「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第216話 2つのスキルアップで技能伝承を定着させる

「現場の技術や技能を若手に伝える取り組みがなかなか進みません。」

中堅製造企業経営者の言葉です。

 

人時生産性向上活動に着手する経営者が必ず直面する問題とは・・・多能工化を始めとする現場のスキルアップです。

少数精鋭の中小現場の強みを最大化しようとするなら、一人ひとりのパフォーマンスを高める必要があります。競合や同業者と同じことをやっていても勝てません。

 

商品毎の生産性を高め、リードタイムを短縮し、全社の人時生産性UPを図るわけです。作業者の力量を高めなければ実現できません。先の経営者もそのことを十分に理解しています。

人時生産性向上プロジェクトを着手する以前から、工程毎のチームでベテランから若手にスキルを伝達する取り組みを進めてきました。スキルアップ評価表なども活用しながら進めています。

しかし、新たなプロジェクトを加速させるためには、今までのスキル伝達のやり方でダメだとも感じているのです。

冒頭の言葉です。

 

現場のスキルを高める取り組みを継続させるだけでも競合や同業者よりも先んじていると言えます。しかし、事業のステージを高めようとしているのです、

現場のスキルアップのやり方、あり方のステージも高める必要があります。先の経営者へ次のように伝えたところです。「人材育成のやり方を本質的に見直しませんか?」

 

 

 

 

 

事業のステージを高めるために、人材育成のステージも高めます。スキルアップは技能面だけではなくなるのです。

旋盤に加えて、フライス盤や研削盤、その他工作機械を扱えるようにすること、商品Aだけでなく、商品Bや商品Cも扱えるようにすること。各作業者が技能面で仕事の幅を広げることがスキルアップの柱であることは論を待ちません。

ただし、削減の時代から積み上げの時代に変わった昨今、人材育成に求められるのは「技能」のスキルアップだけではないのです。

・「技能」のスキルアップ

・「思考」のスキルアップ

 

「思考」のスキルアップが加わります。「経営者の意思や意図が反映された人材育成」としたいからです。

コロナ禍で市場や顧客が大きく変わろうとしている時代です。事業ステージを高めるため、時代の変化に対応するため、人材育成の狙いも広がります。これからは、自主的に考える現場が必要です。技能に加えて思考のスキルアップが求められます。

 

 

 

 

 

技能を高めるにも、現場がその目的や背景を理解している必要があります。ヤラサレ感ではなく、自分がヤラネバという使命感が欲しいのです。チームの役に立てると感じることがモチベーションを高めます。

これまでは「スキルアップ=技能伝承」でした。ベテラン→若手への情報伝達というやり方がほとんどであったと思います。しかし、これから、思考のスキルも高めたいのです。

思考のスキルを高めて、技能のスキル向上を加速させます。思考のスキルを若手へ教える人材が重要な役割を果たすのです。各工程を引っ張るリーダーがその役割を担います。

「経営者の意思や意図が反映された人材育成」を引っ張る人材です。

 

 

 

 

 

技能の伝達だけならベテランによるOJTでもできます。

しかし、多能工化の狙いが多様化する中、なぜ、技能を高める必要があるのか?それを実現できたら、どのような貢献ができるのか?人材育成のあり方も伝えなければなりません。

考える若手を育てます。チーム力最大化のためです。

 

「自分さえできればイイのだ」では、所詮、技能のスキルアップも部分最適化に留まります。「人工生産」しかできず、儲かりません。

経営者の意思や意図を若手に伝えられる人材が必要です。

 

従来と同様、個の力を高めることは欠かせません。ただ、個の力が全体最適化、チーム力を高めることに繋がらないと儲からないのです。

「私はできるから問題ない・・・」と考えるようではダメだということです。「私はできるので、できない人に教えてあげて、チームの底上げを・・・」と言う思考を持てる人材を育てます。

ベテランによる若手へのOJTを上手にプロデュースできるリーダーが必要なのです。経営者の意思や意図を反映した人材育成を実践できる人材を育成する必要があります。

 

 

 

 

 

中小製造現場の儲けの論点は「詰めて、空けて、取り込む」です。儲けの機会は「外」にあります。アフターコロナでは、ますますそうなります。

「外」の変化に合わせて「内」を変える思考を現場で共有しなければなりません。これが思考のスキルアップの狙いです。

 

顧客視点、チーム力、全体最適化、仲間への貢献、仕組み化、標準化、手順化・・・新たな思考を取り込みます。

思考のスキルアップはリーダーが日常的にやるべきことです。日頃の言動を通じて、経営者の意思や意図を浸透させます。具体的には次の3つです。

1.納期遵守以外の業務を積極的に展開すること。

2.部下のことをしっかりフォローし評価すること。

3.工程間の連携を密にすること。

ポイントは「儲けの機会は全て外にある」ことを理解させ、外の変化に合わせて内を変えることが現場の使命であると知らせることにあります。そういう思考回路を浸透させるのです。ソべては「外」です。

 

若手が新たな仕事のやり方を知れば思考の質を高められます。やり甲斐や働きがい、貢献意欲を感じる機会も増えるのです。ベテランによるOJTに臨む若手の姿勢も変わります。自主性、自律性が発揮できるからです。

経営者の意思や意図を反映した人材育成を実践できる人材を育成するとは、先の3つをやれるリーダーを育成することに他なりません。

 

 

 

 

 

「技能」のスキルアップの重要性は変わりませんが、事業のステージを高めたかったら、「思考」のスキルアップもすることです。

ベテランではなく現場のリーダーにその役割を担わせます。リーダーが経営者の意図や意思を現場へ浸透させるからです。

したがって、「思考」のスキルアップを加えた人材育成はリーダーが育っていないとできません。つまり、人材育成のための人材を育成するところからです。

 

もはやベテランによる若手への技術や技能のOJTだけで人材育成は終わりという単純な時代ではなくなりました。人材育成のやり方を本質的に見直すなら、技能に加えて、思考のスキルアップが加わります。

リーダーを起点として地味で地道な人材育成を実践することで「人材再生産体制」が確立するのです。「人材再生産体制」は経営者なら誰でも手にしたいものです。

 

ところで、思考のスキルアップに最適な教材があります。それはなにか?貴社のロードマップです。ロードマップには経営者の意思や意図が凝縮されています。

リーダーを先生役にロードマップで勉強会です。「思考」のスキルアップの場としてこれ以上の場はないでしょう。現場は「技能」のスキルアップの必然性を感じます。

腹落ちしてからの行動こそ本物です。

 

・「思考」のスキルアップを加えた人材育成を実践できる人材(リーダー)を育成する。

・リーダーには経営者の意思や意図を浸透さる3つの言動を指示する。

・リーダーがベテランによる技能、技術のOJTを主導する。

・リーダーがロードマップ勉強会を主催して思考のスキルアップを加速させる。

 

「技能」だけでない、「思考」のスキルアップを実践する人材育成を展開できれば競合には見えない強みを持てます。リーダー教育が先行するのです。

目に見えない強みは模倣が困難です。圧倒的な競争優位性を構築する武器になります。人材育成の仕組みが人時生産性向上活動を下支えしてくれるのです。

 

先の現場で、技術や技能を若手に伝える取り組みがなかなか進まない原因は単純です。生産活動を優先させてしまうからです。

思考のスキルが高まればこうした問題も現場が自主的に解決できます。経営者は社長業に専念できるのです。

今度は貴社の番です!

 

成長する現場は、リーダーが思考のスキルアップを進めながら技能のOJTを主導する。

停滞する現場は、技能のOJTをベテラン任せにしているのでなかなか進まない。