「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第154話 会議

工程会議が機能していますか?

 

「現場を動かす会議ができるようになってきました。」

生産性向上を進める体制が整い、成果を刈り取る段階に至った経営者の言葉です。

 

現場では工場長とスタッフがコンビを組んで現場を引っ張っています。固定費回収戦略に基づいた損益分岐点生産量を毎月の目標値に定め、現場改善に着手しました。

工場長とスタッフが現場リーダー達と打ち合わせをする頻度も増えたようです。経営者の意向を理解した工場長とスタッフが、指示を出し、さらには、アイデア出しなどを促しています。

経営者は意識改革の手応えを感じているところです。現場での会議が機能し始めたことは、現場が変わりつつある証左と言えます。

 

 

 

 

 

「いままで現場への指示は一方的でした。だから現場を動かすことも難しかったようです。」

現場を動かす役割を担っている工場長はこのよう語っています。

工場長やスタッフも、どのような情報伝達のやり方をすれば、現場が「動く気」になるのかが、分かってきました。これまでは、社長からの指示、あるいは工場長やスタッフの指示を、ただ伝えていたようです。

 

なぜ、5Sをやらなければならないのか、なぜ新たな治具を導入しなければならないのか、なぜ多能工化へ挑戦しなければならないのかなどなど。今は、なぜそれをやるのか、目的とセットで現場へ指示しています。

 

経営者にとって、これらはあたりまえのように現場にやってもらいたいことです。現場の基礎体力を養います。

しかし、現場が、こうした経営者の思考回路、つまり経営者と同じ目線の高さを持っていると期待するのは、少々、酷です。

 

経営者は会社経営、工場経営全体を見渡せる立場にいますが、現場はそうではありません。経営者の頭の中は、意外と見えないものです。

日々、多忙な現場が、なぜ生産以外の活動に取り組まなければならないのか、その理由を見せる必要がありますし、現場はそれを知りたがっています。

やる気を引き出す3要素のひとつ、「大きな目的」がそれです。

 

 

 

 

 

ある登山家の言葉ですが、登頂を目指す山が決まって、その山にアタックするときに、やることがあるそうです。

それは、次に目指す山を決めておくことです。登山家が遭難する危険度が高いのは、アタックしているときよりも、登頂後、下山するとき。

登頂後なので、達成感もあり、下山中、踏ん張らなければならない場面に直面したとき、まぁ、いいやとなり兼ねません。そこで、次の目標を決めておくといういうわけです。次の目標のために、今、頑張らなければとなります。目標が踏ん張りの源です。

目的、目標にはこうした力があります。

 

 

 

 

 

先の現場では、社長が設定した5年後、10年後のロードマップを掲げ、それに連動させた生産目標値を、毎月、設定することにしました。

あらゆる指示は、これらのためであると伝えたのです。指示の背景を理解した現場は動いてくれるようになりました。

 

ロードマップ自体に興味を示す現場リーダーも出てきたようです。自職場の将来に無関心な人はいません。

現場の納得感が高まり、ベクトルが揃うので、一体感が醸成されます。大きな目的を共有して開催される会議は機能的です。

 

 

 

 

 

弊社は現場主体の会議をどんどんやるべきだと考えています。

一般に、特に大手では、会議は削減の対象になっていますが、こと中小製造現場では、逆に積極的にやるべきです。

 

多くの中小現場では、現場リーダー同士による、腹を割った議論の場が少ないと感じています。経営者の想いをいかに実現させるか、生産性を高めるのどうするべきか、職場を少しでも良くしようという議論の機会です。

こうした議論の場は、ある意味で全人格的であり、相互理解を深耕しますから、一体化にもつながります。

 

ただし、現場リーダー同士が共有する「大きな目的」があってこそ、現場主体の会議に意味付けがされるので、「大きな目的」を共有していなければ、そもそも、そうした場を持とうという気にもならないでしょう。

そうでなくても、現場は多忙です。

 

いきおい、会議と言えば、生産計画の一方的な伝達、品質トラブルや納期遅延への対策のためにやるものとなってしまいます。

下手なことを発言して、自分に火の粉が降りかかってはタマランという雰囲気が生まれ、コミュニケーションを深めてベクトルを揃えるどころではありません。

 

