「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第230話 人が多すぎると指摘を受けたら何を思い浮かべるか?

「先生、“人が多すぎる”と言われたことがあります!」

個別相談をいただいた50人規模、産業装置メーカー経営者の言葉です。

 

その企業では、以前、外部の専門家に現場を見てもらう機会がありました。「現場に人が多すぎる。〇〇%の行動がムダだ。」との評価を受けたようです。

お話を伺って、次のように尋ねました。

「社長はどうお考えですか?」

 

多いのか?少ないのか?適切なのか?全ては判断基準次第です。人時生産性が基準となります。将来どこまで人時生産性を伸ばしたいのか?目論み次第です。

そこで、そもそも、多寡を判断する基準が明らかですか?と問いたかったのです。

 

 

 

 

 

専門家の言葉は現場の現状を正しく評価していたかも知れません。作業者の動きに焦点を当てた評価です。フローダイヤグラムや動作経済の原則に基づけばムダが見えてきます。

ムダを認識したら放置できません。コスト削減は、今も、これからもやり続けなければならない取り組みです。

 

しかし、コスト削減だけで成長発展するのは難しい時代になりました。独自の強みで事業を飛躍させたいと考えている企業です。これから新たな付加価値額を積み上げます。

 

ここで知らなければならないのは、さらに積み上げたい付加価値額の規模と積み上げに必要な工数です。分子と分母のバランス、つまり目標人時生産性です。人員多寡の判断基準もそこにあります。今の人時生産性と目標人時生産性を比べることからです。

 

 

 

 

 

先の企業では、現場が付加価値額積み上げの具体策を理解していなかったのかもしれません。やるべきことがはっきりしないので手持ち無沙汰になっていたのかもしれません。

この場合、人が多いのではなく、活かされていなかったと言うべきです。生産性向上のポテンシャルを有していながら、ベクトルが揃っていません。

チーム力MAXになっていないモッタイナイ状態です。

 

目で見える人の動きからムダを除去する観点は必要です。ただ、削減の時代から積み上げの時代に変わりました。

優先させたいのは積み上げのためにできることを現場へ具体的に示し実践させることです。少数精鋭の中小現場です。削減よりも積み上げに焦点を当てます。

赤字転落、業績悪化でリストラに走る大手とは本質的に異なる事業を展開しているのが中小製造企業だからです。

 

目標付加価値額ありきです。将来、どこまで付加価値額を積み上げるのかその規模感を設定します。これが経営改革のスタートです。

付加価値額の規模が見えてくれば、固定費も見通せます。 固定費を健全に成長させるのが中小の成長戦略です。人時生産性で儲ける力を計測します。

人員多寡の判断基準は人時生産性です。

 

 

 

 

 

人時生産性 = 付加価値額 ÷ 工数

人時生産性を高める2つの方針は下記です。

1)工数を減らす

2)付加価値額を増やす

 

分母を減らすか、分子を増やすかです。

ただ、将来投資の戦略から考えると、もうひとつあります。

3)工数を増やすが、それ以上に付加価値額を増やす

 

経営者視点なら事業成長発展の規模感は2倍、3倍です。2割、3割程度では改善活動の範疇となります。

1)だけの経営改革が行き詰まるのは明らかです。2)が取り組みの柱となります。ただ、さらにイノベーション的積み上げを狙うなら3)です。

 

新たな価値を獲得するために、“あえて”工数を投入します。将来投資です。

・既存のレイアウトを変更してリードタイムの大幅短縮を実現させる担当専任を配置する

・ベテランをラインから抜いて新技術の検討に当たらせる

・いつ何時でも、詰めて、空けられるように、特急、突発対応部隊を現場で巡回させる

などなど。

 

こうした人員は従来の工数計画ではムダと判断されます。しかし、将来投資であることを知っている経営者はムダとは考えません。

今の付加価値額ではなく、将来の付加価値額のためだからです。投資です。2倍、3倍を期待できます。

 

「人工生産」に徹するなら、ムダゼロです。両手作業分析や微動作分析というお作法があります。なにせ、儲けの源泉が「人工」です。

動作からムダを除去しなければ儲かるものも儲かりません。所定工数内で仕事を終わらせないと、次の仕事を入れられなくなります。

 

分単位、場合によっては秒単位の管理です。作業者が現場で製品を持ってウロウロなどは言語道断で論外!規模の経済を狙う大手で徹底しているのはこれです。

機械化、自動化、ロボット化で属人的な要素をドンドン排除しています。

 

 

 

 

 

ムダ取りは重要な論点です。が、これだけでは面白くありません。中小製造現場では、チーム力を活かして、付加価値額を積み上げる新たな挑戦をしたいのです。少数精鋭だからです。

 

・新たに積み上げたい付加価値額の規模は?

・将来投資としての投入工数はどれだけ?

将来投資の効果を人時生産性で評価します。新たな付加価値額創出の源泉は知恵です。3人寄ればチーム力が活きます。

チーム力で新たな挑戦ができない現場が将来どうなるかは言うまでもありません。

 

環境を整備すれば、現場は知恵を出して動き始めます。やるべきことがはっきりしていないので手持ち無沙汰になっているのではないですか?

ロードマップでベクトルを揃えられます。先の企業でもやるべきことがはっきりしてきました。次は貴社の番です!

 

成長する現場は、余剰人員を人時生産性向上のための将来投資に活かそうと考える。

停滞する現場は、人時生産性に興味がないので、余剰人員が放置される。