「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第116話 考えるには知識が必要
現場の若手は「創造性」を発揮していますか?
毎年、この時期になると世界的に知られた、あの賞が話題に上りますね。
ノーベル賞です。
2018年のノーベル生理学・医学賞は京都大学高等研究院の本庶佑特別教授に贈られることになりました。
同じ日本人として誇らしい限りです。
日本人のノーベル賞受賞は2年ぶり。
本庶氏で26人目となります。
ノーベル賞受賞者の国別ランキングでは7位のようです。
トップはアメリカ、以下、イギリス、ドイツ、フランス、ロシア、スウェーデン、日本。
ノーベル賞もあくまで人が選ぶものであり、人選に選考委員の意図や意思が反映されますから、受賞者数がそのまま、国別”創造性”ランキングになるとは思えませんが、少なくとも、創造性を発揮して、人類の発展へ貢献できる人材が少なくない国のランキングはある程度反映しているでしょう。
受賞者が育った環境や教育環境あるいは研究環境、こうした環境が創造性発揮を後押し(あるいは反面教師のケースもあるかもしれませんが)していたことは間違いないありません。
日本にはそうした環境が、他国に劣らずあると言えます。
90年代以降、国内の製造業は開発力、モノづくり力のどちらにおいても、中国や韓国、台湾という国々に負けているのか?と考えざるを得ないことがドンドン起きています。
かって、世界を席巻していた家電やDRAM関連の大手企業、残念ながら、今はアジア企業の後塵を拝しています。
日本人の取り巻く環境が創造性や独創性を発揮するのに不利だということは決してないですから、日本ならではの独自のモノづくりを今後も展開したいものです。
少なくとも大量生産や大ロットをベースにした数による固定費低減戦略ではないモノづくり、つまり効率高く付加価値額を積み上げる戦略が求められます。
前者は新興国の戦略ですから、私たちは後者の戦略をとるべきです。
中小製造企業は、大手に比べて規模が小さい分だけ、柔軟性、機動性、小回り性に長けているわけですから、そうした強みを大いに生かし、創造性を発揮いていく・・・。
少数精鋭で筋肉質の現場がピリリッとスパイスの効いた知恵をチームで出し続けるイメージが浮かびます。
中小製造現場でも創造性を発揮する場を造りたいです。
現場のやる気を引き出すには3つのポイントがありました。
自主性、有能性、大きな目的。
創造性はこれらとセットであることは論をまたないでしょう。
やらされ感たっぷりで、3つのポイントに欠ける職場では、何を言っても無駄であり、糠にくぎ、のれんに腕押し、働きかけに全く反応がありません。
ですから、いわんや創造性においておや、です。
創造性の発揮を現場に期待したいのならば、まずはやる気を引き出す3つのポイントを忘れてはいけません。
そして、その上でなにをすべきか・・・・となります。
創造性って生まれつきのものではないだろうか?と考える皆さんも少なからずいるかもしれませんが、そうであるなら打つ手なし!となってしましますね。
これでは困りますから、経営者であるなら、なんとか訓練してでも現場に創造性を身に着けてもらいと考えることでしょう。
研究者の創造性はどうすれば生まれるものでしょうか?という新聞社の問いに対して、73年、日本人として4人目のノーベル賞となる、ノーベル物理学賞を受賞した江崎玲於奈博士は次のように語っています。
「私は教育こそ大事だと思う。知性には、分別力と創造力がある。分別力というのは、情報を得て、知識を得て、理解し応用する能力だ。創造力というのも知性の一つとして、もっと教育でたかめなければならない。」(出典:日本経済新聞2018年10月2日)
江崎玲於奈博士は創造性を教育で高めることができるとお話ししています。
その中で、情報や知識を得て応用する能力を身に着ける必要性も指摘しています。
つまり、”考える”ためには、知恵を出すには、知識が必要であるということです。
これは製造現場でも全く同じであると考えています。
製造現場の最大の課題は、いわゆる”生産の流れ”をつくることです。
生産3要素を現場へ投入し、効率よく加工して、顧客へ滞りなく納入することが最短でキャッシュを手にするために欠かせません。
”生産の流れ”をつくよう現場へ指示したとき、現場リーダーや作業者は具体的な行動ができるでしょうか?
