「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第138話 いろいろな働き方を受け入れる

現場では、いろいろな働き方に対応できますか?

「短い時間でも働いてもらえるようにしています。」

パートタイマーにも製造現場で活躍してもらっている経営者の言葉です。

 

少子化は中小製造現場が必ず直面する外部環境の変化です。この変化へは先手必勝”あるのみです。必要な人員数を確保するための採用ができない・・・・このような事態を招いてから、対応するようでは時すでに遅しです。

人手不足が大きな経営問題となり、企業の命脈を保つのが難しくなるでしょう。

 

先の企業ではフルタイムの作業者を確保するのに苦労していました。そこで、パートタイムで働いてもらえる人も採用の対象としたのです。

朝から昼過ぎまでなら働ける主婦も含め、短時間なら働けるという地元の方々が、今、現場で汗をかいています。

 

親や子供の世話があるのでフルタイムでの勤務は難しいけれども、半日程度の勤務は可能だという主婦の方々も就職を希望してきたのです。

入社してすぐに高度な技能を必要とする仕事をこなせませんが、組み立て系や特定の繰り返し作業なら対応できます。

先の企業でも、パートタイマーの主な仕事は製品梱包です。1週間程度、現場教育を受けたらできる作業となっています。

 

フルタイムで働いてもらえることが理想ですが、そうした人を採用できなければ、早い段階で手を打たなければなりません。

先の企業にとっては、パートタイタイマーでも働ける職場にすることでした。女性の採用を想定して職場環境を整備するとともに、作業を教えられるよう手順書も造ったのです。

受け入れ態勢を整えた結果、想定通り、女性を含めた地元の人を採用でき、人手の確保に至りました。パートタイマーを加えたことで採用候補者の枠を広げられたのです。

 

ただし、パートタイマーを採用してから、その経営者が留意しなければならないことも出てきました。現場メンバーの組み合わせです。

その現場では原則、2~3人のチームで仕事をします。パートタイマーを含めたメンバーの組み合わせ方が生産性に影響するのです。

勤務時間が異なるメンバーで構成されたチームもあります。こうしたチームであっても、生産性を維持する観点が欠かせないのです。

 

現場の状況を生産性で計測する必要がある・・・・先の経営者はこのように考えました。生産性が維持できないのなら何らかの対策を打つ必要があるからです。したがって、生産性を計れるようにしておかなければ、そもそも生産性低下を感知できません。

今後、フルタイムで働く人の採用が難しくなり、パートタイムで働くメンバーの増加が予想されるうえに、働き方改革で実質、現場へ投入できる工数も減ります。

働く人の多様性が広がり、投入できる工数にも制約を受ける中、現場としてこだわるべきは生産性であるとその経営者は考えています。

 

 

 

 

 

1980年代、いわゆる平成バブルが崩壊するまではGDPも一定の割合で拡大していました。名目GDPは70年代100兆円だったのが、90年代500兆円へ。20年間に約400兆円、増えました。賃金の伸びも実感できた時代です。

造れば売れる時代でしたので、設備投資による生産能力の拡大が儲かる工場経営の戦略でした。当時のことを知る経営者からも、「とにかく頼まれた仕事をこなすのに精一杯だった」との話を伺うことがあります。

現場へ投入する生産要素の規模を大きくして、生産数量の拡大させたのです。利益は生産数量の拡大といっしょについてきました。その結果、20年間で400兆円の付加価値を積み上げたわけです。

 

しかし、その後、状況は一変しました。

1990年代の前半に平成バブルがはじけてからの20年間、いわゆる「失われた20年」とも、「失われた30年」とも言われているのはご存じのとおりです。

メイド イン ジャパンの象徴であった家電業界、あるいは世界シェアの50%を占めていた半導体業界などの衰退がはじまったのです。

国内に身を置いていると、そうした衰退に気が付きにくかったかもしれませんが、日本は”相対的に”競争力を失いました。

 

