「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第151話 ゼロイチ

継続的な現場活動が機能していますか?

「働き方改革で残業を減らさなくてはならなくなり、生産が遅れ気味です。」

車両内装用のアルミ部材を生産している中小製造企業、工場長の言葉です。生産性向上の個別相談の中で、現場の現状を語っていただきました。

 

生産性は現場へ投入する工数と産出される成果物数量との組み合わせで評価します。経営者が気にするべき生産性は付加価値額の生産性です。そして、工場長が気にするべき生産性は生産数量の生産性です。

 

慢性的にやっていた残業を減らせば、現場へ投入する総工数が減ります。従来生産性のまま、現場へ投入する総工数を減らせばどうなるかは、言うまでもないことです。

総工数を減らす一方、仕事のやり方を変えず、昔ながらでは、生産数量は減り、生産計画は遅れます。残業削減を決心したら、事前に手を打たない限り、必ずそうなるのは明らかです。

 

「現場も日々の仕事で手が一杯です。どうしていいか・・。」

何らかの手を打たなければならないことは分かっているものの、具体的な行動に踏み切れていない状況にあって、工場長の目には焦りの色が見えます。ゼロの状態から現場活動を立ち上げる大変さを感じているようです。

 

 

 

 

 

継続的な現場活動を現場に定着させたいと考える経営者は少なくありません。モノづくりが高度化、複雑化している昨今、現場で発生する多様な問題を解決するのに、チーム力を生かさなければならないと考えるからです。

いよいよ、属人的な仕事のやり方では生き残れなくなってきました。

そして、現場活動を主導するのは、原則、工場長であり、リーダーです。現場が主体的にやるから現場活動となります。

 

先の工場長も、新たに現場活動をやりたいと考えているのですが、日々業務で混乱している現場で、生産活動以外の仕事ができるとは、とても思えないようです。

混乱しているからこそ、現場活動を立ち上げなければならないわけで、このあたり、ゼロから一歩目を踏み出す新規事業の立ち上げ苦労に似ています。

 

生産活動の判断基準が納期のみで、問題が発生しない限り、仲間が集まり、議論をすることをしてこなかった現場で、PDCAを回すのです。

現場活動では、ISOで言うところの「継続的改善」を実践するため、定期的に仲間が集まり、生産性向上をテーマに議論することになります。継続的に議論を重ねることでベクトルも揃う効果もあるのです。

 

ただし、簡単にできることでもありません。これまで納期以外の目標を掲げてこなかった・・・、そもそも定期的に集まる習慣がない・・・、現場メンバーは議論をして結論を出す訓練もしてこなかった・・、それでもなお、こうした壁を乗り越えたいのです。

 

 

 

 

 

新たに現場活動を定着させようと考える経営者がやるべきことは2つです。

1.生産性向上の目標値を明らかにすること。

2.経営者が声を大にして現場リーダー達を集め、議論する場を定期的に設けること。

新たな取り組みのきっかけづくりを現場へ丸投げしてはいけません。経営者自身が先頭に立って、定期的に議論する場を習慣化します。

明確なゴールを定め、それどころではないとの雰囲気を振り払うよう、声を大にして現場へ宣言する必要があるのです。

 

先の現場では、慢性的な残業を含んだ生産能力をベースに生産計画を立てていました。残業削減にあたり、具体的な削減工数を減らか明らかにする必要があります。

単に、「残業を減らす」ではなく、「1日あたりの総工数100人時を80人時へ削減する。それで従来の仕事量をなんとか維持したい。生産性25%UPを目指す」。

現場活動に必要なのは具体的な目標です。数値目標があれば、現場は経営者の頭の中が見えてきます。まずは、目的が具体的であることです。

 

現場が一丸となって達成すべき具体的な(生産性向上)数値目標を明らかにしたうえで、経営者や経営幹部が「集まれ!」と号令をかけます。まず、強制的にでも会議を開くことです。習慣化させるためです。

