「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第19話 カイゼンは議論の能力を高める絶好の機会でもある

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カイゼンは議論の能力を高める絶好の機会でもある。そのために”知らせること”は絶対に必要である、という話です。

 

「やっと、やることが決まり始めました。話し合いも慣れないと上手くいかないものですね。」

 

新たに任された現場の管理者を担って数か月過ぎた頃の話です。

その現場の年間売り上げは1億円弱程度。生産管理担当者を含めて8名で自動車部品を製造する生産ラインです。械加工と熱処理を主な工程とした2交代勤務の職場でした。

そこは20代、30代が中心の若い現場です。前任者に代わって、私がその現場の管理者を担当することになったのです。

そして、現状を把握するのに、現場メンバー全員と面談することを計画しました。

 

 

いくつか分かった中で、特に気になることがありました。

それは、彼らが改善活動やQCサークルなどの、いわゆる小集団活動を経験していなかったことです。

交代勤務の職場ですから、全員が一度に集まる機会は限られます。そうした職場環境であったためか、全員で集まって活動するきっかけもなかったようです。

現場の基本はカイゼンにある。当時から、そうした考えを持っていたので、早速、その職場の現場リーダー役であった生産管理担当者のA君に提案をしました。

カイゼンを全員でやってみたらどうかと。

A君からは「是非、やってみたい。」との返事が返ってきました。

そうした活動には興味はあったが、どう進めればイイかわからなかったとのこと。

その頃、私が所属していた企業では全社共通の目標を掲げたカイゼンはやっていはいませんでした。職場ごとに、そうした活動は任されていた状態でした。

そのような事情もあって、その職場でもカイゼンの活動はやっていませんでした。

 

 

そこで、現場リーダー役のA君へ、職場の現状を説明しました。

収益状況はまずますであること、受注量に対して生産能力は現状でも十分に確保されていること、重要保安部品なので品質には細心の注意を払わなければならないので品質管理は強化の余地があること。

カイゼンをスタートさせるに当たって、経営者が必ずやらねばならないことは、”知らせること”です。

今、会社全体はどうなっているのか。その中で各現場の状況はどうなっているのか。そうした状況を踏まえて、我々は何を目指したいのか。こうしたことを事前に示します。

 

 

そもそもカイゼンは何を目的にやるのでしょうか?

経営者の想いを実現させるためです。

そのためには、今の、足元の活動でも成果を出さねばなりません。カイゼンは、”今”お金を生み出す活動を現場に促すきっかけとなります。

一方、現場にとっては、経営者の想いや考えに触れる機会となります。

トップの考えに沿ってテーマを考えよう。トップから知らされれば、現場は自然とそのように考えます。人の役に立ちたい、特に所属している仲間やトップの役に立ちたいと考えるのは人の本質です。

ですから、経営者が現場へ”知らせること”なしに、QCサークルや改善活動を「ヤレ!」と指示するのはオカシイことです。

現場は何を拠り所にしてテーマを考えればいいのでしょう。目の前の困りごとにのみフォーカスされます。

工場経営にどう影響するのか、利益へどうような貢献をするのか、知る余地もありません。

”知らされること”なしにQCサークルを展開した場合、現場がどのようにテーマを考え、どのように目標値を設定するか、また、成果の良し悪しをどのように判断しているのか、想像してみてください。

現場からやる気を十分に引き出した状態に至るでしょうか?

