「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第229話 現場が高めるべきあらゆるスキルの土台となる能力とは?
「結局、ここに書かれていることは私の課題ですね。」
20人規模、部品加工企業経営者の言葉です。
今月、経営改革に着手しました。右肩下がりの売上を増やすには?今までの属人的な仕事のやり方を変えるには?「外」と「内」に課題を抱えています。
多様な課題が浮かぶ中、本質的な課題は何だろうか?と議論を重ねて出てきたのが冒頭の言葉です。
モノづくりのノウハウは全て経営者の頭の中にあります。現場と共有されていません。したがって、経営者のノウハウ、スキルを現場へ伝えることからです。
今まで「見て憶えろ」、「感じて判断せよ」というやり方でした。風通しの良さを肌で感じる現場ですが、これは、ある意味でコミュニケーションの問題です。
経営者のノウハウを現場へ伝える手段が無いからです。
仕組みの本質は判断基準の共有にあります。
個力ではなく、チーム力で仕事をするためです。具体策は手順書やマニュアル、トリセツです。仕組みがあれば現場は自主的に回ります。経営者は社長業に専念できるのです。
前職で勤務した工場は200~300人規模でした。工場のトップや部門長、課長は人事のローテンションで変わります。上司はコロコロ変わるということです。
それでも現場は盤石です。上が変わったからと言って現場が揺らいだのを見たことがありません。非常時、非定時、混乱する場面があっても現場主導で乗り切ります。
現場から「上が決めていなかったから」とか「上司からの指示がなかったから」という言い訳は聞こえてきません。
なぜか?
その答えが仕組みです。
VUCAと称される先が見通せない時代に変わりました。従来のように、黙っていて受注がどんどん舞い込むことはありません。
時代の流れに翻弄されない「儲かる構造」を持つ必要があります。貴社独自の仕組みです。これからは仕組みづくりのスキルが問われます。
専門知識やITリテラシーなど求められるスキルは多様です。中でも優先度高く磨き上げたいのがコミュニケーション能力です。あらゆるスキルを活かす土台になります。
コミュニケーション能力とは現代版「読み書きそろばん」です。貴社現場の「読み書きそろばん」はどうですか?
例えば、会議や議論をするにもコミュニケーション能力が必要です。チームで結論を出し、議事録にまとめ、次回への課題を明らかにする・・・。
現場で修得済でしょうか?出来なければトレーニングです。コミュニケーション能力はスキルですから、訓練で身につけられます。
読む:相手の言いたいことを理解する力
書く:伝えたいことを言語化する力
そろばん:数値で表現する力
人時生産性向上活動は経営改革です。構造を変えます。戦略の立案は経営者ですが、戦術の実践は現場です。経営者の示すロードマップにしがたって現場は実務を進めます。
現場のキーパーソンへ生産管理3本柱とIEの手順を提示しながら、独自のやり方を探るわけですが、ここから先は、経営者と現場の頑張り次第です。
まずは、コミュニケーション能力が問われます。そうした中、ご支援をしていると、キラリと光るコミュニケーション能力を持つ現場キーパーソンと出会うことがあります。
固定費VS付加価値額の構造を知ってもらいましょうと、数値を図示化するやり方を伝えたとき、固定費は伝わり難いと考え、別のやり方で見事に図示化し、現場へ知らせた現場リーダーがいます。
また、ロット設計をやり直して、新たな流し方を現場へ教え、リードタイムを2~3日から1日以下へ短縮した現場スタッフもいます。
さらに、中小現場の管理者時代、品質クレーム対策で新たなルールを決めたことがあります。そのとき現場に抜き取り検査頻度の論理的背景を理解してもらう必要がありました。
当時、右腕役として現場を引っ張ってくれていた30代リーダーがいましたが、そのリーダーに工程能力の考え方を知ってもらうことからです。
当初「う~ん」と唸っていました。が、その後、数値の理解に努めてくれて、現場へ説明する水準に至ってくれたのです。
こうした現場のキーパーソンは素直に耳を傾けてくれます。こちらのことを受け入れる姿勢を示してくれないことには何も始められません。
そして、理解しようと努めてくれます。その時、分からなくてもイイのです。新たな知識なので知らなくて当然です。
そして、理解したことを現場の一人ひとりへ伝えます。自分が新たに知ったことを言語化、図示化して理解してもらうのです。儲かってなんぼですから数値の話も避けられません。
ご支援をする中で、こうしたコミュニケーション能力に長けているキーパーソンに出会うと嬉しくなります。せっかくの機会なので多くのことを伝えたくなるものです。
読む:相手の言いたいことを理解する力
書く:伝えたいことを言語化する力
そろばん:数値で表現する力
先天的に、これらの能力に恵まれている人材はいます。現場にそうした人材がいるなら大いに喜ぶべきです。活躍できる環境を整備してあげてください。
そんな人材はいないよ!という声も聞こえてきそうですが、問題はありません。後天的に磨けるからです。コミュニケーション能力は意図的に計画的に高めるスキルでもあります。
経営者の意思次第です。
先の企業では経営者が持つ技術ノウハウを言語化することに挑戦です。チーム力で人時生産性向上活動を実現させるためです。
納期遵守からリードタイム短縮へ。実践を通じて、コミュニケーション能力を高めます。話し言葉や文字、数字を正しく使う力が言語化する力です。「書く」ことに通じます。
「背中をみて憶えろ」という時代ではなくなりました。次世代へ伝えるには「言語」が不可欠です。そして、言語化の先に図示化、ビジュアル化があります。
誰にでも伝わる言語化の力が問われます。言いたいことを伝えるのではなく、相手が知りたいことを伝える力です。個力ではなく、チーム力で大きな成果を出したいからです。
先の企業には、先代、先々代から培ってきた風通しのいい現場があります。ただし、少数精鋭の中小現場のご多分に漏れず、納期に追われ、仕事をさばくことに注力してきました。
技術や技術のノウハウは経営者を含めて、個々の中に埋もれた状態です。これを次世代のために言語化します。チーム力を活かすためでもあります。
コミュニケーション能力を向上させながら、付加価値額生産性アップを狙う取り組みです。工場経営の本質は経営者の想いを、他人を通じて実現することにあります。
そうであるなら、経営者は他人を効率良く動かす環境整備をしなければならないのです。
コミュニケーションは自然にできるものだという誤った認識では、いつまでたってもチーム力は高まらず、改革も進みません。
経営者から次のような言葉がありました。
「今さら気が付いても遅いですよね。」
そんなことはありません。そもそも、気が付いていてもそのままの経営者が大部分です。決断して、やり方を変えようと具体的に一歩踏み出したモノ勝ちですから。思い立ったが吉日。
次は貴社の番です!
成長する現場は、現代版「読み書きそろばん」を活かし、チームで人時生産性を高める。
停滞する現場は、ノウハウが個々の中に埋もれた状態なのでチームで活かしようがない。