「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第147話 新たな案件を取りに行く覚悟

 

 

「新たな案件を積極的に取りに行かなければなりません。」

現在、独自の価格体系を検討している経営者の言葉です。

 

「従業員の幸せを実現させたい」との明確な経営理念を掲げ、地元に密着した工場経営を実践されています。また、そうした経営者の想いに応えようとする雰囲気に満ちた現場です。

従業員ひとりひとりの想いや目標が丁寧に掲示されているところからも経営者と現場の一体感を感じます。

従業員の幸せを実現させるために、収益性を一層高める必要があるとその経営者は考えました。そこで、独自の価格体系をつくって、製販の連携を強化しようとしています。

 

現場活動を価格体系と紐づけると、活動の納得性が高まり、それは、”使命感”へつながった高い水準のやる気を引き出します。

ですから、付加価値額生産性向上活動では、独自の価格体系を明らかにして、現場がやるべきことを示すのです。利益への貢献度合を実感した現場は、ますます頑張ります。

プラスのスパイラルを生み出す原動力は、経営者の挑戦的な姿勢です。

 

付加価値額積み上げに有利な案件を是が非でも獲得しようという本気の想いが現場を動かします。経営者が抱く想い以上のエネルギーが現場から生まれることはありません。

先頭に立つ経営者が必死になって乗り越えようと知恵を絞れば、現場もそうします。

逆に、経営者が「これは無理だ。今のままでいい。」と考えれば、現場もそう考えます。

先の経営者は固定費を健全に成長させようと決意して、積極的に付加価値額を積み上げようと知恵をしぼり、行動を始めたのです。冒頭の言葉にはその固い意志が表れています。

 

 

 

 

 

付加価値額生産性を高める活動は2つです。

・新たな付加価値額を積み上げる機会を生み出す新製品開発活動

・儲かる価格を設定しやすくする現場活動

先の企業では前者の活動をすでに展開中です。自社開発商品を自社の販売チャネルでテストマーケティングをしながら売れ筋商品を探っています。

今年になって、新たに取り組み始めたのが後者です。「価格力」と「現場力」を連動させて付加価値額生産性を高め、収益力を向上させます。

 

詳細はセミナーやご指導でお伝えしていますが、価格設定の体系が現場活動に必然性をもたらすのです。現場活動を価格体系と紐づけると活動の納得性が高まります。

現場のやる気を引き出すために、価格体系と現場活動を連動させることが要点です。

 

繰り返し申し上げていますが、儲かる工場経営の要諦は「顧客に選ばれる製品(商品)を効率よくつくること」です。

新製品開発活動の狙いは、顧客が選んでくれる付加価値額率の高い製品をつくりだすこと。顧客が喜んでお金を払ってくれる高額商品です。

一方、現場活動の狙いは生産性向上です。投入する経営資源が一定であっても、産出する製品数量の増加を目指します。あるいは投入する経営資源を減らしても、産出製品数量を維持させるのです。

 

 

 

 

 

さて、8時間稼動で平均3つの受注案件をこなしている現場を思い浮かべてください。この現場で生産性向上活動を展開するときの目標選択肢は2つです。

・8時間で平均4つの受注案件をこなすこと。

・6時間で平均3つの受注案件をこなすこと。

弊社では前者をタイプX、後者をタイプYの生産性向上と呼んでいます。目標設定のやり方が違うだけ、狙いの本質は同一です。

大手と異なり、制約が多い中小の現場ではタイプYに焦点を当てることが多いと感じていますが、やるべきことはどちらも変わりません。付加価値額を積み上げるのに現場活動でやることは「詰める」ことです。

 

生産計画を考えれば、「詰める」の意味が分かります。生産計画では、時間軸に沿って生産すべき案件が、列記されているはずです。1日にどれだけの仕事量が入っているでしょうか?

それを増やすのです。列記されている仕事を、ぎゅーっと詰めて、空きをつくります。空けば、そこに新たな案件を入れられます。仕事の密度を濃くすれば、付加価値額が積み上がのは明白です。

 

 

 

 

 

高層ビルで毎朝、しばしば起きる問題に、エレベーター渋滞があります。出勤する人が集中するため、エレベータ待ちで人が渋滞する問題のことです。

付加価値額の積み上げは、このエレベーター渋滞を解消するのに似ています。この問題を解消したいとき、少しでも多くの人に乗ってもらえるよう、中の人が奥へ詰めるのは、具体策のひとつです。

最大積載人数20人のところ、毎回15人程度でエレベーターが発車していては、無駄が生じています。そこで、中の人へ奥へ詰めるよう外から声掛けをするのです。

付加価値額の積み上げでも、中の人が奥に詰めるがごとく、従来業務を詰めて、空きをつくります。経営者はその声掛け役です。

 

詰めて、空きをつくり、新たな案件を取り込んだ分、収益性が高まります。ですから、「空きをつくったら、それで終わり」ではいけません。

狙いは、あくまで、付加価値額を積み上げることにあります。したがって、経営者は、空きへ取り込む案件を準備をしておかなければならないのです。

「奥へ詰めてくださ~い。」と声掛けをしたのに、人が乗り込んでこなければ、奥の人は「?」となります。

 

お金に結びつかない現場活動で、しばしば起きるのはこれです。3人で10個の製品をつくっていたのを、2人で10個つくれるようにした現場を思い浮かべてください。

これ自体、素晴らしいことで、現場の頑張りは、称賛に値します。ただ、これだけでは、お金に結びつきません。

余剰となったひとりに従事してもらう付加価値額を積み上げる新たな仕事が、事前に決まっていなれば、儲けにつながらないのです。

 

ここを曖昧にしておくと、先の現場の余剰人員は、一日中、掃除をして終わり、となりかねません。混んでいるエレベーターで、乗り込む人を決めていないのに、経営者が「奥へ詰めてくださ~い。」と声掛けしているようでは、現場の「?」が増えるのを助長するだけです。

義務感とヤラサレ感が漂うことになります。現場活動をやることが目的となっている場合は要注意です。経営者は、新たな案件を積み上げるためにヤッテイルノダという強いメッセージを、現場へ発信しなければなりません。

新たな案件を取りに行くぞという経営者の覚悟が現場を動かします。

 

 

 

 

 

先の経営者は、儲かる価格を設定しやすくする現場活動の狙いを理解しており、現場もそれに応え意欲的に活動しているようです。経営者の期待以上の言動を示すこともあるとのこと。

その経営者が、新たな案件を積極的に取りに行く決意を現場に示しているからです。儲かる工場では、付加価値額を積み上げる方向性が経営者と現場で共有されています。

詰めて、空きをつくって、新規案件を取り込む。

今年、どれだけ付加価値額を積み上げられるか、楽しみな現場です。

 

・成長する現場は、詰めて、空きをつくって、新規案件を取り込む。

・停滞する現場は、詰めるのは無理だと考える。

付加価値額を積み上げるしくみをつくりませんか?