「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第180話 標準化を進めるのに必要なプロセスとは?

「先生、これで仕事の手順を統一化できそうです。」

素材加工メーカー経営幹部の言葉です。

 

作業標準を設定しているものの、形骸化していました。その結果、作業者によって仕事のやり方が異なり、所要時間がばらついています。現場からも、仕事量に個人差があるとの指摘が上がってきました。

作業標準で作業を統一するよう、経営幹部が個別に声をかけるのですが、改善されません。一時は手順通りのやり方をするものの、しばらくすると従来のように自分がやり易い方法に戻っています。

現場のスキルアップにつながりません。元の木阿弥です。

 

その企業の経営者は、生産性向上を目的とした現場活動を定着させたいと考えていました。現場での仕事のやり方が作業者によってばらついていることを知っている経営者です。生産性向上活動がそうした状況を改善するのに役に立つのではとも考えています。

そこで、ご相談をいただき、PJをスタートさせたのです。

 

儲けの見える化から着手したわけですが、経営幹部は、活動目標を設定するとき、作業標準化のヒントを見つけたようです。

 

 

 

 

 

車にしても、スマホやパソコンにしても、さらにはゴルフや野球、テニスなどのスポーツにしても、趣味をしっかり楽しみたかったらやることがあります。

道具を使いこなすことです。

 

闇雲な自己流では楽しみも半分、プロに教わって、本物の知識やノウハウを身に着けてこそ、楽しみのステージが上がります。

スキルを高めて、道具を使いこなせなければ楽しめません。

 

IEや5S、工程管理や原価管理、品質管理などの各種管理も同じです。

趣味の目的は楽しむこと、事業の目的は儲けること。

 

私達は、儲けを積み上げるために、IEや5S、各種管理の手法を使っているのです。どうせなら、上手に使いたいものです。作業者ひとりひとりのスキルアップが求められます。

そして、スキルアップに欠かせないのが標準化であることは論を俟たないでしょう。

属人的な要因を排除し、目標達成の手段をチームで共有するためです。目標の提示に加えて、手段の共有がなければ、ワンチームで仕事ができません。生産性向上の具体策として、スキルアップと標準化はセットで実施されます。

 

 

 

 

 

スキルを高めるよう、現場を促すとき、どうしますか?

先の経営幹部のように、スキルアップを図ろう、作業を統一しよう、と現場へ直接に働きかけますか?

 

当然のことですが、他人のモチベーションはコントロールできません。やらされ感がある限り、現場の自主性は期待できないのです。

したがって、「スキルを高めなさい、標準化しなさい」と現場へ直接指示しても、人を動かすことには至りません。先の経営幹部も問題に直面しました。

 

これはやる気を引き出す3要素を思い浮かべれば理解ができることです。現場へ、正論を直接に伝えても心に響かず、結局、スキルアップの取り組みは継続されません。

 

 

 

 

 

ではどうするのか?

「スキルを高めたい、作業の標準化を進めたい」という考えが浮かぶ状況、環境をつくることです。儲けの見える化で、個別の付加価値額人時生産性を明らかにします。

 

ここで見えてくるのは作業者間のばらつきです。製品間のばらつき、ロット間のばらつきが認識できる場合もあります。このあたりはケースバイケースです。

 

生産性向上「初手」のヒントがここにあります。生産性向上の取り組みを大上段に構える必要はありません。いきなり、「設備レイアウトを変更して・・・」とか、「設備投資して・・・」とか考えるのではなく、その前にやることがあるということです。

まずは、ばらつきの幅を最小化することです。スキルの底上げとも言い換えられます。

職場全員で、スキルが高い人の水準に挑戦するのです。スキルが高い人の仕事のやり方をもとに作業標準をつくります。

 

先の現場でも、スキルが高い人の仕事の手順を整理して、改めて作業標準をつくり、ばらつきの底上げに着手しました。

ばらつきを見せて、仕事のやり方を変えたいと思わせる状況、環境をつくることです。

 

 

 

 

 

「スキルアップをやらなければ」と現場に思わせない限り、スキルアップの取り組みは進みません。個別の生産性にばらつきがあることを客観的に見せることからです。

比較されて、差が明らかになれば、自発的なスキルアップが促されます。誰でも評価されれば気になるからです。

 

上司や仲間からの評価があれば頑張りたくなります。「フォローと評価」の重要性を思い出して下さい。儲かる現場にあるのはワンチームの精神、信頼関係です。

ワンチームの雰囲気がある現場なら、儲けの見える化で現場活動は一気に加速します。仕事の手順を標準化、統一化しようという機運が高まるのです。

 

ばらつきを見せて、スキルアップの必然性に気が付かせて、標準化を進めます。

「見せて」→「気が付かせて」→「標準化」

この3ステップです。標準化が儲けにつながります。

この3ステップを理解できれば、標準化とは、現状をそのままルール化することではないと気づくのではないでしょうか?

 

先の経営幹部は仕事のやり方を変えようと現場へ働きかけましたが、スキルアップや標準化自体に焦点を当てていました。

「見せて」「気が付かせる」プロセス抜きの標準化は定着しません。

 

先の現場では年明けから現場活動を本格化させます。PJで軌道修正をして、現場のベクトルがそろいました。

加えて、先の現場では、スキルが高い人のモチベーションも高まったようです。スキルが高い作業者も、自ら、さらなるスキルアップに挑戦し始めました。

 

スキルの底上げだけでなく、さらなる高みを目指したスキルアップの動きも出てきたようです。上に引っ張られるのに合わせて、下も引き上げられるイメージが浮かんできます。

ワンチームでのスキルアップは正のスパイラルを描くようです。ばらつきを最小化することと水準を高めことの2つの同時進行になります。

次は貴社の番です!

 

・成長する現場は、ばらつきを見せてスキルアップの必然性に気が付かせ標準化を進める。

・停滞する現場は、ばらつきを放置して自分がやり易いやり方のままで変わらない。