「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第146話 新しい芽

人材の「新しい芽」が出る環境に整備されていますか?

 

「現場のキーパーソンが抜けてもそこを埋める新しい芽が出てくれます。」

リーダーシップを発揮する新たな人材について語った中小経営者の言葉です。この現場では、事情により、工場長が、長期間、現場を離れなければならなくなりました。

60人規模の工場です。そこで、リーダーの中から工場長の代役を選抜し、乗り切ることにしました。

 

付加価値額生産性を高める活動は2つあります。

・新たな付加価値額を積み上げる機会を生み出す新製品開発活動

・儲かる価格を設定しやすくする現場活動

前者は特定の人材で推進させる取り組みですが、後者は現場全体がチームとなって推進させる取り組みです。現場を引っ張る人材のリーダーシップが欠かせません。

加えて、儲かる価格を設定しやすくする現場活動について知っている必要があります。現場活動がヤラサレ感タップリになるか、使命感に満ち溢れるかはここ次第です。こうした人材が現場でリーダーシップを発揮してはじめて、チームのベクトルが揃います。

 

先の工場では1年間の準備期間を経て、生産性向上活動の意義や進め方を習得した工場長が、現場活動に着手しようとしていました。しかし、残念ながら先の事情が発生したのです。

船頭役の戦線離脱を受け、経営者は取り組みを一旦保留にすべきかどうか迷ったようです。しかし、ある確信があって、予定通り現場活動に着手しました。

その確信が冒頭の言葉に表れています。着手して数か月が経過しましたが、工場長の代役を担ったリーダーがしっかり活動を進めているところです。

 

 

 

 

 

ある人を工場長やリーダー役に抜擢したとき、経営者は課題に直面します。抜擢された人の抜けた穴をどう埋めるかです。

そこを埋める新たな人材がいなければ、その負荷は抜擢された人に向かいます。自分が抜けた現場を気にしながら全体を仕切るという中途半端な状況になるのです。これでは工場長やリーダー役に抜擢した効果が半減します。

 

抜擢した以上、新たな業務に専念させなければなりません。抜けた穴の埋め方も考える必要があるのです。先の現場も同様でした。

現場リーダーが工場長役を担うのに合わせ、現場作業者の誰かが、現場リーダー役を担わなければなりません。

 

幸いなことに、そうした心配はすぐに解決しました。現場作業者のなかにリーダー役の穴を埋めようとする人材が出てきたからです。

そもそも、工場長の戦線離脱は予定外で急な出来事でした。それにも関わらず、この工場長の代わりを担う現場リーダーがすぐに出てきたことも特筆したい点です。

 

現場活動の真の意味を理解した工場長は、日々の会話で現場活動の意義をリーダー達に語っていました。そうした言葉がリーダーや作業者へ浸透していたのです。

また、その現場には、リーダーや作業者が、上司の仕事を補完しようとする雰囲気もありました。自分がやらねばならないという心意気を示す人材、つまり「新しい芽」が出る土壌もあったのです。

 

 

 

 

 

その現場に身を置いて感じることがあります。「新しい芽」の出る環境が整備されていたということです。その環境が整備されていなければ「新しい芽」は出なかったでしょう。

その環境とは、「現場の役割分担体系が明確になっている」ことです。モノづくりでストレスを感じさせない環境にあったのです。「新しい芽」が出るのは偶然ではなく必然であり、因果関係があると感じます。

 

儲かる工場経営に必要な「生産の流れ」では、3つの流れに焦点を当てますが、中小製造現場で特に重視したいのが「情報」の流れです。

「情報」にはストックとフローの性質があり、「生産の流れ」をつくるには「フロー」の観点で現場を設計する必要があります。

そして「フロー」では情報発信元と情報受信先の2つが求められます。仕事の役割分担を提示するとは発信先と受信先を明らかにすることに他なりません。

 

「生産の流れ」は連鎖的なフローで構成されます。バケツリレーと同じです。顧客から届いた「受注」という情報が入ったバケツを営業担当者→生産管理担当者→製造担当者→工場長フィードバック・・・というように手渡しをしていきます。

 

バケツの受け手は次の段階で送り手となり、受け手と送り手の連鎖があってはじめてストレスのないモノづくりができるのです。

届いたバケツを、さぁ、次の人へ手渡そうとしたとき、こちらを向ている人がいないどころか、そのバケツは自分の担当ではないとそっぽを向く人ばかりだったらどうなるでしょうか?

