「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第117話 人と人をつなげる
現場はつながっていますか?
「最近、別の仕事に時間を割けるようになってきました。」
ご支援中の金属加工企業、経営者の言葉です。
その経営者は現場を把握するのに、毎日、決まった時間、現場へ足を運んでいました。
経営者が3現主義を通じて自ら現場へ足を運び、状況を肌で知ることは、儲かる工場経営の基本中の基本です。
場に身を置かないと、ちょっとした現場の雰囲気や空気の変化を感じることはできません。
儲かる工場経営の”構造”や”型”をつくった後、それらの構成要素となっている仕組みが滞りなく回っているか、いないかを判断するのは経営者の仕事です。
いわゆるフォローと評価です。
現場のちょっとした”変化”を捉える行動とも言い換えられます。
原則、自ら足を運んで現場の空気を肌で感じることです。
ただし、これも程度問題となります。
なぜなら、経営者には、当然のように経営者にしかできない仕事が存在し、特に5年先、10年先へ向けて、手を打つことが本来の最重要課題だからです。
経営者が、現場と一緒になって、”今”のことに時間を割き過ぎていては、現場はいつまでたっても成長しません。
現場は、何かあれば「社長が助けてくれる」と考えるからです。
それに5年先、10年先の戦略を考え、手を打つという経営者の最重要課題が進みません。
したがって、経営者は、”今”の把握を怠ってはいけないと認識しつつ、”将来”への取り組みこそが最重要課題であると考えなければならないのです。
両者のバランスが要点となります。
先の経営者は、”将来”を考える仕事にもっと時間を割きたいと考えていました。
そうした時間が、やっと最近、生まれてきたと感じています。
それは、他でもなく、現場が変わってきたからです。
弊社プログラムは3つの改革と3つの羅針盤に焦点を当てています。
現場改革→意識改革→構造改革。
儲かる体制、つまり儲かる”構造”に変えることが経営者の最大の願いであり、そのために現場の意識を変え、現場改革をきっかけとします。
あらゆることを”変える”必要があるわけです。
そうした”変革”は、力尽くでできるものではありません。
かなりのエネルギーを要します。
片手間ではできません。
経営者の覚悟が不可欠であり、それと同時に、経営者が現場へ方向性を示す必要性もあるのです。
これが羅針盤です。
そこで、現場へ示したい方向性が3つあります。
一体化、見える化、収益化。
3つの改革を段階的に進めるのに、現場へ3つの羅針盤を明示するのです。
ですから、現場改革の初手は現場の”一体化”となります。
チームの凝集性を高め、その後の取り組みを加速させるのです。
先の現場では、経営者が将来に描いている構想を具体的に説明することから始めました。
そして、現場でやるべきことを列記し、それらを改善計画へ落とし込んで、成果を評価できるようにしました。
結果を数値化、見える化して、改善活動が利益につながる状況を目指したのです。
さて、そうした取り組みと平行して進めたことがあります。
現場リーダーと工場長の仕事の水準を一段高めてもらうことです。
この論点は、ビジネスマンの自己啓発書でしばしば解説されていることと変わりません。
「組織のリーダーとして良い仕事をしたいのなら、日常的に一段高い職制目線で仕事をするべし」というあれです。
主任クラスであれば、係長の目線で仕事をするべし。
係長クラスであれば、課長の目線で仕事をするべし。
課長クラスであれば、部長の目線で仕事をするべし。
部長クラスであれば、・・・・・・・・・・・・・・・・。
先の現場では、まず、そのことを個別に伝えました。
経営者が描いている構想を説明したうえで、期待していることを個別に伝えたのです。
「あなたには、〇〇をしてもらいたい。」
こうして、今の仕事のやり方を見直して、仕事のやり方を変えようということを、”間接的”に伝えました。
個別具体的であることが要点です。
多くの中小現場で直面している問題に、”工程間の連携が弱い”、がありますが、その現場も同じでした。
結局、仕事のやり方を変えてみましょうというのは、現場の連携力を高めましょうということに他なりません。
