「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第223話 3種類ある生産計画の使い方とは?

「先生、ウチの生産計画の立て方は、まだまだ甘いです。」

100人規模、産業機械部品メーカー経営者の言葉です。

 

製品の独自性もあり、コロナ禍でも需要は堅調です。新たな案件の相談が届いています。ドンドン取り込んで、事業を躍進させたいと考えている経営者です。

しかし、現場からは「忙しくて入らない」という言葉が返ってきます。まだまだやれる余地があるだろうというのが経営者の見解です。

 

経営者が号令を掛けないと動かない状況が続いています。現場が自らの意思で受注案件をドンドン取り込む姿勢にならないと経営者は楽になりません。

現場はどんな生産計画で動いているのか?現状を語ったのが冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

工程管理大系は生産計画から始まります。定義は下記です。

生産量と生産時期に関する計画。生産計画では、各製品の販売計画、在庫計画に基づき、生産のための工程系列、その各要素工程での保有能力と所要工数から、それぞれの製品の生産数量と生産時期を決める。

なお、生産計画は大日程計画、中日程計画、小日程計画に分けられ、月別、日別、時間別、あるいは製品別、職場別、作業者・設備別と計画が細分化される。

(出典:生産管理用語辞典 日本経営工学会編)

 

・能力と工数から生産数量と生産時期を決める

・大日程計画、中日程計画、小日程計画を使い分ける

 

 

 

 

 

●能力と工数から生産数量と生産時期を決める

生産能力と受注した案件の所要工数とを照らし合わせて、生産可否を判断します。したがって、2つの仕組みが必要です。

 

・現場の生産能力を評価する仕組み

・受注した案件の所要工数を評価する仕組み

 

能力や工数を評価するやり方は定義されていなければなりません。

時間評価か?出来高評価か?段取りの始めと終わりのタイミングは?多台持ち作業者の加工作業時間は?などなど定義を明らかにする必要があります。現場独自の判断基準です。

ここを曖昧にすると一人ひとりの勝手な考え方が判断基準となります。

 

所要工数はリードタイム構成要素のひとつです。

客観的な評価ができていますか?

属人的なら、1日も早く定義を設定する必要があります。誰が評価しても同じならなければいけません。ルールのないスポーツをしているようなものです。勝負ができません。

 

 

 

経営者の願望を実現させるには人時生産性を高めることです。したがって、人時生産性を評価できなければ、そもそも何のための人時生産性向上活動か?となってしまいます。

能力や工数を評価するやり方が現場で共有されていますか?

モノづくりと共に欠かせないスキルです。

 

2つの仕組みが必要です。

・現場の生産能力を評価する仕組み

・受注した案件の所要工数を評価する仕組み

現場改革はここからです。

 

 

 

 

 

●大日程計画、中日程計画、小日程計画を使い分ける

能力と工数が明らかになれば、生産数量と生産時期をスケジュール化できます。大中小、3つの生産計画です。

大日程計画は1年間程度、中日程計画は3ヶ月間程度、小日程計画は3日間程度。

貴社ではこれらを使い分けていますか?

 

持ち場立場で使う生産計画が異なります。現場が大日程計画で頭を悩ますことはありません。また、経営者が小日程計画で頭を悩ましているようでは先が思いやられます。

 

経営者の関心事は付加価値額の規模です。いつどの程度の付加価値額を積み上げるか?見通しが必要です。

 

したがって、付加価値額を積み上げる計画が生産計画に他なりません。生産計画立案の判断基準は、経営者が年間で積み上げたいと考えた付加価値額です。豊かに成長発展させる固定費を回収しなければなりません。

 

 

 

1年間に6億円の付加価値額を積み上げる必要があるとします。1ヶ月当たり5,000千万円です。付加価値額率を50%として、1ヶ月で売上高1億円分の仕事をこなさないとなりません。そうしないと会社も従業員も豊かに成長発展できないのです。

 

したがって、経営者は1週間で売上高2,500万円程度の仕事をこなすよう工場長以下現場へ指示することになります。指示した仕事量(=積み上げたい付加価値額)をこなすための作戦書が生産計画なのです。

