「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第174話 仕組みをつくるときの注意点

「先生、業務を引き継ぐにあたって、ベテランと若手に新たなやり方を考えさせようと思います。」

現場を引っ張ってきたベテランが退職することになり、その業務を若手に引き継がせようとしている30名規模、中小製造企業経営者の言葉です。

 

ベテランが引っ張ってきた現場の多くがそうであるように、その現場でも仕事の進め方がベテランに依存した属人的な状態になっています。

その経営者は、業務を若手へ引き継ぐ機会を生かし、仕事のやり方を変えたいと考えているのです。

 

まずは、ベテラン従業員に「業務リスト」を作成してもらうようお願いをしました。あくまでリストです。

引き継ぐべき業務の”手順”はベテランと若手との議論の中で改善してもらいます。引き継ぎたいのは、「どんな業務をやっていたのか」「必要な業務は何か」、つまり業務項目です。

 

経営者が願うのは、単なる、それまでにやっていた仕事のやり方や手順、それ自体を引き続ぐことではありません。やり方や手順をそのまま引き継いでも進歩がないのです。

当然ですが、より良くして引き継ぎます。その経営者は、仕組化と改善は表裏一体であることを理解しています。

 

 

 

 

 

生産性UP体制構築コンサルティングの狙いは、現場活動を本業(日常業務)へ組み込むことです。付加価値額人時生産性を高める現場活動を”新たに”スタートさせるとき、経営者が必ず直面する問題あります。

現場キーパーソンの業務負荷が増加することです。

 

生産性向上活動に着手すれば、従来対比で、”新たな”業務が加わります。

・日程計画では作業者に時間軸を意識させるよう、業務指示は時刻で提示する。

・作業者の業務進捗をフォローする。

・フィードバックミーティングで評価する。

・作業者にストレス要因を除去する改善を促す。

・生産性向上の進捗を見える化する。

等々、一連のPDCAを継続しなけれななりません。現場キーパーソンにとっては、かなり難易度の高い挑戦です。

 

現場では、納期遵守を柱とした従来業務がやられています。そうしたなかで、いろいろなトラブルが発生し、力づくで納期に間に合わることあり、あるいは品質クレームへ対応することあり、すったもんだ、すべった転んだです。

生産性UP体制構築では、すったもんだを減らし、付加価値額を効率よく積み上げられる体制をつくることがゴールとなります。効率よく仕事が回るようになるので、最終的には、現状の業務負荷が削減されるのです。

 

ただし、取り組みに着手したばかりで、各種現場活動が日常業務に組み込まれる前は、”新たな”業務が加わった状況となります。管理者の負荷が高まるのです。

取り組みに着手したばかりでは、現場キーパーソンの踏ん張りが必要となります。ですから、弊社の重要な役割のひとつが、現場で体を張っている現場キーパーソンの後押しです。

 

こうしたサポートなしに、あとはよろしく!では続きません。新たな取り組みを現場へ指示した経営者が、「あとは現場へ任せた」と言ったとき、そのほとんどは、現場丸投げとなっており、現場活動が定着しないのは当然のことなのです。

 

 

 

 

 

新たな業務を現場へ指示するとき、経営者が忘れてはならないのが「品揃え理論」です。

コンビニ店舗の棚を思い浮かべて下さい。コンビの経営者にとって新商品を棚にならべて売ることは商売繁盛の条件です。

 

魅力ある品揃えを維持できないとお客さんは店舗へ足を運んでくれません。そこで、売れ筋を探りながら、新商品を商品棚へ並べるわけです。

コンビニでの新商品入れ替えは2週間とも言われています。なぜ、入れ替えをしなければならないのか?

 

商品棚のスペースには限りがあるからなのは言うまでもありません。売れない既存製品が新商品スペースを圧迫しないよう、新商品を並べるため、既存製品を除去します。あれも置きたい、これも置きたいでは、商品が棚からオーバーフローです。

 

持ち時間が8時間/日で目一杯やっていた従来業務に、”新たな”業務が加わった現場キーパーソンも同じです。新たな業務を加えるなら、既存業務を部分的に除去することもセットで考えなければなりません。

商売繁盛のため、コンビニの品揃えをクルクル回転させていくのと同じように、成長する現場の業務もクルクル回転させて、新たな業務を取り込み、その質を高め、密度を濃くしていくのです。

従来業務を変えようとしない現場では、新たな業務を取り込もうとしても、オーバーフローしていまいます。結局、いつまでたっても従来のやり方が優先され、新たな仕事のやり方が定着しません。

 

 

 

 

 

従来業務を仕組化する際に重要なのは、従来業務のやり方を振り返り、ムダを省き、望ましい姿をチームで議論することです。

改善された業務をルール化、手順化します。従来業務のやり方、そのままをルール化、手順化しません。

生産管理システムや各種システムを現場へ導入しても効率アップにつながらないケースの多くで、従来業務のやり方を振り返り、ムダを省き、望ましい姿をチームで議論するプロセスが抜けています。

 

伊藤がかって所属していた中小製造企業営業部門の受発注システムで、そうした問題がありました。

社長が業務効率UPを期待してシステムを導入したものの、活用されるまでに時間を要したのは、現行の仕事の流れを基準に、そのままの手順をシステム化したことも一因でした。

システム導入時に、既存業務の流れをそのままシステム化するのではなく、望ましい姿を明らかにしてからシステム化する必要がありました。

 

仕組み化は業務見直しの絶好のチャンスと考えます。間違っても、従来のやり方をそのままシステム化、仕組み化をしないことです。

 

 

 

 

 

先の企業では引継ぎを機会に、それまでベテランがやっていた業務を見直し、若手の感性を生かすことにしました。

従来業務の見直しで留意したいのは、過去の無駄除去よりも、イイところ活用へ焦点をあてることです。従来業務の在り方を否定することは避けます。

ベテランの力を引き出すためにも、過去のやり方を否定するのではなく、イイところを認め、若手の感性と融合させることです。

 

従来業務を見直し、望ましい姿を設定してから、そのやり方をルール化、手順化します。問題と認識されていることを放置したまま、それらを含めてルール化しても、そうした仕組みは長続きしません。

仕組み化と改善が表裏一体でなければならないゆえんです。

 

 

 

 

 

ベテランからの業務引き続ぎで、引きつぐべきは「業務項目」です。それまでにやっていた仕事のやり方や手順、それ自体を引き続ぐわけではありません。

「品揃え理論」にしたがって、従来業務と新規業務の入れ替えを促して下さい。やり方や手順は、新旧世代での議論に任せ、望ましい姿を設定するのです。

若手に頼られればベテランも知恵を出してくれることでしょう。現役のエンジニア時代、多くのベテランに助けられた経験から断言できることです。

 

・成長する現場は、品揃え理論にしたがって、新たな業務を取り込み、業務の質を高める。

・停滞する現場は、業務がオーバーフローするので、いつまでも新たな業務が定着しない。

既存業務を仕組化して、新たな業務を取り入れる工数を生み出しませんか?