いわゆる、これが”一体化”、現場のベクトル合わせです。
個別ばらばらの動きが連動して、組織としての力が生み出されます。
それを具体的に現場へ伝える表現のひとつが「仕事の水準をそれぞれが一段高める」です。
先の現場では、従来から、下記のような雰囲気で仕事をしていました。
・現場リーダーは、自工程での役割さえすればいいと考えており、問題に直面すると、すぐに工場長へ相談していた。
・工場長は、現場を見渡して、問題がありそうなところへ自ら入り、作業者と一緒に作業をしていた。
こうした状況から、3つの羅針盤を示しながら、工場長と現場リーダーへ気付きを促し、仕事のやり方を変えようとしたのです。
その結果、下記のような状況に変わりました。
・現場では、現場リーダー同士が相談しながら問題を解決するように変わり、現場リーダーは作業者への指導を積極的にするようになった。
・工場長は仕事を現場へ任せ、フォローと評価に専念し、リーダーへの指導を通じて現場のスキルを高めるようになった。
現場リーダーが全体最適化の視点を持ち始め、工場長が作業に従事せず、管理者としての視点を持って、現場を上手く動かそうとし始めています。
工場長には「プロデューサーになって下さい」とお話ししています。
先の経営者は、下記の状況を目にして、現場が変わったと感しています。
・現場を巡回していると、現場リーダー同士が相談している姿を頻繁に目にするようになり、現場リーダーが自信を持って作業者へ指示をしている。
・工場長がスタッフや営業と頻繁に言葉を交わすようになり、現場の状況が事務所にいても見えるようになってきた。
従来に比べて、それぞれ、一段高い仕事に取組んでいることがわかります。
”一体化”の現場では、こうした状況になるのです。
現場の個と個が線で繋がり、さらにはそうした線が面を構成して、現場全体が繋がって、活動が連動し始めます。
経験した人でなければ理解し難いことですが、こうした状況に至ると現場の仕事は”楽”になり、”楽しく”なります。
一体化のもとでは、見える化や収益化の取り組みが加速できるからです。
こうなると、仕事のやりがいを感じる機会が増え、それは自分が関わる仕事の目的や意味付けを知ることにつながります。
やる気を引き出す3つのポイントのひとつは”大きな目的”であることを思い出して下さい。
このような現場に変わりつつあるので、経営者は仕事の大半を現場へ任せられ、その結果、別の仕事に時間を割けるようになったのです。
ここへ至るには、裾野を広く、現場リーダーのやる気を引き出す仕組みづくりも欠かせませんでした。
”評価表”や個別面談、工程会議の新規導入等など。
取り組みが連動して、そうした結果に至っています。
現場改革の初手である、”一体化”で打ち出す対応策は、現場独自のものですが、共通した考え方があります。
それは、”つなげる”という観点です。
作業者同士をつなげる、現場リーダー同士をつなげる、工程間をつなげる、現場と営業をつなげる・・・・。
つなげることで現場の状況が見えるようになり、自立して回るので、経営者は現場に仕事を安心して任せられるようになるのです。
先の現場では、これから具体的に付加価値額生産性の向上が期待できて楽しみです。
弊社のご指導では付加価値額生産性に焦点を当て、従来対比で50%アップに挑戦しますが、世の中のノウハウ本で語られている程、簡単ことではないとも感じています。
現場の意識を変えることは、簡単なことではありません。
簡単なことではありませんが、変えなければ、生き残れない中小現場が多いのも事実です。
決断した今こそ、スタートするときです。
昨今、IOTがメディアで盛んに取り上げられていますが、IOT、モノのインターネットですから、モノとモノとを繋いで付加価値を生み出すことが本質です。
この観点を大いに活用すべきですが、これを導入する前に、やるべきことがあります。
それが、作業者同士をつなげる、現場リーダー同士をつなげる、工程間をつなげる、現場と営業をつなげる・・・・。
現場の人と人をつなげることです。
”モノ”をつなげる前に、”人”をつなげたいです。
アナログ的ですが、いわゆる現場力を生み出す源泉として、これに勝るものはありません。
現場をつなげる仕組みづくりに挑戦しませんか?