「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第183話 現場の参加意識を高めるには?

「先生、現場に工数実績を記入させてみました。」

中堅製造メーカー、組み立てライン管理者の言葉です。

 

新規分野への進出を目論んでいるその企業の経営者は、現場活動を活性化させたいと考えていました。新規分野では新たな仕事のやり方が求められます。

作業のときに配慮しなければならないことや必要な帳票類が従来とは変わるはずです。「変わる」わけですから、変化に対応できる活動がなければなりません。

その経営者が現場活動を定着させ、活性化させたいと考える所以です。

 

さっそく、プロジェクトに着手し、儲けの見える化や現場リーダーの役割分担設定など準備を進め、具体的な行動を開始しました。

プロジェクトの実行責任者でもあるライン管理者はこれまでを振り返り、ベクトル合わせのためには、作業者ひとりひとりへ、もっと働きかけをしなければならないと考えています。

 

現場活動は初めてではありません。ただし、従来、定着せず、継続できなかったのです。今度こそ現場活動を定着させようと、必死になって上手いやり方を考えています。

 

その管理者が今回のプロジェクトで実感したことがありました。

・目標を掲げるだけでは現場は動かないが、目標達成の手順を示せば現場は動き始める。

以前とは異なり、現場が「のってきた」ので、その「のり」を生かし、作業者ひとりひとりの参加意識を高めようとしています。

 

付加価値額生産性を向上させることがプロジェクトの目的であり、現場の役割は工数削減です。工数削減活動にこだわりを持ってもらうため、あることを考えました。

各製品、各ロットの工数実績を見える化して、実績を手書きで記入してもらおう・・・・。

それも数値ではなく、ビジュアルですぐわかるように色を塗るようなやり方で・・・。

 

そのライン管理者は、早速、現場へやらせてみました。

「作業者の反応はどうでした?」との伊藤の問いへ、次のような言葉が返ってきました。

 

「予想したより工数がかかっていたことを知って、エッという顔をしていました。おそらく、次回ロットの生産では、なんらかの工夫をしようという気になってくれたようです。」

プロジェクトへの参加意識が少しずつですが、確実に高まっています。

 

 

 

 

 

納期遵守は重要ですが、昨今の中小製造企業が置かれた状況を踏まえると、納期遵守だけで満足している現場は生き残れそうにありません。

 

請負型のビジネスモデルであることが多い中小製造企業にとって顧客は運命を共にするパートナーです。経済が右肩上がりでイケイケどんどんの時代なら、勢いのある顧客から安定した受注を確保できます。

しかし、先行きが読み難い、不透明で、不確実性の高い時代になりました。私たちの顧客も生き残りに必死です。長年、パートナーとしてやってきた私たち、中小製造企業との取引を断念せざるを得ない状況に陥ることも・・・・。

 

実際、弊社のクライアント企業様のなかには、主要顧客から、受注量減、受注量ゼロという知らせが、突然、届いた事例もあります。

したがって、豊かな成長を実現させたかったら、「言われた納期で造っていれば問題ないだろう」という従来の意識を変えなければなりません。そして、意識改革のためには行動です。

 

行動を通じて、成果を出せば意識が変わります。ですから、納期遵守以外の論点に焦点を当て、プロジェクトを展開するのです。

そして、現場の行動を促すには、先のライン管理者が考えたように、作業者ひとりひとりの参加意識を高める必要があります。

経営者に求められるのは、参加意識を醸成する環境整備です。他人事ではなく、自分事として感じてもらうことが欠かせません。

 

 

 

 

 

現場活動を定着させ、活性化させるには、作業者ひとりひとりにプロジェクトを自分事として感じてもらうことです。そこで、活動実績をビジュアルに見えるようにします。

工数削減活動なら、今、目標に対してどれだけの工数が削減されているか。

リードタイム短縮なら、今、目標リードタイムに対してどこまで短縮されているか。

作業標準化なら、今、目標の標準化すべき作業数のうちどこまで標準化進んでいるか。

 

自分かかかわった仕事の成果を気にしない人はいません。外部からの評価に影響されるのが人間です。採点されないテストには気合が入りません。

ですから、作業者ひとりひとりに現場活動を自分事としてもらうのに欠かせないのは、活動結果の見える化です。それも、一瞬で理解できるビジュアルであることです。

 

比べる対象を明らかにして、理解できるようにします。先の現場では、現時点での実績を過去実績、目標と比べられるようにして、それをビジュアル化しました。

製品毎にまとめた表を張ってある壁の前に立つと、製品毎の優劣がわかります。人は比べられると頑張りたくなるものです。

 

そして、さらに、気付きを促したかったらどうしますか?

作業者自身に実績表への実績記入役を担ってもらいます。実績を塗り込みながら、自然と「比べる」はずです。

・現場活動の結果を、比べる対象を明らかにして、ビジュアルで見える化する。

・現場活動の結果を、作業者自身に塗り込ませる。

プロジェクトを自分事として感じてもらう具体策です。

 

 

 

 

 

現場活動を定着させ、活性化させるには、作業者ひとりひとりが活動を自分事として考える環境を整備することです。

自分事として考えるとは、当事者意識のことであり、問題を認識して、自ら解決策を考える姿勢と言い換えられます。

 

現場活動はやるけれども、フォローと評価がなくて、結果が見えない現場では、当事者意識は生まれにくいです。意識も変わらず、元に戻るだけの行ったり来たりです。問題は上司や他の誰かが解決してくれるという従来の思考回路しか持てない現場なので、変われません。

 

ですから、そうした現場にこそ、示されれば気になる仕事の結果をビジュアルで示し、自ら解決策を考えるよう促します。直観に訴える見える化です。さらに、自らの手で結果を塗り込むようになれば、その仕事は他人事とはなりません。

 

先の現場では、工数実績表へ結果を塗り込む役割を担った作業者が他の作業者へ前向きの影響を及ぼし始めました。その作業者を中心に、技能を互いに伝え合うようになったのです。

工数削減活動にこだわりを持ってもらいたいと考えた管理者の狙い通り、ビジュアルで結果を見える化したことで、その作業者の当事者意識がどんどん高まっています。

その作業者の意識は周囲へも波及し、技能の差をなくして、チームで成果を出そうとしているのです。

次は貴社の番です!

 

・成長する現場は、結果の見える化で当事者意識を高め現場活動を活性化させる。

・停滞する現場は、結果が見えないので、意識も変わらず、元に戻るだけ。