「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第153話 予防
予防の意識がありますか?
「顧客へ対応策を相談したことで、かえって評価されました。」
40人規模素材加工メーカー経営幹部の言葉です。先月から、生産性向上のプロジェクトに着手しました。
儲かる工場経営では価格力と現場力を連動させて付加価値額を積み上げます。お金を生み出す現場活動は製版一体です。プロジェクトに営業部門のメンバーが参加する場合もあります。
その企業の営業部門幹部もそうしたメンバーの一人です。製造部門と営業部門の一体化に腐心しています。
ある製品を製造しているときのことでした。
その幹部が現場で仕掛品を見ていると、加工状況が提示されていた仕様と若干異なることに気づいたのです。
致命的ではなかったのですが、それを受け取った顧客は、そのことを気にして最終製品をつくることとなります。従来の商習慣上では、それくらいは・・・・という水準でした。
しかし、その幹部は放置せず、顧客へ状況を説明し、対応策を相談したのです。その結果、顧客から、次のような言葉をかけられました。
「細かいところまで気にかけてくれて、とても助かります。」
客先との相談で、修正を加えて生産を継続することになり、現場では、修正に伴う仕事が増えましたが、放置していたら、客先で何らかのトラブルが発生したかもしれません。
先手を打ったので、そうしたトラブルを防げました。それに加えて、大きな信頼も勝ち得たのです。
儲かる工場経営にはいくつかの論点があります。
そのひとつがリスク管理から危機管理への移行です。少数精鋭で筋肉質の現場を目指す中小製造現場であるならこの考え方が欠かせません。
モノづくりでの優先順位には多様な解釈がありますが、伊藤は、安全、品質、納期、コストと考えています。まず安全、次いで品質です。
これは中小管理者時代に痛感したことでもあり、今も変わりません。
収益評価の偏重において、ややもすれば軽視される「安全と品質」を抜きに、儲かる工場経営は語れないのです。「安全と品質」の重要性は、収益上苦しくても、忘れてはなりません。
付加価値額を積み上げるとともに、安全と品質も極めます。
ですから、経営資源に制約がある中小現場では、「付加価値額の積み上げ」および「安全と品質」にかける工数バランスを考えなければならないのです。
そこで、危機管理の考え方、「事を起こさない」「未然に防ぐ」を導入します。特に品質では品質原価の考え方に注目です。検査・予防コストで失敗コストを最小化します。
自分の家に火が付いたら、まずは火を消すことしか考えられないでしょう。お金がかかろうがどうなろうが、家族の安全を確保しようとするはずです。
火が付きにくい材質で家を建てよう、家族で火の扱いに気を付けよう、という「事を起こさない」対応は、火事が起きてからでは遅いのは言うまでもありません。
そして、失敗コストは検査・予防コストを上回ります。それもさることながら、家族が受ける心の傷も大きいでしょう。
さらに、中小現場で強化したいのは「検査」よりも「予防」です。
先の企業では、仕上がり状況、つまり品質情報を明らかにしていました。製造前に、顧客と言った、言わないというやりとりに陥らないよう、品質上の取り決めをしていたのです。
品質に限らず、顧客との取り決めは、メモでも、なんでもいいので文書で残しておくことをお伝えしています。
その幹部が仕掛品に違和感を感じたのは、品質上の判断基準が明らかだったからです。これは「事を起こさない」具体策のひとつと言えます。
また、幹部が率先して、品質へ公明正大な対応をすれば、現場も自然と「ウチの現場ではそのように対応するものなの」だと考えるようになり、品質意識が醸成されるのです。
それくらいはいいや、という誘惑を振り切って、問題を放置せずに、上司や客先へ相談するようになります。これも「予防」の一種です。
事が起きてからでは、全てが言い訳になります。
事が起きる前なら、提案・相談、つまり仕事になります。
危機管理では事が起きる前が勝負です。
儲かる価格に影響を及ぼすのがレート(賃率)であり、分母は総稼働時間および総工数があてはまります。そして、儲かる価格を設定しやすくするのが現場の使命です。
したがって、設備にしても、人にしても、価値を生み出す時間の長短が問われます。
少数精鋭の現場であるなら、持っている力を、価値を生み出す仕事へ集中させなければなりません。
安全や品質の取り組みは欠かせませんが、価値を生み出す仕事もおろそかにはできないのです。ですから、危機管理となります。先の現場では幹部が自らそれを実践しました。
安全や品質は最優先される項目です。これからも変わりません。ただし、儲かる価格を設定する要点は「価値を生み出す時間」を増やすことにあります。
そのことを踏まえると、中小製造現場が安全や品質に対してどのように取り組むべきかは明らかです。「予防」です
「事を起こさない」、「未然に防ぐ」ためには意識の醸成が欠かせません。まずは、経営者や幹部が姿勢を見せることです。
・成長する現場は、事が起きる前に、提案・相談をして、仕事に励む。
・停滞する現場は、事が起きてから、言い訳をして、その仕事を避ける。
未然に防ぐ意識を育てる仕組みをつくりませんか?