現場リーダー同士のコミュニケ-ションを深め、ベクトルを揃えるのに寄与する会議を現場主体でできるようにしたかったら、やる気を引き出す3要素のひとつである「大きな目的」を伝えることです。

具体的には5年後、10年後のロードマップを示して目指す将来像を設定すること、固定費回収戦略から導かれる付加価値額人時生産性に基づいた数値目標を提示すること。これらが、現場の共通用語を生み出します。

 

リーダーAさん「今日時点のアレ(生産数)はどんな具合かな?」

リーダーBさん「社長はいつもより目標値を高くしたから、アレはもう一歩のところ。」

リーダーAさん「今月も残り5日。なんとかアレを社長目標値にまで届かせたいね。」

 

共通用語を持つことが、ベクトルを揃えるのに効果的です。したがって、目指す将来像や数値目標を繰り返し、繰り返し、繰り返し、語る場が欲しいのです。

コミュニケーションを深めれば共通用語が生まれます。現場活動の推進力をパワーアップさせるために、コミュニケーションを深められる場を持ちたいのです。

 

経営者や幹部、工場長や現場リーダーが一堂に会する場、具体的には工程会議や定例会議が相当します。こうした全体会議を機能させたいのです。

先の現場では「大きな目的」の共有が、会議を機能させる、つまり、会議で現場を動かせるきっかけとなりました。

 

 

 

 

 

さて、工程会議や定例会議などの全体会議は、開催すればうまくゆくという類のものではありません。機能させるには前提条件が必要です。

それは、工程間連携や工程間フィードバックがしっかりなされているということです。

 

工程間連携や工程フィードバックができていない現場のリーダー達を対象に、工程会議や定例会議を開催しても、活発な意見交換は期待できません。

工程間連携や工程間フィードバックとは、言い換えると、人と人との関わり合いです。互いに理解し合い、同じ釜の飯を食っている意識がなければ、会議をしても、胸襟を開いた言葉のやり取りはありません。

 

先にも述べましたが、下手なことを発言して、自分に火の粉が降りかかってはタマランという雰囲気が生まれます。相互理解に欠ける組織では、自己防衛が優先されるのです。

意見交換どころではなく、経営者や幹部が一方的に情報を伝えることにならざるを得ず、それでありながら、会議の後、あれこれ不満・不平を述べる現場リーダーがいたりします。

組織を良くしようという観点からの発言ではなく、自分が言いたいことを言うだけの発言です。相互理解が浅い現場で、経営者に共感した目線の高い現場リーダーが生まれることはありません。

 

「鏡映自己」という概念があります。他者という鏡を通して自分を知る、人からどのように見られているかによって自己のイメージがつくられます。

自己を客観化できるわけですが、これは人と人との関わり合いがなければできません。

 

工程間連携や工程間フィードバックを通じて、現場リーダーは相手だけでなく、自分の役割を知ることができるのです。現場リーダー達の相互理解なくして、現場の一体化は望むべくもありません。

人と人との関わり合いから、一緒に現場を良くしよう、経営者の想いを実現させようという、共通用語も生まれます。こうした共感を抜きに、顔を突き合せた会議をしても、本音の意見交換はあり得ないのです。

 

 

 

 

 

先の現場では、こうした工程間連携がしっかりなされていました。工場長とスタッフは頻繁に現場リーダーと会話を交わし、時にはバカ話もしながら、一体化を醸成するのに心を割いていたのです。

志の高いメンバーが地道に現場を耕していたので、現場リーダーを交えた全体会議が機能し始めました。そして、その志を高く持ったメンバーを育成したのは経営者です。

「企業は人なり」、改めて実感をしました。

 

全体会議を機能させたかったら、現場リーダ―同士、人と人との関わり合いを促します。工程間連携や工程間フィードバックがそれです。

そして、大きな目的を共有して全体会議を機能させます。そうして、付加価値額をどんどん積み上げ、成長させたい固定費を力強く回収するのです。

 

現場リーダー達が連携するので、経営者が不在でも、自律的に回る工場に変わり、経営者は経営者の仕事ができます。

 

・成長する現場は、全員で職場を良くしようと、会議の場で積極的に意見を語る。

・停滞する現場は、火の粉が降りかかってはタマランと、会議の後に不満を語る。

現場を動かす会議のしくみをつくりませんか?