「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第17話 開発推進体制を構築するべき理由がある
開発業務のPDCAを短時間で回すために組織構造上で工夫をする。開発業務を専任で担当する開発責任者を経営者直轄で必ず置く、という話です。
技術で戦うモノづくりの世界は先手必勝です。
新たな付加価値を生み出す製品やサービスをいちはやく世に問う。
そのために、競合に先駆けて、新たな付加価値を生み出す技術や製品を開発するのです。
QCDが着眼点となります。
設計や価格、納期でキラリと光る、尖がった強みを目指します。
モノづくりに携わる経営者ならば技術イノベーションの重要性を理解しています。
イノベーションなき現場ではモノづくり事業の命脈を保つのが難しいからです。
いかにしてイノベーション級の技術開発や製品開発を成功させるか。これが多くの中小製造企業の課題です。
開発対象となる技術や製品を適切に選定するのは、ある意味、開発の目利きみたいなもので極めて重要な仕事です。
何を基準に目利きをするのかがポイントです。
既存の市場に深く切り込んでいく戦略を立てるのか、あるいは全くの新しい市場での拡販を目指すのか等、いろいろな判断軸が存在します。
5年先、10年先を見通した取り組みです。
5年単位、10年単位のロードマップによって計画的、体系的な取り組みとなるようにしなければなりません。
そして、ここで欠かせないのは開発業務の推進体制をしっかり敷くことです。
技術開発や製品開発の重要性を理解している一方で、開発推進体制を明確にしていない経営者も少なくないと感じています。
開発業務に専任の担当者をつけて地道に進める体制を敷いていますか?
開発業務の推進担当者に日常の生産業務を兼務させていませんか?
開発業務の目的や意義を現場にしていますか?
開発業務の推進担当者を現場全員で支援する体制になっていますか?
経営資源に制約条件が多々ある中小企業です。日常の生産業務で手が一杯、開発業務を専任させられないし、新たな人員を採用して専任化する余裕もない、との声も多いでしょう。
普通に考えたら、その通りです。
ただ、豊かな成長を実現させるには、どうしても技術イノベーションが必要なのです。
現状を打破するには、イノベーションを実現させたい。
カイゼンが漸進的であるならば、イノベーションは革新的な現状打破のための手段。現場もステージアップできます。
実現させるため、開発業務の体制づくりには、経営者が先頭にたって力を尽くしていただきたいと考えています。経営者直轄の開発体制です。
イノベーション級の技術開発や製品開発が成功するか否かは、現場での開発業務の推進体制次第です。明確な体制があれば成功する確率は確実に高まります。
天才的な従業員がひとり黙々と仕事を進めて、画期的な発明を成し遂げることはあります。
ただし、そのようなことは、経営資源に余裕のある大手企業でもないかぎり難しいでしょう。
ですから中小モノづくり現場でのイノベーションはチームワークで実現させます。一人の開発リーダーを現場全員で支援する体制です。
しかしながら、実際には、経営者自ら一人で開発業務を進めているので、現場は全体像が見えていない状況にある、あるいは、担当者一人に丸投げになっているので、その担当者も現場の協力が得られなく難儀している状況にある。
そんな状況になってはいないでしょうか?
「休みの日に皆で集まって議論しながら新技術のことをワイワイガヤガヤやったのは面白かったですね。」
工場に勤務して、ある開発プロジェクトの責任者を担っていた頃の話です。
その工場では、開発業務を専任化する体制が敷かれていました。
その職場に所属し、責任者として開発プロジェクトを推進していました。
開発コンセプトから量産を立ち上げ、事業へ乗せるまでのストーリーを一人で考える機会を得ました。
工場の現状を整理しながら、外部の情報も集め、開発戦略を描いていきました。
そして、開発コンセプトを考える段階で何度か開催したのが、キーパーソンに集まってもらってワイワイガヤガヤすることでした。
5~10名程度のメンバーです。
平日ではなく、休日に集まったのが肝でした。
通常業務を気にすることなく、かかってくる電話に気を取られることなく、工場の将来を話し合うのです。
具体的なテーマを固定することなく、ただ将来どういう方向へ向かうべきか、というざっくりした議題のみで話をします。
話は脱線しまくりますが、大いに盛り上がりました。
朝から始めて、夕方になっても、まだまだあるね、という感じでした。
そのまま、一杯行こう!という意見を言う方もいましたが、さすがに休日に会社に出てきて家族サービスもねぇということで、夕方お開きのフリーな会議でした。
そのプロジェクトは、最終的に売上高数十億円規模の事業として定着し、一定の成果を収められました。
数年たった後に、一緒に仕事をした設備担当の方からかけてもらった言葉が先のコメントです。
その方も、当時、将来を見据えてどうしようかと、ワイワイやった時のことを鮮明に覚えていてくれたようです。
今振り返ると、プロジェクト初期に開催した、あのワイワイガヤガヤ会議は戦略を立案するうえでも、またそれ以上に、現場で仕事をする際の協力をもらうためにもかなり有効でした。
ワイワイやることで一体感が生まれます。休日でのフリートーキングという非日常的な会議であったことも効果的でした。
この開発業務の進め方は会社の規模に関係なく対応できます。
ポイントは、以下の3点です。
・開発業務を専任で担当する開発責任者を置く。
・開発業務をテーマにしたワイワイガヤガヤ会議を開発リーダー、キーパーソン達で何度か開催する。
・開発業務の戦略はロードマップとして現場へ提示し、現場には開発責任者を全面的に支援するよう経営者が宣言する。
どれも極めて重要なことです。
開発業務は不確実性が高く、そもそも成功するどうかは誰にもわかりません。
あえてリスクをとって挑戦することもあるでしょう。
ですから、やれるのは、成功する確度を高めることだけです。
したがって、ここで重要なのはPDCAのサイクルを”速く”回せる体制を作ることです。
さらに言うならば、事業として成立しないとの判断を出すならば早く出したいということです。そのために、スピードを上げる。
そこで先の3点がポイントになります。
開発業務の推進体制を構築します。
全体最適化を図るためには一人に情報を集中させるこが欠かせません。
さらに、失敗するかもしれない試みには、現場全体の協力は絶対に欠かせません。
現場に納得してもらい、一体感や協力する気持ちを引き出すための工夫が必要です。
経営者は的確にフォローと評価をします。
決して、あれやれ、これやれとは口出しはしません。
自発性を重んじることです。
そして、判断基準を設け、必要ならば経営者が開発中止の重い判断を下します。
以上は仕事の進め方の話であって、会社の規模に関係なく敷くことができる組織構造上の話です。
自社工場の開発業務ではPDCAが短時間で回っていますか?
開発業務のPDCAを速く回せば、速く回すほど、競合に先駆けて的確な判断ができます。
開発業務の組織構造上の工夫を考えます。
まとめ:開発業務のPDCAを短時間で回すために組織構造上で工夫をする。開発業務を専任で担当する開発責任者を必ず置く。