「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第175話 基礎力と挑戦

「付加価値額を積み上げるにも基礎力と挑戦ですね。」

弊社プログラムのゴールを迎えた経営者の言葉です。今後の進め方を話題にした際に、この言葉を話されました。

 

その経営者のご子息は熱心にスポーツに取り組んでいます。ある時、所属しているチームへ、かって日本代表も務めた有名選手が指導に来た時のことです。

運良く、直接にアドバイスを受ける機会がありました。

 

「基礎力は十分なので、あとはどんどん挑戦しよう。」

こうした言葉を掛けてもらい、家族へそのことを披露しました。日本代表を務めたことがある有名選手からのアドバイスです。誇らしく嬉しかったであろうと、家族に語った時の雰囲気が想像できます。

 

その言葉を耳にした、先の経営者は、別のことも感じたようです。

事業を成長させる方向性と同じだ・・・。

儲かる工場経営の要諦「詰めて、空けて、取り込む」を熱心に追求し始めた経営者です。付加価値額を積み上げる工場経営の勘所を腹落ちされています。

 

 

 

 

 

以前のコラムで、これからコスト削減だけでは儲からないので、積み上げる観点で現場活動を設計しないと儲からないことをお伝えしました。

「削減の時代から積み上げの時代へ」 https://koujoukeiei.jp/column/no173

 

詳細は個別相談やご指導でお伝えしていますが、弊社プログラムでご指導している儲かる価格の設定と儲かる現場活動は、コスト削減だけでは実現できない、付加価値額を積み上げる観点で儲ける仕込みをつくるプロジェクトに他なりません。

 

90年代で、受注もある程度約束されていた時代なら、従来型の5SやIEでも十分に儲かりました。しかし、2000年以降、特に(感覚的ですが)2008年のリーマンショック以来、市場環境が大きく変化し、コスト削減だけの現場活動では閉塞感を感じます。

貴社の現場はどうですか?

 

リードタイムを短縮するだけでは不十分であり、新たに生み出された工数で何をすべきかが問われる時代です。

付加価値額生産性を4,000円台、5,000円台へ伸ばし、豊かな成長を実現させたければ、詰めて、空けるだけでは不十分、「新たな仕事」を取り込まない限り、生産性は高まりません。

 

リードタイム短縮、生産性向上を実現させる現場活動を推進する力が基礎力です。詰めて、空ける能力が基礎力です。既存の体制で生産の最大限へ引き上げます。

これまでの現場活動では、こうした基礎力が重視されました。

 

伊藤も大手の現場でエンジニアとして勤務していたときもそうでしたら、このやり方自体が正しい時期はあったのです。

現状の受注をこなす一方で、上乗せ分をいかにやれるようにするかが収益拡大のポイントだったので、生産タクト、生産リードタイムとの戦いでした。

 

課題は、数をこなすには何をすべきか?ということです。基礎力の重要性は今も変わりませんし、これからも鍛え続けるべきであるのは論を俟ちません。

しかし、今や、その仕事のやり方だけで、儲け続けられる中小製造企業は少ないのではないでしょうか?

 

議論の対象は、「いかに造るか?」よりも、価格競争に巻き込まれないために「何を造るか?」に移りつつあるはずです。

工場の生産能力に余力をつくり、余剰の人員や設備を「新たな仕事」を取り込むことへつなげることが課題となります。

 

これは「挑戦」抜きに達成できないことです。最初から用意された答えはなく、試行錯誤が求められます。「挑戦」である以上、経営者が先陣を切らなければなりません。

 

 

 

 

 

「新たな仕事」を取り込むのが、自分の仕事である・・・・、先の経営者はこのことを強調されています。

営業部門もある企業です。営業マンにも、新しい仕事を取りに行くことを期待をしていたようです。ただ、あるとき気が付いたとのこと。

それは経営者にしかできない仕事であるということをです。

 

1)既存顧客へ既存製品の販売数量UP

2)既存顧客へ新規製品の販売

3)新規顧客へ既存製品の販売

4)新規顧客へ新規製品の販売

この4つのうち、1)と3)は過去実績が通用するので経営者抜きでも判断は可能です。

 

ただ、これらは、すでに市場へ出回っている製品が対象となっています。したがって、市場価格が形成されている場での交渉です。つまり、価格競争は避けられません。

ここから大きな付加価値額の積み上げを期待するのは難しいです。

 

ですから、2)と4)が、付加価値額を積み上げるキモとなるのは論を俟たないでしょう。そして、新たな価値を届けるには、新規製品が欠かせず、経営者の判断抜きには実行し得ません。

 

先の企業は自社製品を事業の柱としています。市場動向や顧客ニース、ビジネスチャンスを探りながら新製品を開発することは経営者最大の仕事です。

そのことに腹落ちした経営者は営業と製造を力強く引っ張っていこうとされています。

 

自社製品を持たない下請け型の事業であっても、QCDの観点で新たな価値を届けると考えれば同様です。圧倒的な納期、圧倒的な品質はお金になります。

新たな仕事を見つけ、それを現場へ取り込んで、付加価値額を積み上げるのです。新たな仕事を見つけて、それを現場へ取り込むのは経営者の仕事であり、挑戦が求められます。

 

 

 

 

 

儲かる工場経営の要諦のひとつ「詰めて、空けて、取り込む」は、基礎力と挑戦を問うてます。詰めて、空けるだけで儲かる時代が過ぎ去った今、何を取り込むのかは、企業の命脈を保つのに大切な観点です。

現状維持は相対的な後退であり衰退の道をたどります。現場が、もしも、「めんどうくさいことはやりたくない。今のやり方のままでいい。」という思考回路をもっているとしたら、即刻、大変革が必要です。

 

新たな仕事を見つけて、それを現場へ取り込むのは経営者の仕事であり、挑戦が求められわけですが、当然のこと、現場での挑戦を抜きに、新たな仕事は取り込めません。

新たな仕事には、紆余曲折や試行錯誤、トライアンドエラーがつきものであり、経営者の想いを受けて、それを実現しようという心意気を示す現場が大きな役割を果たすからです。

 

繰り返し申し上げていますが、工場経営の本質は経営者の想いを他人を通じて実現することにある以上、挑戦することを厭わない、普通に挑戦できる現場だけが生き残れます。

挑戦する場を生み出す環境整備も必要です。基礎力だけでは儲かりにくくなりました。あらゆることに挑戦して、新たな仕事を取り込み、付加価値額を積みあげて、利益も固定費も成長させる時代です。

 

スポーツを同じように、基礎力に留まらず、スキルを高めるには、困難を乗り越える「挑戦」が欠かせません。これは経営者ご自身のリーダーシップ、そのものです。

挑戦する場を生み出す環境整備に欠かせないのは経営者のリーダーシップ、それだけです。

 

経営者のリーダーシップが製販一体で挑戦する場を生み出します。現場は経営者の姿勢を映し出す鏡ですから改めて言うまでもないことです。

先の経営者の仕事ぶりを拝見して感じることでもあります。儲かる工場経営の勘所を体得した経営者は力強く進まれることでしょう。これからの展開がとても楽しみです。

 

・成長する現場は、詰めて空けることに汗をかき、いつでも取り込めるようにしている。

・停滞する現場は、めんどうなことには挑戦しないので、いつまでたっても取り込めない。

詰めて、空けることは現場へ任せ、経営者が積極的に新たな仕事を取り込むことに挑戦しませんか?