「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第217話 アフターコロナで挑戦する社長への3つの問いかけ
「なるほど、この数値では収益を確保できないわけですね。」
産業用電子機器メーカー幹部の言葉です。
先日から新たな取り組みに着手しました。人時生産性向上活動です。通常の現場活動とは異なります。経営改革を目指した全社活動になるからです。
経営指標として、付加価値額生産性を加えました。いわゆる労働生産性です。人年単位と人時単位で数値の変化を評価します。
中小製造現場で重要なのは人年よりも人時です。なぜ人時生産性なのかを先の幹部へ説明しました。企業規模に関係なく基礎体力がこの数値に現れます。
収益構造が固定費VS付加価値額であること、現場へ投入できる工数が限られていることを踏まえると、やることも見えてきます。
この企業は、数年前に売上高の3割を占める主要なお客様から大幅な値下げを要求され、それを受けました。そこから大きく収益を悪化させています。
コロナ禍を受ける以前から売上高が伸び悩んでいるのです。3,000円に届かない人時生産性が明らかになり、幹部の口から出てきたのが冒頭の言葉です。
工場経営のモデルを大きく変える必要があります。従来の下請け業務に依存したビジネスモデルでは、分子を積み上げようにも限界があると先の幹部は感じたようです。「外」に合わせて「内」を変えなければなりません。
コロナ禍で売上高が減少、収益確保に悪戦苦闘という企業様がある一方、収益を維持している企業様があります。次のような企業様です。
・新たな切り口で開発した新商品を市場へ投入した企業
・海外に販路を求めて取り組んだ企業
・新規分野に挑戦した企業
・既存顧客を深掘りして新たな案件を開拓した企業
等など。
これらの企業様に共通している思考回路があります。
先手必勝、先制攻撃あるのみ、攻撃は最大の防御。
上記の成果や取り組みはコロナ禍とは無関係です。今から2年前、3年前に起点があります。
「削減の時代」は終わりました。今や人時生産性向上の本質は分子を増やすこと、つまり新たな付加価値額を積み上げることにあります。
経営者の視点は「外」へ向かなければなりません。平時にこそ、新たな積み上げの機会を探るべきです。事が起きてしまったら「内」の仕事にも時間を割くことが求められます。社長業に専念できません。
貴社で頼りにしている事業が、今後、5年先、10年先も、大黒柱として収益を支えてくれる保証があるなら、「今」の仕事と「内」の仕事に力を注いで下さい。
ただし、時代を読めば、誰もそんな保証をしてくれないことは火を見るより明らかです。
地政学リスク、自然災害リスク、技術革新、競合先の大躍進、パンデミックリスク、そして、これらに伴う市場やお客様が持つ価値観の変化。
不確実性が日常的に存在する社会が普通になります。「ニューノーマル」です。自分だけは大丈夫という「正常性バイアス」に囚われている暇なぞありません。
外的変化を五感で感じ取り、あるいは先取りして読み、それに対応しないと生き残れません。現場を変え、思考を変え、行動を変え、言葉を変え、仕事のやり方を変え、ビジネスモデルを変える。経営者は縦横無尽に発想を展開します。
3つの振り返りをして下さい。アフターコロナを成長発展の機会としたいからです。
1.本当に「儲かる」工場経営の「構造」になっているか?
2.全てが「手順化」、「見える化」されているか?
3.「将来」と「コミュニケーション」がとれる現場か?
●本当に「儲かる」工場経営の「構造」になっているか?
売上高、利益ではなく、付加価値額、それも人時生産性で事業の将来を考えます。今のやり方で人時生産性を高められますか?5,000円、6,000円を目指して成長させられますか?