つまり、”生産の流れ”という抽象的な言葉から、具体的な活動をイメージできるかということです。
そこで、現場では、生産管理3本柱の知識や情報が必要となってきます。
イメージするには知識や情報が必要なのです。
体系付けられた知識を活用することで、組織として揃った活動がやりやすくなるでしょう。
いわゆる”定石です。
将棋や囲碁のあれと同じですね。
棋士はまず、定石を身に着け、そのうえで独自の手を考えます。
定石を無視し、最初からオリジナルを目指していては、望んでいる状態へ至るのにやたらと時間を要するか、あるいは的をはずしたところへ至るか、どちらかになるでしょう。
特に後者のことを”我流”といいます。
現場で話をきいたとき、なんでこんなやりかたをしているのだろう?という場面に出くわすことがあります。
しかし、現場の当事者たちは、それに気が付いているのか、いないのかそのやり方を変えずにやっているのです。
まさに”我流”です。
こうしたとき、生産管理の定石を知っていれば知恵が出てきます。
改善活動も生産管理3本柱の知識をベースに考えるのです。
各自が勝手バラバラに考えるのではなく、体系をもとに知恵を働かせるので、改善の方向性を合わせやすくなります。
さらに、現場リーダーをはじめベテランは経験を通じて多くのことを理解し身に着けていますが、そこへ知識や情報が加わると、経験がを通じて知ったことが体系付けられます。
こうして、経験から体系付けられた知識こそが独自性を発揮するけです。
考えるには知識が欠かせません。
定石に基づいた考えの先に独自性があるのです。
経営者には、現場が生産管理3本柱の定石を習得する場を準備していただきたいです。
人材教育は、基本的にOJTが最良であるとの考えています。
あくまで、モノづくりの現場は実践を通じて、あらゆることを身に着けるべきですし、学ぶために経験は絶対に必要です。
ただし、経験だけから学ぶやり方では、”我流”に陥る懸念があります。
ですから、生産管理3本柱については、現場の状況を踏まえ、必要な知識を教育する場、つまりOFF-JTの場も必要です。
独自性に至るには、経験と知識を自らの頭で融合させて考えること、つまり内省が欠かせないのです。
生産性向上をテーマにした講習会でお話したあと、名刺交換の場などで、皆さん感想をおっしゃって下さいますが、しばしば「あのことは気が付かなかった」という趣旨のことをお話になる方もいます。
そうした感想を伺うと、経験を振り返り、反省すべきは反省して行動を変えるきっかけにしていただいているのではと嬉しくなります。
講習会などでは、教科書通りのお話をしていてはつまらないので、経験談を加え、説明ではストレートやカーブなど各種球種を投げ込むわけですが、お話していることは、あくまで”定石”であり、実務で使っていただくことを前提としています。
貴重な時間を割いて足を運んでもらっているわけですから、こちらも真剣になります。
生産活動とは別の時間を要するのがOFF-JTですが、OJTと組み合わせて人材育成を考えたいです。
特に、生産管理3本柱の”定石”についてはそうです。
”定石”を知った現場には2つのことが期待できます。
1.改善活動で解決方法を考えるのにベクトルを合わせやすい。
2.ベテランの経験を体系付けられる。→これが独自性。
経験のみでは我流になるところを、経験→知識・情報→内省という段階を踏むことで独自性に変換するのです。
伊藤が中小現場の管理者時代、とても意欲的な20代の現場リーダーと一緒に仕事をしたことがあります。
品質クレームをきかっけに品質管理のしくみをゼロからつくりました。
その現場リーダーは、予備知識ゼロからのスタートでしたが、クレーム処理の経験から多くのことを学んだようです。
そして、そのあと品質管理のやり方を彼へ指導したわけですが、最終的には工程能力指数を現場活動へ生かす水準にまで仕事の質を高めてくれました。
「標準偏差ってそういうことだったのですか。それなら、あの時、把握できていたら、打つ手がありましたね。」と腹落ちした彼の表情が今でも忘れられません。
経験→知識・情報→内省→独自性の流れを実感できた瞬間でもあります。
今でも活動を継続してくれているでしょう。
こうしてたどり着いた独自性を持つと自信につながります。
弊社がご提供しているコンサルティングの後半に現場の研修を加えているのも、こうした実績が背景にあります。
それまでプロジェクトでやってきた経験と知識を改めて融合させて、現場の1人ひとりの内省を促すことが、さらなるステップアップに繋がると考えているからです。
人材育成には計画的にOJJ-JTも取り入れて、知識の拡充を図りたいです。
結局、知識や情報を知ることは、”外”を知ること、言い換えると自らを客観化することに繋がります。
ですから、意欲的で、外部からの情報も素直に取り入れようとする姿勢を持つ現場ではOJJ-JTの効果は大きいのです。
考えるためには知識が必要です。
つまり創造性は教育によって高められます。
生産管理3本柱の定石を現場へ習得させる仕組みを考えませんか?