そのバケツを手にした人が、なんとかひとりでやらざるを得ない状況に陥ります。バケツを受け取った人が損をするという思考回路が生まれても仕方がありません。

 

先の企業では工場長に加え、スタッフ役が現場と連携して仕事をしています。そして、6つの工程のリーダーが現場を引っ張る体制です。

組織上の階層で役割分担を明らかにしていました。役割が明らかになっていれば、現場は、同僚、上司の役割を補完しようと考えます。貢献意欲がわくからです。

 

自分の役割をしっかりこなしたうえで、さらにどうしようか?という建設的な発想が生まれ、上司と部下の双方向のコミュニケーションが促されます。

こうしたバケツリレーの仕組みが、安心感や信頼関係を醸成し、人を育てるのです。貢献意欲を持った人材は、上司の仕事を補完しようとするのではないでしょうか?

 

 

 

 

 

業務分担の明確化がセクショナリズムを生む・・・こうした話を耳にすることがあります。ただ、中小現場に限れば、それは誤りです。大手と中小の現場の状況は違います。

業務分担が明らかで無いと、いわゆる現場の2重構造のうち、作業者視点のヨコ連携が強くなりすぎることが多いと感じています。業務分担があいまいなために発生する負の側面です。

 

仕事のやり方が、従来から属人的で、現場に丸投げ、組織的でない現場がそうです。部分最適の視点に支配されます。いきおい全体最適の視点を持った人はストレスを感じます。

こうした現場は極めて保守的です。受け手のいないバケツを受け取ろうとする殊勝な人はいないと考えなければなりません。誰も火中の栗を拾いたいとは思いません。

 

バケツの送り手と受け手をはっきりさせておくことが、新たな仕事のやり方を生み出す前提です。バケツリレーの連鎖が明らかになっている現場では、リレーが滞りそうになると、その周辺のメンバーが何とかしようとします。

やる気を引き出し自律性を促したかったら、現場での役割分担をはっきりさせることです。組織的に仕事をして、「バケツを受け取った人が損をする」状況を回避するためです。生産の流れ体系をつくるときの留意点でもあります。

 

先の経営者に「新しい芽」が出る確信があったのは、バケツリレーの仕組みを持っている自負があったからです。現場ひとりひとりの成長に期待をかけていました。

新たな人材の萌芽は、役割分担がはっきりしていて、組織的に仕事をやっている現場で期待できることです。

 

 

 

 

 

人材が育たなければ、中小現場は生き残れません。企業の命脈を保つ手段です。経営者はそこに多くの時間とお金をかけています。ただ、それが「お勉強」で終わっていることも少なくないです。

実践する場がないからです。バケツリレーの仕組みがないと、新たなことに挑戦しても、バケツを受け取った人が損をします。

 

自身の仕事を限定し、守りに入るので、いつまでたっても懐の広い人材は育たないのです。人材育成では、人材抜擢とその人材を埋める人材の抜擢もセットになります。仕組みで人材を育てる前提として「新しい芽」が出る環境整備も不可欠なのです。

「新しい芽」を期待したかったら、現場の役割分担の体系、つまりバケツリレーの仕組みをつくり、現場のやる気を引き出して自律性を促します。

 

・成長する現場は、バケツリレーの仕組みで「新しい芽」が出てくるのを促している。

・停滞する現場は、バケツを受け取ったら損をすると考える。

バケツリレーの仕組みをつくりませんか?