全員で集まり、議論して、議事録を残した上で、各担当者が宿題項目に取り組みます。そして、1週間後、再び集まり、各担当の宿題項目進捗状況を確認するのです。

問題があれば全員で知恵を出して、仲間を助けます。相互援助の雰囲気を醸成し、上手くできたら次のステップへ進む・・。

 

現場活動のPDCAを回し続けたいのです。ですから、経営者は、現場活動の意義を現場へ伝えなければなりません。さらに、現場をもれなくフォローし評価する必要もあります。

 

ゼロから取り組んで、現場活動を定着させる壁は高いです。未開拓のジャングルを手探りで進むような大変さがあります。経営者の抱く熱量次第と感じます。

現場活動自体の主役は工場長や現場リーダーですが、その現場活動をゼロから立ち上げ、定着させるのは、経営者にしかできないことだからです。

 

壁を乗り越えるのに大きなエネルギーが必要ですが、壁の向こう側へ行ければ、従来とは異なる風景が見えてきます。

残業なしでも従来通りの業務量をこなすには、今までの仕事のやり方を変えなければならないことに気付くことでしょう。そうであるなら、1人で悶々と悩むよりも、チームで議論して、さっさと解決を図る方がお得です。

 

「混乱して、忙しいから、現場活動をやらない」のではなく、「混乱して、忙しいからこそ、現場活動で仕事のやり方を変え、さっさと楽になろう」という思考回路が生まれます。

ただ、そこへ行きつくには、かなりのエネルギーがいります。それがために、具体的な目標値を提示し、経営者が主導し、現場を動かします。

経営者の成果は他人を動かしてなんぼのものです。他人を動かすための第一歩目を踏み出す決意をしていただきたいです。

 

 

 

 

 

現場活動は、日常の生産業務と平行して行われるものです。現場はそれを負荷と感じるかもしれません。ただし、現場力UPには避けて通れない道でもあります。

言われたことだけをやっているのでは現場活動とはならず、子供のおつかいよろしく、言われてやらされている感が蔓延した活動では意味はありません。

 

昨今の生産性向上は、インプットを減らして・・つまり分母を小さくして・・と考えることから始めるケースが多いです。このタイプの生産性向上(タイプY)こそ、中小現場を強くする生産性向上でもあります。

だからこそ、それまでやっていなくても・・・・、逆に、今までやってこなかったからこそ、現場活動を定着させ、インプットを減らしても、従来の算出を維持できるほどの強い現場をつくりたいのです。

 

現場活動をゼロから立ち上げ、定着させるまでには、大きなエネルギーを要します。しかし、生産性向上が中小現場の生き残り策であるなら、それを実践するための場、現場活動を機能させねばなりません。

 

 

 

 

 

少数精鋭で筋肉質の現場を目指す中小製造企業にとって、生産性向上は”必須科目”です。納期や生産数量ではなく、生産性に焦点を当てた生産活動ができない限り、現場の基礎体力が高まることはありません。

生産性向上は現場の筋力アップに相当するからです。

 

生産性向上は、従来の仕事のやり方や生産の流れを否定することからです。考え方を変え、仕事のやり方を変え、生産の流れを変え、そうして生産性を高めます。

現状を否定し、変えることには、痛みが伴い、負荷を感じるものですが、そうしたストレスを乗り越えない限り、成果も手にできないわけです。

肉体は、腕立て伏せ、腹筋運動、ウェイトトレーニングなど、筋肉を”追い込んで”負荷を掛け、鍛えます。生産性向上活動が、現場の基礎体力を高める所以です。

 

基礎体力が高まると、それまで30回しかできなかった腕立て伏せをが、50回でも100回でもできるようになります。さらには、筋力がアップしているので、それほどの苦痛を感じることなくやり切れるのです。

生産性向上の本質はここにあります。

高い水準の仕事を”楽に”できるようになるのです。

ゼロから立ち上げる苦労はありますが、なんとか立ち上げ、定着させ、機能させたいのが現場活動です。

 

・成長する現場は、現場活動を定着させて、楽に仕事をすすめる。

・停滞する現場は、従来の仕事のやり方のままで、スッタモンダしながら仕事をすすめる。

現場活動を定着させませんか?