儲かる工場経営の要諦は「顧客に選ばれる製品、商品、サービスを効率良くつくること」にある以上、まずは、将来の顧客に選ばれる製品、商品、サービスを扱っているか否かです。
将来のお客様に選ばれない限り、将来の付加価値額が見通せません。将来の顧客と選ばれる商品、製品、サービスを設計する必要があります。
さらに「内」の変革も必要です。「外」の変化に対応できる現場しか生き残れません。
生産管理3本柱を理解している現場ですか?新たな仕事のやり方を模索します。現場の一人ひとりが考えなければなりません。ひと事ではないのです。
ただし、考えるには知識が必要です。それが生産管理3本柱の基礎知識となります。貴社独自の3本柱を教育し、変化へ対応した知恵の創出を後押しするのです。
さらに「外」と「内」を統合する製販一体体制も見直します。変化を先取りするDR、値決めです。「外」「内」「製販一体」。将来においても「儲かる」「構造」でしょうか?
●全てが「手順化」、「見える化」されているか?
インダストリー4.0、ソサイアティー5.0、IOT、AI、そしてDX(デジタルトランスフォーメーション)。デジタル技術の活用を促す多くの概念があります。ICTを工場経営に活かす取り組みは生き残りに不可欠です。
10~20人規模の現場でも生産管理システムを導入している例もありますが、そうした現場では、「本当に活かされているのか?」と考えて下さい。
生産管理3本柱の基礎知識があれば自ずと答えはできてきます。つまり、ICT導入以前にやっておかなければならない事があるということです。
それが「手順化」と「見える化」です。
例えば、QMSで文書化している現場はその文書が“床の間に飾った状態”になっていないかどうかチェックして下さい。棚で眠っていることがほとんどでは?
それではダメです。実効性のある「手順化」と「見える化」です。
これは本格的なデジタル化の事前準備であり、前提条件です。逆に言うと、これ抜きでデジタル化しても徒労に帰すること大です。
貴社では本格的なデジタル化の事前準備として「手順化」「見える化」がどれだけやられているでしょうか?DXは「内」の優先度も高いです。
儲かる工場経営3つの羅針盤は「一体化」「見える化」「収益化」です。羅針盤を機能させなければ船は座礁します。
●「将来」と「コミュニケーション」がとれる現場か?
経営者の想いが現場の作業者一人ひとりに浸透していますか?社長業に専念したい経営者は「内」を現場に任せます。「外」に時間を割くためです。先手を打って、将来に備えます。
将来に備えて、現場も変えなければなりません。将来に備えた経営者の先手に対して、相変わらず「納期を守っているから変える必要はないだろう」と勝手な判断基準で仕事をやっている現場の将来は明るくはないということです。
会社や部下の将来に無関心な人材は「将来」と会話ができません。「将来」を気にする現場に変えることです。
儲かる工場経営3つの改革、「現場改革」「意志改革」「構造改革」。改革推進の本気を現場へ示すことです。
経営者が本気を現場へ示せば、現場は、必ず、経営者に応えてくれます。作業者一人ひとりにとっては、そうすることが自分や家族のためになるからです。
それまで会社の将来に無関心だった従業員も変わります。現場の思考回路を変えるのは経営者の言動です。ロードマップが経営者のご自身の打つ手を現場で実現させやすくします。ロードマップで将来へ向けた時間軸を共有するのです。
3つの振り返りをして下さい。アフターコロナを成長発展の機会とするためです。今後も大きな変化に直面します。事前に手を打ちたいものです。自ら変わります。
コロナに限っても、いつまた、感染拡大が起きるかわかりません。それへの備えもできているでしょうか?
外部の変化に対応して、会社や現場が自ら変わる能力。この組織能力を高めます。経営者の右腕役となる、工場長や現場リーダーの育成もセットです。
製造現場は他の業種と異なり、多様な要因が複雑に絡みあっています。ご自身だけでやろうとしても進みません。何度も目にした失敗事例です。
先の企業では、まず、「内」の取り組みを「外」と連動させることから始めます。
次は貴社の番です!
成長する現場は、経営者の右腕役が主導して、自ら変わる能力を高めて変化に対応する。
停滞する現場は、経営者が自らのやり方で、経験則に従い、今を乗り越えようとする。