2000年までは世界で最も高かった製造業の労働生産性も2016年時点で世界で16位です。そうした状況はGDPの伸びにも表れています。

1990年代から現在まで、GDPは40兆円程度しか伸びていません。平成バブル崩壊以前の伸びとくらべて10分の1です。

外部環境が大きく変わりました。

 

これからのモノづくり事業で欠かせない観点が生産性です。特に、分母のインプットに焦点を当てる必要があります。

分子のアウトプットを増やすために、分母のインプットを増やせる時代ではありません。中小製造現場では投入できる経営資源、特に人的資源に制限があります。

だからこそ、生産性で現場のモノづくり力を計測する必要があるのです。経営者の意思決定に必要な数値となります。

 

先の企業では現場の働き手を確保するのに、働く時間の自由度を高めました。

例えば、就業時間が8時間の現場で、フルタイム3名の場合、現場へ投入できる工数は24人時です。これだけの工数を確保するのに、今後はパートなどの力も借りることになります。5名、6名で24人時を確保していくわけです。

こうした取り組みで留意べきが人時生産性であり、この指標を維持、成長させていくのが経営課題となります。

先の経営者は働き方の多様性を受け入れながら、付加価値額人時生産性を高めていこうとしているのです。

 

 

 

 

 

生産性向上活動については当コラムでもしばしば取り上げていますが、中小の現場では、まず、タイプYの生産性向上にチャレンジしていただきたいです。詳しくはセミナーやご指導でお話ししていますが、現場の生産性向上は3段階で考えます。

はじめに、現行の設備と人員をしゃぶりつくす段階です。今の経営資源でどこまでやれるか把握しているでしょうか?現場改革の一歩目はここからです。

ですから、納期遵守ができいているから問題はないだろうと思い込んでいる現場で、改革は進まないわけです。納期に合わせた仕事のやり方をしているうちは生産性向上活動に取り組めません。

そもそも”問題意識”がなければ、わざわざめんどうなことをやろうという殊勝な人はいないでしょう。自覚症状がない段階で「病院へ行け!」と言っているようなものです。

 

その後、挑戦したいのが、アウトプットを維持しながらインプットを減らすことです。分母↓、分子→で生産性を高めます。

しゃぶりつくして、限界を体感した後、その壁を破りたい!という気持ちがドライビングフォースです。

弊社ではこれをタイプYの生産性向上と称しています。この活動の成果物は余剰の経営資源(時間、人)です。これを、”新たな”付加価値創出の経営資源とするのです。

 

そして、3段階目に、タイプXの生産性向上、分母→、分子↑を目指します。付加価値額の積み上げです。

儲かる工場経営はこの繰り返しです。従業員の幸せを実現させる将来投資型固定費戦略の柱はこうした生産性向上活動となります。

 

先の企業でも、タイプYに取り組み、生産工程に「空き」をつくって、そこへ新規受注品をどんどん取り込むことを目指し始めました。生産性を指標としていなければ取り組みの良し悪しが判断できません。

 

 

 

 

 

働き方の多様性が拡大することに加えて、働き方改革で投入できる工数の制約が大きくなる以上、従来と同じ仕事のやり方では儲かりません。

経営者自身が、率先して仕事のやり方を変え、働き方の多様性へ柔軟に対応できる体制を整備しておくことが必要なのです。

フルタイム2名であろうが、パート4~5名であろうが、人時生産性を指標にすれば正しい判断ができます。働き方の多様性が儲からない原因とならないように先手を打ちたいです。

いろいろな働き方を受け入れられる現場、多様性を受け止められる懐の深い現場。こうした現場へ変える必要があります。ですから経営者の右腕役となる現場リーダー達の活躍が期待されるのです。現場に活気を吹き込むのは現場リーダー達だからです。

是非、変わることに挑戦してください。

弊社は挑戦する経営者の後押しを力一杯して参ります。

・成長する現場は、働き方の多様性を生産性向上の機会とする。

・今の仕事のやり方でいいと思い込んでいる現場は、働き方の多様性を儲からない言い訳にする。

働き方の多様性を受け入れる体制を整備しませんか?