「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第20話 現場のデータのデジタル化とアナログ化、どちら?

%e5%9b%b31

現場のIT化を考える際に必要なのは、デジタル化すべきこととアナログで残すことを明確に切り分けることである。アナログで対応する方が強みとして発揮できる事が現場では意外と多いことに留意する、という話です。

 

データのデジタル化とアナログ化について考えさせられた番組があります。遅れない電車No.1 京急電鉄アナログ戦略。(7/24 TBS がっちりマンデー)

 

 

首都圏で営業してる京浜急行電鉄における一週間あたりの遅延発生回数は、1日に約1600本以上の電車が走っているなかで、10分以上の遅れで0.25回以下です。

首都圏の電車、新幹線での信号操作は列車運行管理システム(通称PTC:Programed Traffic Control)によるコンピューター制御が一般的になっています。

その一方で、京急電鉄では伝統として手作業で信号操作をしています。

事故などの異常事態が発生した場合、人間の柔軟な対応の方が、早期に正常運行に戻せるというのが京急電鉄の考えです。

事故や故障など、不測の事態に陥った場合、コンピューター制御では、運行を再開させるためのプログラムを組み替えるのにけっこうな時間がかかります。

京急電鉄では、関連施設内の制御室で信号テコ操作と呼ばれる進行信号を、通常、1人の手作業で現示して電車を駅構内に進入させます。

手作業ですから、いざという場合にも、柔軟に小回り良く対応できるわけです。

こうした結果が、先の遅れ回数の実績につながっていると説明されていました。

 

 

かって、製造現場で製造指示をデジタル化しようとして失敗したことがありました。

その現場では、それまで製造指示書を紙媒体で現場へ配布していました。

それを、事務所のパソコンと現場のパソコンと社内LANでネットワーク化し、製造指示をデジタルデータで現場へ伝達しようと計画しました。

作業指示を現場のディスプレーで直接見ることができます。

紙媒体を配布する手間が省けます。配布後、現場で指示書を紛失して再発行することも必要ありません。

事務処理工数削減が主要な狙いです。

紙媒体に代わって、ディスプレーを通じて製造指示を伝達するという構想でした。

システム自体は問題なく出来上がり、想定した機能は具備していました・・・。

が、最終的に当システムは使われなくなりました。

現場がストレスなく使い続けるには多くの問題点があったからです。

特定の現場に絞ったトライアル的な試みだったので、金銭的なロスが少なかったのは幸いでしたが・・・。

従来作業指示書がどのように現場で使われてきたのか、そこへの配慮が欠けていました。

 

 

当システムを開始してからは、一度発信した製造指示データを変更すると、現場が混乱することがたびたびでした。

現場では、生産指示のデータを紙媒体へ印刷して利用しているケースがしばしばありました。

何もなければそれでも問題はないのですが、何かの事情で発信済みの製造指示データを変更しなければならない事態では、少々面倒なことが起きました。

データそれ自体を変更する手間は少ないです。

加えて、その変更データが現場へ届くのも一瞬です。

しかし、紙媒体へ印刷されたデータの変更は、別途やらねばなりません。

データは変更されたが、印刷された紙媒体の方は変更前のデータのままだった、ということが散発していたのです。

そうした時、変更情報が現場の最前線へ伝わっていませんでした。

 

 

そもそも、現場でなぜ情報を印刷するのか?

長年、紙媒体に慣れた現場にとってはディスプレー越しに観る情報だけでは不安であった。ので、印刷して紙を「手」に取って確認していた。

さらに、製造指示署にペンでチェックを入れながら仕事を進めることもあった。

あるいは、対象製品の業務引継ぎ時に、必要情報を書き入れて、次の担当作業者へその”紙”を渡していた。

前線では思いのほか”紙”が活躍していたということです。

 

 

こうした状態で製造指示のデジタル化を図るとデータの一元管理ができません。

サーバー上のデータに加えて、印刷済みの現場の”紙”にも気を回さなければならず、かえって現場は混乱します。

その時の現場では、情報伝達ツールとしてアナログの方が適していたということです。

 

 

 

IOTを現場へ導入する等、現場のIT化を考える際に必要なのは、デジタル化すべきことと、アナログで残すことを明確に切り分けることです。

そうでなければ、先の事例のように2元管理のような混乱を引き起こします。

情報通信技術(ICT)の進歩は目覚ましいです。

ですから、この先、5年後、10年後には、今できないことが、できるようになっていることでしょう。

ただ、今はまだ、そういう点ではICTも発展途上です。デジタル化も、決して万能ではありません。

現場の現状を漏れなく把握して、できることと、できないことを分類します。現場の”今”を正確に把握することが欠かせません。これは、現場のデジタル化に限った話ではありませんが・・・。

 

アナログでこそ強みを発揮できる事が、現場では意外と多いです。

盛んに話題に上がっているIOT導入の時も同様の視点を持ちます。

 

現場のアナログの良さ、強さを把握できていますか?

アナログの強みをデジタル化で弱めようとはしていませんか?

 

 

まとめ:現場のIT化を考える際に必要なのは、デジタル化すべきこととアナログで残すことを明確に切り分けることである。アナログで対応する方が強みとして発揮できる事が現場では意外と多いことに留意する。