企業では、受注情報(受注票)の納期にしたがって着手する案件を決めています。
全体のモノ流れや、工程負荷のバランスなど、全体最適化の観点ではなく、現場は、機械的に、納期の早い順に着手すべき案件を決めていると言うのです。
そして、納期を睨みながら、前工程から順に作業を進めつつ、経験的にその後の流し方を決めていきます。
明確な作業指示を出さなくても、現場リーダーやベテランが感覚的に全体最適化を図っています。
いつまでに、どの工程へ進めるべきか、明記された情報はありません。
つまり作業指示書はないわけですが、それでもしっかり納期遵守できています。
現場リーダーやベテランの力量に依存していることになりますが、ある一定の物量以下であるなら、これでも問題はありません。
かえって、シンプルなルールということで、現場リーダーやベテランのリーダーシップがあれば十分に機能する仕事の進め方です。
しかし、品種が増え、物量が増え、納期が短くなり、モノづくりが高度化、複雑化すると、現場リーダーやベテランの負荷がどんどん増えてくるのは火を見るよりも明らか。
仕事のやり方を変えないと特定の人にのみ負荷が集中し、それが不満へとつながります。
ですから、事業のステージを高めたいと考えるなら、仕事のやり方を変え、チームで、組織で仕事をする仕組みをつくることです。
チームで、組織で納期を遵守し、さらには短納期へ対応するように仕事のやり方を変えるのです。
ここで活用する体系が生産管理の3本柱となります。
そのなかでも工程管理。
工程管理の初手は日程管理です。
まずは、受注情報を現場が理解できる情報へ翻訳します。
先の企業では、この翻訳なしに、力量の高い特定の人に作業指示書の役割を担ってもらっていました。
しかし、多品種化が進み、短納期要求も高まるなか、”お決まり”の突発、特急依頼もあって、その企業の現場は、息切れしそうな状況です。
まずは、日程計画の見える化であり、基準日程の検討、設定からやります。
この初手の進め方はご支援やセミナーでお伝えしていますが、要するにベテランの頭の中の見える化、具体的には「数値化」です。
多品種のため、一見複雑で無限大の品数があろうかと思われる製品をグルーピングし、分類された製品毎に生産リードタイムや作業時間の実績を積み上げることに取りかかります。
自分たちの現場を数字で説明できることが、現場の一体感を醸成するのにも重要な役割を果たすのです。
見える化とは言い換えると数値化。
これが、現場を動かす生産管理の初手でもあります。
先の企業では、受注した案件に対して、幹部が考えている日程と現場が考える日程にずれが生じる場合がしばしばのようです。
幹部は、もっと上手く対応すれば日程を短くできるのではないか?と考える一方で、現場は、昔からこれでやっているので、これでいいと考えています。
その齟齬、行き違いを解消するのに数字を使いたいのです。
ベテランのノウハウを数値化して基準日程を決め、それを基準として日程を組んでいく。
受注した案件の仕様と基準日程を照らし合わせ、日程計画を立てる仕組みづくりに取り掛かります。
客観的な基準を持つことで、チーム内での意思疎通はやり易くなり、前向きの話がドンドンできる活気ある現場へ変わるのです。
受注製品に必要な各工程で予想される所要工数、そのための設備と人員、作業着手の日、各工程の日程、作業完了の日等々。
こうした項目が数値で示されます。
生産管理を使いこなすには、基準日程の設定に限らず、あらゆることの数値化が前提です。
したがって、見える化でやることは次の2つ。
1)何を数値化するか決める。
2)実績データを継続的に取り続ける。
地道な取り組みとなります。
2)項を通じて得られた実績データの蓄積から”標準化”の視点が生まれるのです。
ご支援の場では、しばしば数字を活用する意義をお話していますが、生産現場では”比べる”ことが仕事の柱となっています。
経営者、幹部の仕事の多くは、”比較”に費やされているのではないでしょうか?
ビフォアーとアフター。
基準 vs 実績。
これを可能にするのが数字であり、見える化の仕組みです。
「カイゼン」の著者、今井正明氏は著書で次のようにおっしゃっています。
標準のないところにカイゼンはない。いかなるカイゼンにおいても、その出発点は、現在の立脚点である。あらゆる作業者、あらゆる機械、あらゆる工程に適用される正確な測定基準が必要である。
測定基準があって初めて「立脚点」が認識されます。
現場からやる気を引き出すのに必要なフォローと評価は、数値化された測定基準があってこそできることです。
フォローと評価で必要なのことは客観性ですから、これ抜きではフォローと評価に主観が含まれてしまい、現場から納得感を得ることはできません。
経営者、経営幹部と現場と考え方の相違が出てくるのは、先の企業の事例にも観られるように、本来、見える化して、客観的な数値で判断すべきことがそうなっていないからです。
主観的に判断せざるを得ない状況なので、経営者、経営幹部と現場にすれ違いが出てしまうのは当然のことでもあります。
見える化とは数値化。
数値化で”比べる”ことを容易にして、経営者、経営幹部と現場のベクトルを揃えます。
数値が現場へ説明してくれるわけです。
経営者や経営幹部があれこれと”口角泡を飛ばす”ということにエネルギーを注がなくても、現場は理解してくれます。
数字にそうした力があります。
これは、大手より、中小の現場で管理者を担っていたと時に痛感したことです。
中途で現場へ入った管理者という立場で仕事をしていましたが、数値を通じて現場と意思疎通をはかれました。
中小の現場を強くする、現場のやる気を引き出す一歩目は、この数値化、つまり見える化であると弊社では考えています。
数字に働いてもらいましょう。
現場の数値化を進める仕組みを作りませんか?