「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第14話 事業計画は使って、使って、使い倒すモノである

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計画は計画通りに進まないからこそ計画である。望ましい姿と現状のギャップを認識するために、また、現状を経営者が考える望ましい姿に少しでも近づけるために、事業計画を使う、という話です。

 

一生懸命、時間をかけて事業計画を立てたものの、計画を立てた時点で息切れしてしまい、
出来上がった事業計画書がそのまま机の引き出しへということはありませんか?

 

また、計画を立てたけれども、その通りに実行できない現状に嫌気がさして計画書がお蔵入りということになっていませんか?

 

 

「事業計画というのはどうせ計画通り進まないモノだから、手間暇かけて作ってもしょうがないね。」

「具体的な計画、事業計画のようなものはあるのでしょうか?」と質問したことに対してのある板金組み立て製造業企業の経営者のコメントです。

その会社では研究開発を遂行する専門の部署はないものの、社長が率先して製品開発に取り組んでいます。

技術イノベーションが製造業で成長するために不可欠であることを理解している経営者ならば、新規事業を創出するための将来投資を実践します。

自ら取り組みに乗り出す場合も少なくないでしょう。それだけ自社の将来を左右する重要案件であることをご存じだからです。

 

 

こうした将来投資の活動の重要性をしっかり認識しつつも、その一方で事業計画や開発計画等、「計画」を活用している経営者は多くないと感じます。

先の経営者も事業計画そのものを否定していたわけでなく、全体像を描くことの重要性は認識されています。

しかし、実際に取り組みを進めると、計画と現状の乖離が起きるので計画の精度を上げてもしょうがない、つまり計画書の役割はオワッタ・・・と考えてしまう。

そこで、”計画書を使う”という観点を持てば、事業計画書の役割に対する認識が変わります。

 

 

航海で羅針盤が必要なように、事業や開発にも羅針盤が必要です。事業や開発の見通しが100%立っていて、やるべきことも明確、視界良好!という経営環境であるならば羅針盤、つまり計画は不要でしょう。

しかし、そうしたことは絶対にあり得ません。

現場で展開される製造技術や生産技術はますます高度化し、変化の幅の大きくなるでしょう。市場の将来動向は予想もつきません。リーマンショックに代表される経済的な外部環境の変化もいつ何時起こるとも言えません。

また、社内においては、自社に定着してくれる社内人財の確保が難しくなることも起こり得ます。

昨今は外部環境のみならず、社内環境でさえ見通しが立てにくい状況です。

経営者自身が自らの立ち位置をしっかりと把握しておかねば”難破”します。

そこで、使いたいのが「事業計画書」です。

事業計画は立てたら終わりではなく、使うものです。事業計画は計画スタート時点で設定した、その事業計画の”望ましい姿”です。

そして取り組みが開始されたら、経営者はその取り組みの”品質”を判断しなければなりません。その良し悪しを判断する判断基準を提供するのが事業計画です。

そもそも、計画は計画通りに進まないからこそ計画であり、計画通りに進まないからダメだというモノではないということを意識したいです。”事業計画というのはどうせ計画通り進まないモノだから”というのは当然のこと。

計画書は、計画通りに進まない、つまり現状と当初描いていた望ましい姿との間に大きなギャップがあることを認識するための道具です。

場合によっては、事業計画に修正を加えることも必要です。経済的、天災的な外部環境変化によって、事業計画の内容に見直しも入れるケースもあるでしょう。

道具ですから使い勝手のイイように計画自体にも手を加えます。

事業計画を始めとする工場経営で活用すべき「計画」は、一度立案したら後生大事に順守すべきものではなく、使い勝手よく修正するものでもあります。

 

 

経営者には実現させたい”想い”があります。そして、その”想い”を実現させるために経営者は熱く活動しています。

こうした中で、客観的に、合理的に判断する基準を持つことは重要です。場合によっては冷静な第三者からの評価も効果的でしょう。

そこで活用するのが事業計画書等、取り組みの望まし姿を目に見える形にしたモノです。言い換えると経営者の”想い”を実現させるための手引書であり、経営者の代わりに働いてくれる分身でもあります。

