「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第106話 時間軸で現場を動かす
現状維持になっていませんか?
「止まったらだめ。現状維持では続けられません。お客さんがどんどん変わるから。」
樹脂射出成形メーカー経営者の言葉です。
数億規模の売上高を数年のうち5億、6億規模へ成長させる”戦略”を立てています。
特定企業へ依存しないよう、新規顧客の開拓に余念がありません。
積極的に新たな技術へ挑戦して、モノづくり力の高度化も考えています。
現状維持を目標にしてしまうと、”待ち”の姿勢になり、その結果、届いた仕事をこなすだけの状態になってしまうとのこと。
案件の選別ができず、ただひたすら、安価で数物といわれる仕事に追い回される状態だけは避けたいと、その経営者は考えています。
利益を持続的に伸ばすことができないからです。
その経営者は、固定費を回収する役割に徹する製品と積極的に付加価値額を積み上げていく製品の数量をコントロールしながら受注を拡大させたいと目論んでいます。
持続的に利益を伸ばすには、1つ1つの受注案件で、収益上の役割をはっきりさせておくことが必要であり、これが、儲かる工場経営の要諦でもあります。
届いた仕事をこなすだけの事業形態では絶対にできないことです。
つまり、案件を選別する必要があります。
これを可能にするのは、新規顧客開拓力と新たな案件へ果敢に挑戦できる水準に達したモノづくり力。
それには、現場の基礎体力の底上げが欠かせず、それを具体策へ落とし込みたいとのご相談です。
製造業は技術の世界で戦っています。
そして、その技術は、日進月歩で進化しているのです。
IOTの進化のスピードは、エクスポネンシャルだとも言われており、IOTデバイス数も今後10年で5倍に拡大するとの予測があります。
そうしたフィールドで戦っているわけですから、”現状維持”は、相対的に後退を意味するであろうことは想像に難くはありません。
変化対応業、変化創出業というのが企業の本質であることを踏まえれば、先の経営者の言葉にあるように、”止まって”いては利益を出し続けることができず、事業を続けられなくなるのは火を見るよりもあきらかです。
現状維持思考に落ち着いてしまっている経営者の思考回路には、改革、革新という発想は生まれず、その考え方は現場へも伝わってしまいます。
ですから、意欲のある若手も、そうした組織風土へ染まってしまい、諦めることに慣れてしまうでしょう。
いわゆる、”やる気”を引き出す3つのポイントに欠けた職場へ、現場は至ります。
これは、貴重な人的経営資源上のロス以外の何物でもないのでは?
製造現場での最大の敵は、”現状維持を良しとする保守的な考え”、なのです。
ですから、経営者には、現場が抱く保守的な考えを払拭していただきたいのです。
そこで、現場の保守的な考えを払拭する観点を活用します。
経営者はこれを使って、現場を変えることに力点を置い下さい。
現場を変える目的は、いわゆる製造現場のアウトプットである生産3条件、品質Q、原価C、納期Dを現状対比で高めることにあります。
そのために、現場へ投入する生産3要素(原材料、設備、人)を”変える”のです。
現場の主役が人であることを考えれば、特に、”人”へ焦点を当てるべきであり、”人”を変えるとは、とりもなおさず、”現場の意識”を変えることに他なりません。
成果を出すには、主役となる現場ひとりひとりの頭の中を変える必要があるのです。
しかしながら、現場の仕事というのは、その大部分が、作業標準で定められており、原則、それに従うことが求められています。
現場は、改善活動などで、自ら変わることに挑戦はするものの、基本的には、”安定”が仕事の望ましい姿なのです。
加えて、製造現場の特性である”2重構造”もあり、現場は変わることに抵抗感を示します。
”納期が厳しいから、変えられない“、”限られた人しかいないから、変えられない”
ただ、現場がそうした態度を示すのも、責任感の表れの一端かもしれません。
その意味で、現場が保守的で変わることに抵抗感を示しても、それは必ずしも責められることではないでしょう。
だからこそ、経営者は自らおよび現場の保守的な考えを払拭する観点を持つべきなのです。
保守的な考えを払拭する観点とは・・・、”時間軸”です。
経営者の頭の中、具体的には、将来目指すべきことを時間軸とともに明らかにして、現場と共有することだと考えています。
時間軸とともに全社で目指すべき姿を提示し、現状とのギャップを見えやすくするのです。
それも可能な限り数値を使って。
これはセミナーやご支援の際に繰り返し申し上げていることですが、現場では「数字」に語らせて、説得力を高めます。
かって、工場の開発部門の責任者を担っていたとき、開発事項を常に時間軸とともに整理していました。
いわゆるロードマップです。
当時の職場は大手企業であり、開発業務に係わる関係者も少なくなかったので、常に現状の立ち位置と目指すところを時間軸と提示しておく必要がありました。
製造現場側の意思表示として、いつまでに何をしたいか、ということを研究所関係者、生産技術関係者、現場関係者と共有していたのです。
常に、2、3年先の状況を整理していました。
そうして、製造現場として”技術を高めるぞ”、との意思表示をし続けたのです。
時間軸とともにやるべきことが明らかになりますから、取り組みを主導している工場の開発部門担当者も立ち止まるわけにはいきません。
そもそも、そうした時間軸を設定したのは、現場の生産性を高める納期を明らかにすることがありました。
納期を明らかにしているのは、工場経営上、その時までに収益力を高める必要性があったからです。
製造現場の技術開発ですから、研究所のそれとは異なりイノベーション水準にはなかったですが、地道な技術開発は現場の足腰を鍛えます。
製品の機能や価格で常に競合との競争に晒されていたので、現場を継続的にブラシュアップさせる必要性を、当時、強く感じていました。
こうした雰囲気の中、現場の技術開発が停滞している状況に違和感を覚えたくらいですから、保守的な・・ということなど、当時、全く頭にはなかったことを思い出します。
”いつまで”がはっきりしているので、未達のときは修正となります。
”変える”共同作業を進める上で、ベクトルを合わせやすくなるのです。
そもそも、その時間軸を持ち出すのは、そのときまでに”〇〇”を”●●”へ変える必要があると願うからです。
そして、その願いの原動力は、経営者の想いであったり、危機感であったり。
つまり、時間軸に経営者の想いや危機感が反映されるのです。
現状維持では、相対的に後退を意味します。
これでは、事業を安定的に続けられません。
そこで、”変える”ことを時間軸に乗せます。
”変える”納期を時間軸で現場へ提示するのです。
1年なのか、2、3年なのか、あるいは5年、10年のスパンなのか。
経緯者の想いの本質は、”変える”その内容もさることながら、時間軸にこそ現れるのではないでしょうか?
先の経営者とは、目指すべき状態を時間軸といっしょに整理しながら、体制作りの進め方を考えました。
ゴーイングコンサーン、企業は存続させるものという考え方があります。
ゴーイングコンサーンは現状維持の思考では実現しません。
変化対応業という企業の本質を踏まえるなら、最初に示した経営者の言葉の通り、止まっていては貴社の命脈は保てません。
現状維持思考を払拭しないと、知らず知らずのうちに負の組織風土が形成されるからです。
そこで、経営者は、”変える”ために、想いを時間軸に乗せ、現場がやるべきことを明示して下さい。
時間軸が現場を動かします。
”変える”ために、現場がやるべきことを時間軸に乗せませんか?