動機付けという観点からも、”知らせること”の重要性を理解できるでしょう。

カイゼンも、究極的には、経営者の想いを実現させるための手段の一つです。

せっかく展開するならば、経営者の狙いに直結した活動になるよう導くほうが”お得”でもあります。加えて、狙いが明確な方が、現場も頑張れます。

 

 

そこで、A君の職場では、生産性向上ではなくて、品質管理体制の強化が必要だよ、というメッセージを送ったわけです。

”知らされること”を通じて、A君をはじめとして現場メンバーが考えてきたテーマが”製品の抜き取り頻度を増やすことによる目視検査の強化と工程能力の把握”でした。

カイゼンを現場で展開させるのは初めてでした。全てが初めての経験です。A君はまず、一人一人に、説明をしていきました。今度、新たにカイゼンを職場としてやろうと思う、その目的は・・・。不満を言うメンバーはなく、即、開始です。

ただし、交代勤務故、一斉に集まるのが難しい。そこで、交代勤務の早番に残ってもらい、全員が集まれる勤務体制をA君はアレンジし、全員で話し合う場を設定していました。

そうして、30分/回の全員で話し合う場を定期的に設け、5回程度の打ち合わせで、やっとテーマ決定に至ったようでした。

その時に発したA君のコメントが冒頭のそれです。

 

 

A君の話を聞いて気が付いたことがありました。

現場が議論し、意見交換して、ある一つの結論に至るにもスキルが必要であり、訓練が必要である、ということ。逆に言うと、話し合う、議論するという経験の乏しい現場を対象に、〇〇を決めろと指示しても、効果的なことは決められないということです。

それは、現場メンバーが”議論”する訓練を受けていないからです。

 

 

自らの経験を振り返って、ある意味で納得しました。学校を卒業して、現場へ配属され、その時点から、あらゆる人やグループと”話し合う”訓練をしていたことに気づきました。

当時所属していた大手企業の工場の現場では、様々な活動が展開されていました。日々の生産管理、カイゼン、日々の不良品の対策、原価管理、安全活動、他工場との共同研究など。

学生時代にも専門分野で議論をする場はありましたが、ある意味では”同質”なメンバーの中での議論。幅広い年代、人生経験や経歴が異なる多様なメンバーと議論する機会を持ったのは社会人なってからでした。

所属した企業の工場ではそうした機会が”普通に”たくさんありました。意識せず、”議論”する訓練を受けてきた結果、今の自分があるようです。

 

 

A君も言っていました、”議論では言いたいことだけしゃべってもダメですね”。(そうそう、A君はよくわかっているね!)心の中でそう思いながら話を聞きました。

意欲ある若手人財がそろっていると、議論する技能の向上も早いようで、ドンドン話は進みました。その後、話し合いを重ねるにしたがい、取り組みが具体的になって、即、活動開始。2か月程度の活動で一定の成果を出すことができました。

品質管理で数字で見えるようになったお陰で、引き続き、次のステップに進んでいきました。

現場で現場メンバーと会話をするとに、カイゼンのことが自然と話題にも上がってきたことを思い出します。

こうなったら、私の役目はフォローだけでした。

現場が議論をする力を高めるには、”知らせること”も併せて重要であることを知りました。

そうでなければ、そもそも、話し合うこと自体に慣れていない現場では、議論が雑談に終わってしまう。

具体的なデータを示し、狙いを明確に提示することで、論点が絞りやすくなり議論が進みます。そうした経験を重ねて意見交換の勘所を理解していくのです。

 

 

現場メンバーひとりひとりが持っているアイデアを抽出して、成果に結びつけるのに欠かせないものとは・・・。

それは、”議論する能力”です。

経営者自身がいつも現場でメンバーと意見交換しながら考えを引き出すわけにはいきません。自律性の観点からも、現場での意見集約は現場に任せるべきであり、そこで重要になってくるのは、現場が持つ”議論する能力”。

現場ならではのイイ意見を期待したいのならば、おおいに”議論”させるべきです。

カイゼンはそうした議論をする絶好の機会も提供してくれます。

そして、その前に”知らせること”は絶対に必要です。

 

議論の訓練となる機会を現場へ与えていますか?

カイゼンでは、現場が論点を絞ってしっかり議論できるよう、十分に”知らせて”いますか?

 

まとめ:カイゼンは議論の能力を高める絶好の機会でもある。そのために”知らせること”が絶対に必要である。