当初立てた計画から逸脱してしまった、と言って計画書の役割は終わったと考えるのは早計です。

現状と計画とのギャップを分析して、次の一手を考えます。事業計画書という目に見える道具があれば、それを経営者だけではなく、幹部や現場も含めて知恵を出し合うことができます。

 

 

現場の管理者時代のことです。7名程度の小規模な現場のリーダー役を務めていたY君に、その職場の”事業計画”を提示したことがあります。

事業計画という程には大げさな形式ではなかったですが、売上、利益、品質、改善に関する計画値や取り組みを明示しました。そうして、毎月1回、計画と実績を照らし合わせる作業を継続していきました。

ある時、Y君が声をかけてきました。

「昼礼で(勤務体制の関係もあり、その現場では朝ではなく、昼に集まっていた。)、みんなにやるべきことを説明する時、計画表があると話しやすく、みんなも納得してくれます。」

”計画と比較して”実績が悪いから、今月は○○を△△に変更する、実績が計画に沿っているから、□□をそのまま継続する。

計画表が判断基準を提供してくれるので、Y君自身はそれにそって良し悪しを客観的に判断し、自信を持って現場へ指示を出せたと言うのです。

もともとやる気も意欲も満々のY君でしたので、こうした”道具”を渡すと、自発的に大いに使いこなしていました。

その職場の”事業計画”をY君へ渡しておいたので、私自身が直接にその現場へ出向かなくても、その”事業計画書”が私の代わりにY君へ業務指示を出していたと言えます。

これは小さな事例ですが、工場経営という大きな取り組みにおいても考え方は同じです。

 

 

現状と照らし合わせて比較するための基準をもつことが儲かる工場経営では不可欠です。

工場が計画通りに運営されているのか、見込み通りの儲けを積み上げているのか、将来投資のための技術開発や製品開発は目論見通りに進んでいるのか、こうした判断を的確にするための手がかりを事業計画は提供してくれます。

道具ですから、使い慣れるためには訓練も必要です。

自社の成長と存続を実現させるのに適した事業計画の立案や進捗フォローのやり方は、自社独自のものに仕上がっていきます。

10年ロードマップ戦略ではコア技術と付加価値を切り口にしています。

事業計画の切り口などは、経営者自身の考え方によって独自性があってもしかるべきところです。が、思考が”発散”しないよう、絞るべきところは絞り、深めるべきところは深める勘所を掴むのも必要です。

繰り返し、繰り返し、事業計画を立案し、それを使いこなそうと試行錯誤することで、経営者は”事業計画”という道具を使う上での独自の視点を習得していきます。

”勘所”が見えてくる。このあたりはスポーツや習い事と同じです。

私自身、大手企業や中小現場で勤務する中で、その会社、その現場に適した事業計画、年間計画の立案の仕方や使い方は千差万別であることを経験してきました。

ですから、ご指導する経営者様の工場独自の要素にも注目し、そうした独自性を加味することも重要であると考えています。

事業計画立案の切り口としての共通項はありますが、最終的には経営者自身の”個性”が反映されたものになると考えていますし、そうあるべきです。

判断基準という役割を持った事業計画を大いに使いこなし独自のやり方を深めます。

こうした経営者自身が持つ独自のノウハウも、競合が絶対にマネのできない強みとなります。儲かる工場経営のノウハウです。

計画は計画通りに進まないからこそ計画です。現状を経営者が考える望ましい姿に少しでも近づけるよう、工夫を加えます。

望ましい姿と現状のギャップを認識するために事業計画を使います。

事業計画を使って、使って、使い倒します。

 

まとめ:計画は計画通りに進まないからこそ計画である。望ましい姿と現状のギャップを認識するために、また、現状を経営者が考える望ましい姿に少しでも近づけるために、事業計画を使う。