「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第182話 全社目標へ向けて現場活動を活性化するには?

「この製品がどれくらい儲かっているのか興味を示す作業者がいました。」

20人規模の加工職場、製造現場主任の言葉です。

 

昨年、新たな現場活動に着手しました。現場活動では成果の見える化をしなければなりません。暗闇のバッティングセンターで打撃練習をしていても上手にはならないからです。

その現場では特定の商品を対象に生産性を高めようといています。製品別の付加価値額人時生産性が活動成果を計測する指標です。

 

ただ、ここで現場主任は懸念を持ちました。現場は「付加価値額」の考え方を理解していない作業者が多いので、指標、そのものに興味を示すだろうか・・・。

そこで、作業者へ付加価値額人時生産性の意味やそれを高める意義を説明しました。ビジュアルに分かりやすく解説したこともあり、冒頭の言葉にように「付加価値額」に興味を示す作業者が出てきたのです。

「個別具体的に製品別の儲けを伝えると現場も興味を持つようです。」とは先の製造主任の言葉です。

 

 

 

 

 

中小製造企業の経営者が豊かな成長を願うなら、やるべきことはただ一つ。付加価値額人時生産性の向上です。

売上高や利益ではなく、いわゆる儲けに着目し、さらには、その多寡のみではなく、どれだけの工数を投入して、その儲けを積み上げたのかを問うのです。

 

固定費に経営者の想いが込められているわけで、豊かな成長を実現させたかっらた、固定費を成長させなければなりません。

そして、この付加価値額人時生産性は固定費を回収するパワーに外ならず、儲ける力はこの数値に集約されます。経営者は当然のこと、作業者ひとりひとりも儲ける力をアップさせるためにはどうすればいいだろうかと考えたいのです。

 

しばしば、納期遵守以外の論点を持たなければならないとお伝えしています。

「納期を守らなければならない。」この意識が浸透していない現場はありません。皆さんの現場もそうでしょう。

この意識がなければ、そもそも製造業としての事業が成立しません。国内製造現場が当然のように有する思考回路です。製造現場の”お作法”ともいえます。

 

ただ、時代は変わりました。

従来の商圏を維持していれば収益が確保できる、従来からの仕事のやり方でも受注が継続できる・・・こうした考えが通用しなくなってきたと感じているのは私だけではないはずです。

既存顧客からの安定的な受注を前提に、依頼された仕事の納期を守っていれば儲かるというビジネスモデルは崩れつつあります。

 

弊社のクライアント企業様の中にも、主要顧客から予告なくそれまで継続してきた受注の打ち切りを宣言された事例がいくつか出てきました。売上全体への影響が2割減という状況に直面して、現在、新たな取り組みに着手した経営者もいらっしゃいます。

従来型のコスト削減、無駄取りに軸足を置いた現場活動だけでは儲からなくなってきたのです。積極的に儲けを積み上げる仕事のやり方に変えます。

 

時代は、削減の時代から積み上げの時代に変わりました。納期遵守の重要性、コスト削減、無駄取りの重要性は今も、今後も変わりませんが、それ以上に儲けを積み上げる思考回路を持ちたいということのです。

そして、それも限られた経営資源のなかで最大限につみ上げたいので付加価値額人時生産性の向上です。新しい仕事のやり方に挑戦しなければなりません。

 

働き方改革の是非についてはいろいろな意見がありますが、少なくとも、これからの世の中の流れを見通せば、儲けを積み上げるのに残業や休出を宛てにすべきではないでしょう。

だから、付加価値額人時生産性を向上させて儲けを積み上げるのです。まずは現時点の付加価値額人時生産性を把握して、プロジェクトで目指す目標を数値化します。

 

 

 

 

 

儲けを積み上げるためのキーワードが全社の付加価値額人時生産性です。詳細はセミナーや個別相談でお伝えしていますが、工数削減と付加価値額増の2軸で考えます。

生産性を高める手段は工数削減だけではありません。中小製造現場で製販一体が重要な戦術となる所以です。

 

そして、全社の付加価値額人時生産性を明らかにしたら、「さぁ、この生産性の20%UPを目指そう!!」と全社目標を掲げる訳ですが・・・。

全社目標を目の前にして、どうでしょう、現場は直ぐに、目標達成に向けて動くでしょうか?動けないはずです。

ではどうするのか?

 

 

 

 

 

目標の設定は絶対です。向かうべき到達地点を示さないとチームとして仕事ができません。

ですから、全社目標としての付加価値額人時生産性を掲げるのは間違いないのですが、ただ、これだけでは何かが足りないのです。

 

それは”羅針盤”です。航海では目標地点へ到達するための手段として羅針盤や夜空の星や星座を生かします。現場でも同じです。

全社の付加価値額人時生産性を向上させる具体的な手段を示さなければなりません。それが「製品別の付加価値額人時生産性」です。

 

個別具体的な目標として「製品別の付加価値額人時生産性」を現場へ示します。

製品別の付加価値額人時生産性の向上 → 全社の付加価値額人時生産性の向上(※)

この構造です。

 

プロジェクトで成果を出すためには目標と手段をセットで示す必要があると言われます。経営者が(※)の構造を示すことで、組織の各階層での役割も組立てやすくなるでしょう。

部長には部長の、課長には課長の、現場リーダーには現場リーダーの仕事があるからです。手段を示せば、管理者階層ごとの羅針盤や夜空の星や星座を設定し易くなり、現場でもリアルにやることを思い浮かべられます。

さらに、製品別の目標が「単なる工数削減だけ」の場合と「儲けというお金の匂いもする工数削減」の場合とどちらに現場は興味を示すかということです。後者ではないでしょうか?

(※)の構造を理解させて「製品別の付加価値額人時生産性の向上」を現場のテーマとするのです。全社目標達成の手段であり、リアルで具体的ですから、現場活動が活性化します。お金の匂いがする手段に現場は興味を示すのです。

 

 

 

 

 

ただし、ご指導をしながら、「製品別の付加価値額人時生産性の向上」の活動にも壁を感じる現場があるようです。それは製品別工数データの有無によります。

日報で製品別の工数データが報告されているでしょうか?

そして、そのデータの精度はどうでしょうか?

工数データが蓄積されていない、工数データはあるけれども正確でない!と言う理由で頓挫しないようしたいものです。

納期遵守だけで儲かる時代は終わりました。製品別の工数データが無ければ、愚直に日報で報告するよう、明確に教育、指示することです。そして、お金の匂いのする指標を生かして現場活動の意義を示します。

 

先の現場では日報の精度が高く、蓄積されていたデータを早速、生かせる状況でした。それらのデータを料理して、ベンチマークを設定し、現場での活動に着手したところです。”料理されたデータ”に現場は興味を持ってくれました。

「先生、これまで蓄積していたデータを全く生かせていなかったようです。」とは経営幹部の言葉です。その言葉に対して、今回のプロジェクトは宝の山を掘り当てるきっかけになりますよとお答えしました。

これからの活動で手にできる成果が楽しみです。

次は貴社の番です!

・成長する現場は、製品別の付加価値額生産性を高める意義を理解して早速行動する。

・停滞する現場は、工数データがないことを理由にできないと判断しあきらめる。