 

 

 

現場でリーダーの話を聞いているとしばしば耳にする言葉があります。

「忙しくて仕事が入らない。」

この言葉自体、非難されるものではありません。任された仕事の納期は守らないといけないと考えているからです。納期感覚はあります。

 

ただし、わたしたちは納期遵守のために事業をしているわけではありません。少しでも多くの付加価値額を積み上げるために事業を展開しているのです。

「仕事が入らない」は豊かな成長発展を自ら捨てる言葉とも言えます。現場はそのことに気付いていません。モッタイナイことです。

 

お客様は、数ある競合の中から、貴社を選んでくれました。そうであるなら、要望になんとしてでも応えたくなります。

黙っていても受注が舞い込む時代ならそれでも構いません。お客様を選べます。アフターコロナで不安定要素が高まる中です。「外」に合わせて「内」を変えます。

今までの見方では「仕事が入らない」かもしれません。そこで、お客様の要望になんとか応えようと、一肌脱ぐ心意気のある人材を中心にチームが知恵を絞るのです。

 

・詰めて、空ける。

・前倒し生産して、さっさと終わらせる。

・納期を交渉して全ての計画を押し込む。

・明らかに生産能力以上なら外注で乗り切る。

 

チームで知恵を絞れば、火事場の馬鹿力も生まれます。

貴社の現場には受けた案件を強引にでも押し込む姿勢がありますか?

 

「納期遵守」は大事です。ただ、残念まがら、それだけではもうかりません。今までのやり方で納期を守っていても人時生産性は向上しないのです。

現場へ人時生産性を高める論点を教え、実践させ、思考回路を共有します。「納期遵守」脳から「人時生産性向上」脳への転換です。

 

 

 

そのための道具が生産計画です。

3つの生産計画を使い分けていますか?

 

大日程計画(1年間程度):年間で積み上げる付加価値額を明らかにする

中日程計画(3ヶ月間程度):届いた受注をこなすために隘路事項を解消する

小日程計画(3日間程度):特急、突発をこなせるよう柔軟に変える

 

「大日程」で決めた利益計画を製販一体で、石にかじりついてでもやり切るために、ありとあらゆる手段でやり切るやり方を「中日程」で明らかにします。そして、特急、突発をこなせるよう日々の作戦を「小日程」で柔軟に変えるのです。

 

「小日程」は変えるために計画を立てています。これが詰めて、空けて、取り込む現場の思考回路です。

 

「大日程」を遵守します。死守です。利益に対する経営者の意思だからです。そのために「中日程」「小日程」を変えます。

「大日程」は戦略、「中日程」「小日程」は戦術。戦略は譲れないモノ、戦術は戦略のために変幻自在に柔軟に変えるモノ。この構造を現場に教えます。

 

貴社はこれと逆になっていませんか?「忙しくて入らない」という判断に基づいて、日程が埋まった「中日程」「小日程」を遵守し、「大日程」を変えていませんか?

現場が「納期遵守」脳にやられています。

思考回路を変えてあげなければなりません。

 

 

 

 

 

そもそも、わたしたちはなんのために事業をしているのか?

付加価値額を積み上げるためです。

企業はゴーイング・コンサーンでなければなりません。

 

中小製造企業は技術の進化と競合の追い上げという2つの変化とも戦っています。「納期遵守」だけでは生き残れません。

競合と同じ事をやっていても儲からないのは商売の基本です。現場へはこうした視点も教える必要があります。事業のステージを高める論点です。

 

「納期遵守」脳にとりつかれて、「忙しくて入らない」現場のままでもいいですか?

「人時生産性向上」脳をフル回転させて、詰めて、空けて、取り込んでやろう!と挑戦する現場に変えませんか?

 

大手のイイどこ取りをやれば実現できます。

 

次は貴社の番です!

 

成長する現場は、「人時生産向上」脳をフル回転させ、詰めて、空けて、取り込む。

停滞する現場は、「納期遵守」脳で考え、従来のやり方まま忙しくて入らないを連発する。