「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第178話 従業員の不安を取り除くには?

「目標がはっきりしない状況だったので不安でした。」

50人規模の中小製造企業幹部の言葉です。その幹部は、中途でその企業へに入り、現在、工場で製造部門を引張っています。

 

その企業の経営者から、現場活動の体制づくりについてご相談をいただきました。経営者はこれまでやっていた、人に依存する仕事のやりかたでは若い人は育たないと考えています。

次世代へ向けて親族以外の幹部も育成しなければとも考えている経営者です。中途採用の人材に現場を引っ張る役割を担わせようともしています。

 

そうした取り組みの中、これまで明確にしてこなかった全社目標、現場目標を設定することにも着手しました。全社や現場で目指すことが数値で明らかになります。

全社目標、現場目標を議論しているとき、中途でその企業の仲間となった先の幹部が、ふと、入社当時の気持ちを語ってくれました。

冒頭はその言葉です。

 

 

 

 

 

 

その幹部が所属していた前職の企業では、長期的な計画が提示され、全社目標や現場目標が明らかでした。会社が何を目指し、どのような方向へ進もうとしているのか、ある程度、見えていたわけです。

そうした環境で長年、仕事をしてきたわけですから、会社の計画や目標が明らかでない職場で働くことになって、急に先が見えない不安を感じました。

 

目隠しをしてマラソンをやっているような、暗闇で打ちっぱなしのゴルフ練習をやっているような、そんな感じです。

計画がなければ、組織やチームがどの方向へ進もうとしているのかわかりません。

目標がなければ、実績と比べる判断基準を持てないので、フィードバックができず、スキルを伸ばせません。

 

長期的な計画(ロードマップ)や全社目標、現場目標が浸透している現場では、納期遵守以外の重要な論点が理解されています。

現場も納期を守っているだけで儲かる時代でないことを分かっているのです。リードタイム短縮、付加価値額人時生産性向上が現場の使命であることもしっかり伝わっています。

 

一方、納期遵守だけが現場の仕事だと思い込んでいる現場には、そもそも、計画や目標は不要です。その必要性を感じる機会がありません。

まれに、力づくで短納期へ対応することもありますが、概ね、届いた製作指示書に従い、その納期さえ守っていればいいので、従来の仕事のやり方を変えなくても困りません。

 

計画や目標がなくてもなんとも感じない現場と計画や目標がないと不安に感じる現場とでは、5年、10年と時間が経つほどに、力の差が出てくるのは明らかです。仕事に向かう姿勢が違います。

前者はやっつけ仕事をこなす短期思考、後者は知恵も使い組織で仕事をこなす長期思考。持続的な成長を願う経営者にとってどちらが望まし現場であるかは言うまでもありません。

 

 

 

 

 

 

豊かな成長を実現させるには時間軸を明らかにして、見通しを示す必要があります。成長には「時間」の投資も必要だからです。

長期的な思考を持つ人材にとって、計画や目標は経営者の想いを理解する道具であり、仕事の道標となります。したがって、長期思考の人材は計画や目標がない現場で不安を感じます。

 

新卒採用の機会に恵まれない中小製造企業にとって、中途採用は重要な人材採用手段です。前職でいろいろなことを経験してきた有能な人材を採用できる可能性があります。

ただ、ここで注意しなければならないのは、その有能な人材が活躍できる環境が、皆さんの現場に整備されているかどうかということです。計画や目標がなければ、その人材は自らの長期思考を生かせません。

 

相対的剥奪という社会学の言葉があります。

期待している状態と現実のギャップが大きいと、期待を裏切られ気分になり不満を感じ易くなるあるというものです。

 

現在、多くの人は、日常的に、しかも四六時中、他人と自分を無意識のうちに比較するようになったと言われています。SNSの普及がそれに拍車をかけているようです。したがって、期待している状態と現実のギャップが大きいと「おいてけぼり感」を感じます。

冒頭の経営幹部の言葉を思い出してください。

 

 

 

 

 

 

有能な人材が持っている長期思考を生かそうと考えるなら、あるいは、裏切られた感じを抱かせず、離職を未然に防ぎ、じっくり腰を据えて仕事をしてもらいたいと考えるなら・・。

経営者は何を重視すべきかもうお分かりでしょう。

 

トヨタ自動車も中途採用の割合を増やそうとしています。2018年度の1割から2019年度には3割に、中長期的には5割を目指すようです。大手企業の人材採用も新卒中心ではなくなります。

大手では、その規模故、当然のことですが計画や目標を明らかにしながら組織やチームを動かして仕事を進めます。したがって、中途で採用された人材も不安を感じることなく、自分に期待されていることを理解しながら仕事ができるのです。

 

計画や目標を現場へ提示すことは長期思考を持つ従業員(そうした思考の持ち主こそ豊かな成長を実現させる人材)の不安を取り除くことにつながります。見通しを示せば定着率が高まるという経営学的見解もあるのです。

さらに、魅力的な計画や目標を掲げると、有能で頼りになる人材を引き寄せる可能性が高まるとも言えるのではないでしょうか?

計画や目標は、有能な人材の不安を取り除くので、そうした人材の定着率を高めるのに有効であるとともに、外部の人材を引き寄せる機会もつくるのです。

 

貴社ではどのような観点で計画や目標を立てますか?弊社では伊藤の経験を踏まえて、生産性UP体制を構築したいと考える中小製造企業ならではのポイントをお伝えしています。

やる気に満ちた従業員に力一杯働いてもらえる現場づくりは計画と目標からです。

次は貴社の番です!

 

・成長する現場は、計画と目標が明らかなので長期思考を働かせ生産性を向上させる。

・停滞する現場は、判断基準が納期のみなので短期思考で納期以外に興味を示さない。