「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第181話 新たなプロジェクトを全社活動へつなげるには?

「先生、生産性向上活動の成果を波及させて全社活動へつなげたいと思います。」

80人規模、電子部品製造メーカー経営幹部の言葉です。

 

その企業には製品別に複数の製造現場があります。各職場に現場活動を実践して欲しいと経営者は考えているのですが、これまで継続的な活動はできていませんでした。

そこで、3年前より、年度初めに、全従業員を集めて、その年度の経営計画を説明しています。提案制度もあり、現場活動を活性化しようともしています。

 

それでも現場活動が活性化せず、ご相談をいただき、PJ(プロジェクト)に着手しました。新たなPJをどのようにスタートさせるか?その企業が考えているPJの進め方が冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

生産性向上活動は全社活動です。改革で現場を活性化させ、付加価値額人時生産性を高めます。目標とそれを達成する手段を明示しなければなりません。ベクトル合わせのためです。

経営者は目標と手段を現場ひとりひとりに語り伝える必要があります。多くの現場に接していて、意外とやられていないと感じるのが、この「目標と手段の語り伝え」です。

 

・明確で具体的な言葉や表現で語り伝えること

・定量的な言葉や表現では、定義を明らかにして語り伝えること

新たなPJをスタートさせるときにやらなければならないことです。

 

目標は具体的である必要があります。それと数値の定義がはっきりしていることです。手段共有に欠かせません。経営者が現場へ語り伝えて、ベクトル合わせてから、PJをスタートさせます。

全社でキックオフミーティングや決起集会を開催し、経営者が想いをうったえかけるのは具体策のひとつです。

 

「そんなセレモニーに意味があるのですか?」という声も耳にしますが、人と人との繋がり、連帯感を生み出すためには欠かせないと考えています。

1ケ所に集まることで、PJを推進させのに必要な場の雰囲気が醸成されるからです。

 

 

 

 

 

経営者が考えているほど、現場は経営者の頭の中が見えていません。ですから、経営者はPJを始めるにあたり、全従業員を前にして、想いを語り伝える必要があるのです。

想いは熱量に比例して伝わりやすくなります。人を動かすには、「頭」だけではなく、「心」にもうったえかける必要があるからです。

全員を一カ所に集め、経営者の想いを伝えること自体に意味があります。身振り手振り、表情、声のトーンなど、全てが想いを伝える手段です。

 

しかしながら、こうしたやり方が上手くいかない現場もあります。経営者からのメッセージが刺さりにくい現場です。

新たなPJの必要性を説いてもリアクションがほとんどなく、時間を割いて、全社決起集会をやっても、変化が起きません。現場に何かが足りないのです。

 

 

 

 

 

全社キックオフミーティングや決起集会は「1対多」のコミュニケーションです。経営者が全従業員の前で想いを語り伝えます。

ただし、全従業員を前にした語りかけが功を奏するのには、前提条件があるのです。人を集めて、話を伝えればいいのだろうと簡単に考えているようでは失敗します。

 

現場活性化の核となる現場リーダーや現場のキーパーソンが次のどちらかであることです。

・現場リーダーや現場のキーパーソンに当事者意識があり、自分がやらねばと考えている。

・現場リーダーや現場のキーパーソンが、組織的に仕事をするやり方を理解している。

 

両者が揃っている現場なら、決起集会は現場活動を加速させます。チームの凝集性が高まり、もともとある能力が活性されるからです。

 

逆に言うと、当事者意識がなく、組織的な仕事のやり方ができない現場リーダーや現場のキーパーソンに率いられている現場では「1対多」のコミュニケーションは機能しません。経営者の想いはほとんどスルーされます。

 

「面倒くさいこと、困ったことは、他の誰かがやってくれる。」

「仕事は自分のやり方があるのでそれでいい。」

こうした思考回路ですから、問題意識を持ち、挑戦し、試行錯誤をしながら、儲かる新たな仕事のやり方をチームで見つけよう考える経営者の想いは届きません。

 

したがって、「当事者意識」「組織的」の両者が欠けている現場で「1対多」のコミュニケーションをやっても徒労に終わることが多いのです。こうした現場では伝え方を変えます。「1対1」の膝を詰めた「コミュニケーション」からです。

そもそも、「当事者意識」「組織的」の両者が欠けている現場でで生産性向上のPJを立ち上げるときの課題は、現場のキーパーソンに当事者意識を持ってもらうこと、組織的な仕事のやり方に挑戦してもらうことです。

これは個別に伝える必要があります。したがって、全社PJですが、まずは小さく始めることです。

 

現場のキーパーソンへ「あなたには〇〇を期待している。」という想いを個別に伝え、「当事者意識」と「組織的」を感じさせます。

そうして、現場のキーパーソンチームの場の雰囲気が整ったら、活動対象職場を限定して、小さく活動開始です。

 

そこで成果が得られたら、当初予定していたキックオフミーティング、決起集会で全社へ働き掛けます。

この時点では、実績があり、活性化の起点(現場のキーパーソン)もできていますから、成果や経営者の想いを波及させられやすいです。

 

 

 

 

 

先の企業でも小さく始めるアプローチで進めることにしました。一斉に全ての職場を対象にしても、職場による温度差もあり、PJが頓挫する恐れがあったからです。

そこで、特定の職場を選択し、そこのキーパーソンと膝を詰めた議論で経営者の狙いを理解してもらうことにしたのです。

 

その職場では、チームで仕事をするやり方は出来ていなかったのですが、幸い、当事者意識は高く、現場のキーパーソンへの個別の働きかけで、職場の凝集性は短時間で十分な水準に至りました。

そして、その職場に限定した生産性向上活動を展開し、そこで実績を上げることを最初の目標と定めたのです。そこでの活動の成果を全社へ波及させようと考えています。

 

生産性向上活動は全社PJですが、ベクトル合わせが困難なら、まずは小さく始めます。PJを大きく始めるのではなく、小さく始めるやり方もあるのです。

いきなり、全社決起集会をやるのではなく、まずは現場のキーパーソンを通じて「当事者意識」「組織的」に起因した問題を解決します。そうして、特定職場の凝集性を高め、その職場で実績を出します。その後、成果を全社へ波及させるやり方です。

こうしたやり方を「ミクロからマクロへ」と表現した経営者がいらっしゃいます。ミクロにアプローチして、成果を出し、マクロへ波及させる・・・・。

 

段階を踏まず、無理して最初から全社を対象にしたPJで決起集会を開催しても、前提条件がそろっていなければ、その後が続きません。

活性化の起点となるべき現場リーダーや現場のキーパーソン自身が、経営者の期待に応える段階に至っていないわけで、こうしたPJは形骸化して、最後は雲散霧消が関の山。

「やってもムダだ」という場の雰囲気が残るだけで、これは絶対に避けなければなりません。「当事者意識」「組織的」の2つの課題をクリアすることが先です。

 

生産性向上活動は全社活動ですが、ベクトル合わせに問題があるなら、小さく初めて、PJを継続させるやり方に挑戦して下さい。

先の企業でも特定の職場でPJが進んでいます。ここの成果を全社へ波及させる計画です。

次は貴社の番です!

・成長する現場は、決起集会で当事者意識に火がつくので現場活動が加速される。

・停滞する現場は、決起集会をやっても経営者の想いがスルーされる。